辿り着けない世界

和之

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帰郷2

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「それで全員か」
「ああ、あと三つか四つの子供が二人居る。一人は兄夫婦の子でもう一人はお手伝いさんの子だ」
「お手伝いさんの子 ?」
「典子さんだが、家ではのりちゃんと呼んでる。今年で確か二十四歳になる子持ちだ」
「大人なのにちゃん付けか、そしてシングルマザーか」
「そうだ」
「どうして子持ちのシングルマザーをお手伝いさんに呼んだのだ」
「去年に亡くなったおじいちゃんが三、四年前に呼んだ」
「それって子供が生まれた頃だよねぇ。それでお手伝いさんと亡くなったおじいちゃんとはどう言う関係だ」
「典子さんは死んだ祖父の親戚の娘だが、それを祖父が呼んだ理由は俺には良くわからないんだ。それに今では頼りすぎて彼女が居ないと何処に何があるか分からないから家がむちゃくちゃになるんだ。それでみんなは訊かないし彼女も言わない」
 それで夏休みにだけ来たお前なら家のもんじゃないだけに、聞けば言ってくれるかも知れない、と云う処をみると訳ありなのか。
「それはどう言うこっちゃ」
「嗚呼、電車が来た」
 そこで二人はホームに入り減速する列車を見詰めた。電車は静かに滑り込むようにキッチリと指定された乗車番号の停車位置に立つ二人の前にピタリと停止した。
「生活の苦労のない連中が住む家では、こうもピッタリと合わせてくれないぞ」
 警告か忠告か解らない言葉を発して、高村が先に乗り込んだ。なるほど俺が実家に帰郷すればみんな手分けして部屋を明け渡す準備に追われる。そんな余裕のない坂部家との内情の差がこれで一目瞭然と云う訳か。
「そんな神妙になるな、それだけに別な意味でお前を歓迎してくれると云うこっちゃ」
 二人は荷物を棚に上げると指定席に座り込んだ。プラットフォームを離れてトンネルを抜けると琵琶湖が見えて、直ぐに腰まで伸びた稲穂が波打つ近江平野が車窓に広がった。




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