25 / 118
朝飯の行方
しおりを挟む
「おにちゃーん、おねえちゃーん。朝だよー。おきてよーー」
逃亡生活3日目。
クロエの元気な声が、洞窟内に響き渡った。
洞窟の入口からは、葉の隙間を縫って太陽の光りが差し込み、辺りを明るく照らしている。
どうやら、今日も良い天気のようだ。
「……頭痛てぇ。昨日の戦闘並みに死にそう」
そんな天気やクロエのテンションと反比例して、俺の体調は最悪だった。
いつまた狼が襲ってこないとも限らない場所で寝るのは、普通に無理だった。
目を閉じることすらできず、辺りが明るくなるまでは、半ば見張りのような気分だった。
おかげで昨日以上に寝不足だ。
いくら若返った16歳の体とはいえ、寝不足が2日も続くと、かなり辛いものがある。
「すこし思うことがあるのだが、朝は起きるべき時間だとする一般的な考えを大幅に変更するべきだとボクは思うのだが、どうだろう」
「ぅぅぅぅ、太陽の癖して、アリスに断りもなく出てくるなんて、生意気なのよ。もう少し沈んでなさいよね」
無論、お姫様達も体調は良くないらしい。
俺と違って、彼女達は狼に脅えることもなく、眠ること自体は出来ていたようだが、歩き疲れや寝床の悪さもあり、十分な休息には成らなかったようだ。
「起きるよー、ごはんだよー。ごーはーんー」
クロエは相変わらず元気な声をかけてくれるが、今の体調では彼女のリクエストに答えることは不可能だ。
「悪いクロエ、マジ無理。もう少し寝るわ」
それでもさすがに無視はかわいそうだと思い、一言だけ断りをいれ、意識をまどろみに同化させていく。
「もー、私は、お兄ちゃんをそんな人に育てた覚えは無いよ? おーきーてーー」
近寄ってきたクロエに体を揺さぶられているようだが、眠いものは眠い。
人間、無理をしても良いことなどない。
人類は手間をかけずに良い物を作れるように走り続けてきた。
その結果が、機械であり、器具なのだ。
より楽な道を追い求めることこそが、人類の未来を豊かにしてきた。
ゆえに、堕落とは悪いことではなく、むしろ良い物で、推奨されるべき事柄なのだ。
したがって、今は寝るべき時間であることは、全世界が認める事実である。
「あと6時間だけよろしく」
「6時間っておかしいでしょ。もーー、すぐに起きなきゃ、先に朝ごはん食べちゃうよ? お兄ちゃん達の分残しといてあげないよ?」
「いいよ、あさごはんくら――!!」
朝御飯。
その言葉を聞いて脳が覚醒した。
気力で目を開き、ガバっと跳ね起きて、周囲を見渡す。
すると、視界の端っこの方で、ひょこひょこと歩き回る黒い物体を見つけた。
どうやら俺の相棒は、無事だったようだ。
「おはよ、お兄ちゃん。起きたなら、お姉ちゃん達を起して欲しいな。私じゃ無理そうなんだよね。
まさか、朝ごはん抜きにも動じない人がいるなんて、信じられない事態なんだよ」
クロエがカラスを虐殺してないか心配で跳ね起きたのだが、クロエは、朝ごはん抜きに驚いて跳ね起きたと思ったらしい。
純粋無垢な天使の笑顔をこちらに向けている。
心が痛い。
邪推した俺をそんな目でみないでほしい…………。
「わかった。サラとアリスは俺がおこすよ。
それよりクロエ。朝飯って、食材残ってたか? 肉は昨日全部食べたよな?」
「うん、お肉はなかったんだけど、お城から持ってきた大麦が少しだけ残ってたからお粥にしたよ。洞窟から出てすぐの所にゼンマイも生えてたから、おひたしも作ってみました」
朝早くに起きたクロエは、足りない食材を外で収穫して来てくれたらしい。
ほんと、疑ってごめんなさい。
心の中で深く反省し、未だ眠りから目覚めようとしないお姫様に声をかける。
「ほら、起きるぞ。早く準備しないと、命が危険だぞ。兄達が攻めてくるぞ」
「うぅぅ、もぉ、うるさいわよ。もう少し寝かせなさいよね。
どうしても起きてほしいなら、ちゃんとそれ相応の頼み方って物があるでしょ」
「頼み方ってなんだよ。土下座でもすればいいのか?」
「誰もそんなこと望んでないわよ。お姫様が寝てるのよ。普通、王子様のキスでしょ」
…………異世界にも、少女マンガとか、童話的な物語があるのか?
