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棚ぼた勇者

侵入者

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 クロエが風呂場に突入する1習慣ほど前のこと。

 王都にある酒場に、7人の男が集まっていた。

 彼らの前にはぬるいビールが注がれたジョッキが置かれているものの、飲もうとする者はいない。
 全員が何かに取り付かれたかの様に、テーブルの上に置かれた1枚の紙を見詰めていた。

「王印が押してあるってことは、拒否権なしの命令か?」

「あぁ、残念ながらな」

 彼らは全員が兵士。
 それも、魔法部隊に所属するエリート兵士だった。

 見詰める紙にはただ一言だけ、『勇者国の偵察を命じる』そう書かれていた。

「かーーーーー。マジかよ。ここって、あれだろ? 中隊が全滅したってうわさの場所だろ?」

「あぁ、そうだ。そこを見て来い、ってことらしい。偵察任務は得意だろ、と言われてな」

 リーダーを勤める男がため息を吐き出す。
 周囲からも批判の声がとんだ。

「しかもあれだぜ?? 殺人鬼の集団がいるとか、悪魔がいるとか聞いたぞ??」

「俺は奇跡の力をもらえる場所って聞いたけどな?」

「マジで行きたくねぇんだけど……」

 全員がお通夜のように顔を暗くし、自分の不幸を嘆いていた。

 そんな中で、リーダーの男が机を叩く。それを合図に、全員が顔を寄せた。

「その中隊だがな、全員が無傷で帰って来たって話しだ。
 上層部に聞いたから間違いない」

「はぁ? けど、うちの国が敗北したのは事実なんだろ? あれだけ堂々と宣戦布告されたわけだしな。
 なのに全員無事って、余計に意味わかんねぇよ」

「それも含めて見て来いって話しらしい。出来るならば勇者様の姿も拝んで来いってさ」

 さらなる不安要素に、男たちの顔が引きつった。

 だが、命令者は第2王子。行きたくないと駄々をこねても無駄だった。

「やるか、国に殺されるか、その2択か。やってらんねーな」

「そういうな。姿だけを見て、即座に帰宅だ」

「まぁな。敵を全滅させろって書いてないだけマシか」

「そういうことだ。準備を整え次第出発するぞ。まずは周囲の村に聞き込みを行なってから、敵本拠地に乗り込む」

「了解」

 そういうことになった。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆


 それから4日後。
 彼等は、ダンジョンがあると記された場所から程近い村で、勇者やダンジョンに関する情報を収集していた。

 しかし、その進捗状況は予想以上に悪い。

「……どういうことだ。なぜこんなにも軍を敵視している?」

 兵士であることを明かして、勇者の情報を求めれば、

『村から出てけ!! 2度と来るな!!』

 そんな言葉が返ってきた。

 軍に逆らえば、国への反逆とみなされる。
 
 国内での情報収集で手間取るなど、普通ならあり得ない話しだった。

「やつら、勇者って言葉を出しただけで目の色が変わるぜ。俺たちをよそ者だってわかってやがるしな。
 かーーーー、やってらんねぇ!!」

「酒場で聞こえてきた、勇者を褒め称える声が1番有力な情報って感じだな」

「あー、あれか。勇者様は我々に大量の肉をおわけくださった、ありがたやー、ありがたやー、ってやつな。
 敵をほめるなんてむかつくやつらだ、なんて思っていたが、そんな連中ばかりだぜ?」

「敵方の洗脳が進んでるってことか。これはいよいよもってまずいかもしれんな。
 俺たちに厄介ごとが振りかって来る前に出発するとしよう。敵地に乗り込む前に、ここの住民達と争うことになりかねん」

「だよなー。やつら、マジでやばい感じだったしよぉ。ほんとかどうかわかんねーが、入り口の土壁も勇者にもらったとか言ってたぜ??」

「土壁か……。ここはもう勇者の国なのかもしれん。明日、日の出と共に敵地を攻める。
 目的は敵の容姿を確認すること。それが出来次第、即座に撤退するから、そのつもりでな」

「あいよ」

 結局その日彼らが手に入れた情報は、勇者様マジすげー、と言う声ばかり。

 誰しもが不安を抱えながら、部屋の片隅で眠りについた。
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