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第8話 まだ湖畔にて・・・

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ネーベラがワイルドボアの肉は一晩血抜きが必要だから、今日は出せないと言っていた。
アロンで水切りとかしたせいで、魚も逃げちまい、人数分獲れなかった。
で、夕飯は少ない魚を細切れにしたものと、アロンが摘んできた野草と、買い込んで余っていたタカの実を煮込んだスープ雑炊みたいな料理。
何となくみすぼらしい感じはしたが、仕方がない。旅の途中できちんと食材を手に入れられなかった俺たちが悪い。
悪いんだが、美味いんだよ、ネーベラの料理はやっぱり。なんで、これっぽっちのもので旨味とコクが出るのか謎。
片づけがてら、美味い飯の感想でも言おうとネーベラの元に行くと、何やら悩んでいる様子。
「夕飯、うまかったぜネーベラ。んで、何か悩み事か?」
「ありがとうございます、ユウ。実は…ワイルドボア一頭分の肉って結構量がありますでしょ」
あぁ、軽自動車サイズだもんな。
「それで、次の町に行くまでの時間も限られていますし、干したりして保存用に加工している時間がないかも、と」
「移動中に干すとかできないのか?」
「竜車に生肉ぶら下げて移動するのは危険なんです」
「あ、あぁ、そうか、サファリパークのライオンバスみたいになっちゃうか」
「さふぁ?」
「あ、いや、こっちのことだ。とにかく出来ないので、何か手段はないかと悩んでいる、と」
「えぇ」
「うーん、肉の保存…燻製ってのは、こっちの世界じゃまだ無いのか?」
「くん、せい?」
「無さそうだな。要は香りの良い木を燃やした煙に肉を当てて、香りづけと乾燥を同時にやる方法だ。あらかじめ、肉には塩や香草で味や香りづけしてからな」
「つまり低温でじっくり火を通していく、と」
「多分、そう。干すよりは早く乾くだろうし…俺も詳しいわけじゃないから、半端なアドバイスでごめんな」
「いいえ、試してみる価値はありそうです。煙に当てるのはどんなやり方をするか、ご存じ?」
「うろ覚えだが…」
と、以前キャンプ特集とかで見た燻製のつくり方を思い出しながら、燻製機の概要を地面に描いて見せた。
「ありがとう、ユウ。ちょっと突貫で出来ないかデニガンに相談して、出来るようなら、出発をもう一日だけ伸ばしてもらうよう、座長に交渉しますわ」
と言うなり、ドタドタと走り出していった。
狩猟メインなら、獲物の保存方法も色々あってよさそうなもんだが、邪神がはびこる世界だ、何か中途半端な部分があっても不思議じゃない。
しばらくすると、デニガンが俺も元にやってきて
「わしの手間を増やすアイデアばかり出しおって」
と、小突かれた。
ごめんね、デニガン。その分、アロンをこき使ってね、デニガン。
「お前はヒカリムシ集め、やっとけよ」
「あいよ」
いずれ、これもアロンにやらせてやる、ちくしょうめ。

ネーベラとデニガンがバタバタしてるうちに、ヒカリムシでも獲る準備すっか。
「カーラ!」
「はーい!」
いきなり草むらから飛び出してきやがった。
「おまえ、俺のこと、尾行したりしないよな?」
「…してないよ」
してるな、こいつ。怖いよ、ストーカーだよ。
「そのことは後で問い詰める」
「えー?ベッドで?」
「お前がいないところでどうしろってんだ?」
「わざと言ってるでしょ」
「おまえもな」
「ふー、ユウがイケずなのはわかってるからいいもん」
「じゃあ、説明するぞ」
「え?何の?」
「夜、かがり火を焚いて、テントの前にいると、結構な数のヒカリムシが飛んでくるから、それを黙々と捕らえて、袋に溜めていく。以上だ」
「え?それって、ユウとメルが大好きな作業じゃないの?あたしがやっちゃって精神的に平気なの?」
なんで、こいつは不必要な口撃力を上げてるんだ?
「好きじゃないんだよ、別に。一座の売り上げ貢献のために、頑張ってただけだからな」
「えらーい。ユウってば」
「おまえのそのあしらい方、師匠はルリハか?」
「なんでわかんの?」
「カーラらしく無いからな」
すると、ガバっとカーラが抱き着いてきた。
「なんなんだよ」
「もー、あたしのことわかりすぎ。抱いて。乱暴でもいいから」
グリグリと身体も顔も押し付けてきやがるので、こっちも、アレだ。男だしさ…
「離れなさい、このエロ娘!」
と、いつの間にか現れたメルが俺からカーラを引っぺがした。
「もう邪魔しないでよ焼きもちエルフ!」
「誰が焼きもちなんて」
「ユウもその気になってきたのに邪魔しないで!」
「ちょっと、ユウ、ほんとなの?」
俺は黙ってそっぽを向いた。嘘とは言えない。だって男の子だもん。
「もう、手が空いたから授業してあげようと思ったら」
「どんなエロ授業する気なのよ、スケベエルフ」
「カーラ、あんたねぇ」
二人の女から取り合いされるのなんて男の夢?いいや、単なる地獄じゃねぇか。
「おまえらな。ほら、もうじき暗くなるから準備をだな」
「「何する気よ!」」
「おまえらが今考えたこと以外のことだよ、馬鹿野郎」