それに王子様って、俺ってそんな感じじゃないだろ?
とか思いながら、丸くなって眠るアリスに近づき、そっと頬に口付けをした。
すると、アリスが跳ね起きて、びっくりした表情を見せる。
「ちょ、な、なにするのよ!!
寝ているレディにき、キスするなんて、恥を知りなさいよね」
「……いや、アリスがキスしろって言ったんだろ?」
「うぅー、そ、そう、なんだけど…………。
ふん、いいわ。お望み通り、起きてあげるわよ。感謝しなさいよね」
しろと言われたことをしたら怒られて、さらには感謝しなければいけなくなったらしい。
これは、あれか? 俺が王子様じゃないから怒ってるのか?
ってか、この国の王子様って、思いっきり敵対してんじゃん。
……まぁ、いいや。相手はアリスだから、あまり深く考えないことにしよう。
「ほら、サラも起きろよ。
もう、寝てんの、お前だけだぞ」
「んー、そうだね。それじゃぁ、ボクは、お姫様抱っこを希望しようかな」
「いや、なんでだよ……」
しぶしぶ、サラをお姫様抱っこで運ぶ。
ようやく、全員揃っての朝食となった。
逃亡生活3日目。
クロエの元気な声が、洞窟内に響き渡った。
洞窟の入口からは、葉の隙間を縫って太陽の光りが差し込み、辺りを明るく照らしている。
どうやら、今日も良い天気のようだ。
「……頭痛てぇ。昨日の戦闘並みに死にそう」
そんな天気やクロエのテンションと反比例して、俺の体調は最悪だった。
いつまた狼が襲ってこないとも限らない場所で寝るのは、普通に無理だった。
目を閉じることすらできず、辺りが明るくなるまでは、半ば見張りのような気分だった。
おかげで昨日以上に寝不足だ。
いくら若返った16歳の体とはいえ、寝不足が2日も続くと、かなり辛いものがある。
「すこし思うことがあるのだが、朝は起きるべき時間だとする一般的な考えを大幅に変更するべきだとボクは思うのだが、どうだろう」
「ぅぅぅぅ、太陽の癖して、アリスに断りもなく出てくるなんて、生意気なのよ。もう少し沈んでなさいよね」
無論、お姫様達も体調は良くないらしい。
俺と違って、彼女達は狼に脅えることもなく、眠ること自体は出来ていたようだが、歩き疲れや寝床の悪さもあり、十分な休息には成らなかったようだ。
「起きるよー、ごはんだよー。ごーはーんー」
クロエは相変わらず元気な声をかけてくれるが、今の体調では彼女のリクエストに答えることは不可能だ。
「悪いクロエ、マジ無理。もう少し寝るわ」
それでもさすがに無視はかわいそうだと思い、一言だけ断りをいれ、意識をまどろみに同化させていく。
「もー、私は、お兄ちゃんをそんな人に育てた覚えは無いよ? おーきーてーー」
近寄ってきたクロエに体を揺さぶられているようだが、眠いものは眠い。
人間、無理をしても良いことなどない。
人類は手間をかけずに良い物を作れるように走り続けてきた。
その結果が、機械であり、器具なのだ。
より楽な道を追い求めることこそが、人類の未来を豊かにしてきた。
ゆえに、堕落とは悪いことではなく、むしろ良い物で、推奨されるべき事柄なのだ。
したがって、今は寝るべき時間であることは、全世界が認める事実である。
「あと6時間だけよろしく」
「6時間っておかしいでしょ。もーー、すぐに起きなきゃ、先に朝ごはん食べちゃうよ? お兄ちゃん達の分残しといてあげないよ?」
「いいよ、あさごはんくら――!!」
朝御飯。
その言葉を聞いて脳が覚醒した。
気力で目を開き、ガバっと跳ね起きて、周囲を見渡す。
すると、視界の端っこの方で、ひょこひょこと歩き回る黒い物体を見つけた。
どうやら俺の相棒は、無事だったようだ。
「おはよ、お兄ちゃん。起きたなら、お姉ちゃん達を起して欲しいな。私じゃ無理そうなんだよね。
まさか、朝ごはん抜きにも動じない人がいるなんて、信じられない事態なんだよ」
クロエがカラスを虐殺してないか心配で跳ね起きたのだが、クロエは、朝ごはん抜きに驚いて跳ね起きたと思ったらしい。
純粋無垢な天使の笑顔をこちらに向けている。
心が痛い。
邪推した俺をそんな目でみないでほしい…………。
「わかった。サラとアリスは俺がおこすよ。
それよりクロエ。朝飯って、食材残ってたか? 肉は昨日全部食べたよな?」
「うん、お肉はなかったんだけど、お城から持ってきた大麦が少しだけ残ってたからお粥にしたよ。洞窟から出てすぐの所にゼンマイも生えてたから、おひたしも作ってみました」
朝早くに起きたクロエは、足りない食材を外で収穫して来てくれたらしい。
ほんと、疑ってごめんなさい。
心の中で深く反省し、未だ眠りから目覚めようとしないお姫様に声をかける。
「ほら、起きるぞ。早く準備しないと、命が危険だぞ。兄達が攻めてくるぞ」
「うぅぅ、もぉ、うるさいわよ。もう少し寝かせなさいよね。
どうしても起きてほしいなら、ちゃんとそれ相応の頼み方って物があるでしょ」
