辿り着けない世界

和之

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坂部の事情2

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 これは有り難い申し入れで、いっときとはいえ自室を占領された実家の現状を見れば頭が下がる思いだ。それほど坂部の実家は、多い兄弟の為に空けておく部屋はなかった。だがそんなに部屋数で困窮していることは高村に言ってない。この頃には昔より良くなっていたが、家は改築もしていないから現状はそのままだ。それでも実家の状態については見栄もあり、少しは無理して余裕のあるように高村には喋っていた。
「だからそう言う屋敷は、仕来《しきた》りとか作法が在るんじゃないのか」
「アホか君は、世間を知らんのか。籠の鳥か、山陰が幾ら田舎でもそんな一昔前と今とは違《ちゃ》うやろう」
 そうかも知れんが、田畑は手に入っても、家の近所は殆どが大家の土地で、大半が借家暮らしだ。それで近所では当番制で子供達が、昔は大家の家の庭掃除をさせられた。家に上げてもらうときは行儀よくさせられた。それでもみんな黙っていた。なんせあの家に六人も兄弟が居るから二人で狭い一部屋を使っている。だから一人で物思いに耽る場所はなかった。その所為《せい》でもないが、高村と同じように本だけはよく読んだ。
「別にそんな仕来りはないよ。俺の食べ方を見て判るだろう」
 高村の洋食はナイフとフォークを使うところは、食べやすいサイズに切り分けるだけであとは割り箸を使って食べていた。最初はマナーがなってないのかと思ったが、そうでもない。高村なりに食べやすければ良いと気にしていない。
「坂部、お前とはいつも学食で会ってるから俺が洋食でナイフとフォークを持つのは最初の切り分けであとは箸で食べている。その方が食べやすいからだ。同じように飾り立てる男より、素朴な坂部の人柄が気に入ってるから此の夏の帰郷に誘ったのだ」


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