結局3人でヒカリムシ集めをする羽目になった。

昆虫採集に勤しむ俺たちを、マクセルがデニガンが呼んでいると呼びに来た。
「離れるなら、一旦篝火消す?」
とメルが聞いてきた。
「あぁ、その方がいいな。ヒカリムシも充分取れたし」
なんなんだろう、このヒカリムシって、尋常じゃない量が獲れるんだが…逆に怖い。
数匹ならキラキラしてキレイな虫だが、ズタ袋いっぱいとなると気持ち悪い。中で蠢いてる振動が手に伝わってくるし。

「呼んだかい、デニガン?」
「あぁ、お前さんが指示した煙で肉を調理する箱が出来たんでな、見てほしい」
「いや、まぁ、俺も専門ってわけじゃないんだが…わかったよ、睨むなよ、言い出しっぺは俺ですよ、はいはい」
で、見ると
「テント一つ丸々かよ。よく座長が許したな」
「ワイルドボア一頭分じゃろ?チンケな箱なんざじゃ収まらんわ」
「だけど、これじゃ熱が回らんだろ?」
「その問題はルリハに頼んだ」
「ルリハ?え?」
「ユウ、あんたの思い付きは、あたいに手間をかけるためにあるの?」
「いや、え?」
「ルリハがテントの内側にプロテクトの魔法をかけて、熱でテント自体がやられないようにするんじゃよ」
「するんじゃよって、魔法あるの?使えんの?」
「そ、そりゃ、冒険者には必須のスキルじゃない?ダークエルフ…ハーフだけど、それくらいは」
「メル」
「ん?」
「魔法があるなら、教えろよ、あるってことを」
「え?ユウ、最初に目覚めたとき、火炎魔法でシーツ焼くとか言われてたし、言葉が通じるのも魔法だって理解してたじゃない」
…そういや、そうだ。あまりにも場当たり&体当たり対応が多すぎて忘れてた。そのあと、誰も使わないし。
「メル、お前って魔法使えんの?暗黒呪術とかじゃないやつ」
「使えるし、なんなのよ、暗黒呪術って」
「その魔法があれば、もうちょっとショーの方がマシになるようなやつ、無かったのか?」
「多分あると思うけど、ユウが指示しないから、別に言わなかっただけ」
「漂流者って、孤独だよな」
「孤独なら、あたしが慰めてあげるからぁ」
と、腕を絡めてくるカーラ。
「あのな…」
「おい、ユウ、こいつはもう、火ぃ入れちまっていいのか?」
うん、デニガン、マイペース。
「多分、それでやると、中で蒸し焼きになるだけだから、あえて熱を逃がす煙突とか」
「おぉ、そうだな、わかった。ぬん!」
と、デニガンがなにやら印を結ぶとテント脇の土が盛り上がり、見る見る煙突の形となった。
いや、もう突っ込むまい。
「なぁ、そういうこと出来るなら、テントじゃなく小屋状の物を作った方が良くないか?」
「おぉ、うん、大きい造形は疲れるんじゃよ」
「その若い見た目で、何が疲れるんじゃよ、だよ!」
気づかなかったことをごまかしてんの分かりやすすぎる。もう、燻製の理屈とかやるべきことは理解したっぽいから放っておこう。
もしかして冷凍魔法で肉を凍らせて保存とかも出来るんじゃあるまいか…言い出しっぺは責任取らされるから言わないけど。
「ほら、ユウ行こう」
と、カーラに腕を引っ張られて、その場を離れた。

そのまま、カーラに林の中に連れ込まれ、気づいたら、カーラと俺はキスをしていた。
「ん、んん、ぷはぁ、やっとキスできたぁ」
「え?カーラおまえ」
「ねぇ、あたしのアプローチ、冗談だと思ってた?あたしユウに本気の本気なんだよ」
いやいやいや、待て待て待て、まずいまずいまずい、俺も男だし、火を付けられたら止まれないし、そもそもカーラとそうなったって、誰が咎めるわけでもないし、いや、でも。
「はい、お二人さん、盛るのはそこまでにしましょうか。そして勉強の時間です、ユウ」
こいつもストーカーなのかな。
「メル、あんたなんで邪魔すんのよ!」
「わたしは、そちらの発情してる男性の方に、こちらの世界のことをよく教えてほしいと頼まれたので、その依頼を果たしに来たんです」
「だったら、こっちが終わってからにしてよ!」
「グラスウォーカーの発情は一晩中だと聞いていますので、終わりなんか無いでしょ?」
ん?ちょっと、色んな意味で怖いんだが。
「あ、ははは、うん、メル、そんじゃ勉強しよう。教えてくれ」
「ちょ、ユウ!」
正直、続きも恋しいが、搾り取られるまでは望んでないし、うん、カーラにはホント悪いけど。
「カーラ」
と、俺は、木を背にしたカーラに壁ドンならぬ木ドン。
「え?へ?な、に」
「軽々しく抱いて終わりにしたくないんだ。もっと、カーラ、そんでグラスウォーカーやこの世界のことをよく知ってから、な」
と、おでこにキス。
「ひゃい」
「ユウ、あんたねぇ!」
真っ赤になって座り込むカーラに、真っ赤になって怒るメル。
よし!問題先延ばし!
「行こう、メル」
「あのね、ユウ、あなたのしてることはね…」
ここで、うるさいとキスでメルの口をふさげるくらいの男に、俺はなれなかった。それは修羅の道だ。
「いいからいいから、な、勉強な、勉強」
と俺はメルの背中を押して駆け出すしかなかった。
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