「頼み方ってなんだよ。土下座でもすればいいのか?」
「誰もそんなこと望んでないわよ。お姫様が寝てるのよ。普通、王子様のキスでしょ」
…………異世界にも、少女マンガとか、童話的な物語があるのか?
それに王子様って、俺ってそんな感じじゃないだろ?
とか思いながら、丸くなって眠るアリスに近づき、そっと頬に口付けをした。
すると、アリスが跳ね起きて、びっくりした表情を見せる。
「ちょ、な、なにするのよ!!
寝ているレディにき、キスするなんて、恥を知りなさいよね」
「……いや、アリスがキスしろって言ったんだろ?」
「うぅー、そ、そう、なんだけど…………。
ふん、いいわ。お望み通り、起きてあげるわよ。感謝しなさいよね」
しろと言われたことをしたら怒られて、さらには感謝しなければいけなくなったらしい。
これは、あれか? 俺が王子様じゃないから怒ってるのか?
ってか、この国の王子様って、思いっきり敵対してんじゃん。
……まぁ、いいや。相手はアリスだから、あまり深く考えないことにしよう。
「ほら、サラも起きろよ。
もう、寝てんの、お前だけだぞ」
「んー、そうだね。それじゃぁ、ボクは、お姫様抱っこを希望しようかな」
「いや、なんでだよ……」
しぶしぶ、サラをお姫様抱っこで運ぶ。
ようやく、全員揃っての朝食となった。
0
お気に入りに追加
802
あなたにおすすめの小説
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜
よどら文鳥
恋愛
フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。
フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。
だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。
侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。
金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。
父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。
だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。
いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。
さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。
お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。
【完結】悪女のなみだ
じじ
恋愛
「カリーナがまたカレンを泣かせてる」
双子の姉妹にも関わらず、私はいつも嫌われる側だった。
カレン、私の妹。
私とよく似た顔立ちなのに、彼女の目尻は優しげに下がり、微笑み一つで天使のようだともてはやされ、涙をこぼせば聖女のようだ崇められた。
一方の私は、切れ長の目でどう見ても性格がきつく見える。にこやかに笑ったつもりでも悪巧みをしていると謗られ、泣くと男を篭絡するつもりか、と非難された。
「ふふ。姉様って本当にかわいそう。気が弱いくせに、顔のせいで悪者になるんだもの。」
私が言い返せないのを知って、馬鹿にしてくる妹をどうすれば良かったのか。
「お前みたいな女が姉だなんてカレンがかわいそうだ」
罵ってくる男達にどう言えば真実が伝わったのか。
本当の自分を誰かに知ってもらおうなんて望みを捨てて、日々淡々と過ごしていた私を救ってくれたのは、あなただった。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。
言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。
喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。
12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。
====
●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。
前作では、二人との出会い~同居を描いています。
順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。
※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる