辿り着けない世界

和之

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祖父の思惑5

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 裕介の目的は観光ではない。大場さんから祖父の事を聞き出すことだ。そのせいか仏頂面でどうすると訊かれてしまった。
「高村家のように忙しい家は余り観光には行かないから、この際話の種に行ってみれば千里さんもそうですが美紗和さんとも話が弾みますよ」
 それもそうかもしれないと裕介は同意した。
「亡くなったおじいさんは、また典子さんをどうして呼び寄せたのですか」
「典子さんは家の事はよく知ってましたからね。特に離れに引きこもってしまったおばあちゃんの食事の好みを一番知っていたのは彼女です。千里さんはどうも味付けが適当なんですよ。先代とはそれでも話術で上手に躱していてもおばあさんには通じないですから、それで行くところがなかったら家へ来いと呼び戻したんですよ」
「まあ、そんなところか」
「だから食事の準備に千里さんは、典子さんに付きっきりなんですよ。まあそう言う家族ですから東尋坊なんて行きませんよ。裕介さんがいい例ですよ」
「だから何が凄いんだ」
 見れば分かります、と大場さんは説明しなかった。裕介も深入りはしなかった。この辺の遣り取りが坂部には長年の年季を感じさせる。そこへどうやって割り込むか。
「高村から聞きましたが、飛騨の出身何ですね」
「そうですがこの歳ですから帰っても誰もいませんよ」
 還暦を前にして流石にそれはないだろう。おそらく兄弟達はみんな独立して家庭を持っているんだろう。そんな所へどの面下げて帰れと云うのかと、ハンドルを持つ大場さんの後ろ姿からそんな哀愁が漂ってきた。
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