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朝飯の行方

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「おにちゃーん、おねえちゃーん。朝だよー。おきてよーー」

 逃亡生活3日目。

 クロエの元気な声が、洞窟内に響き渡った。

 洞窟の入口からは、葉の隙間を縫って太陽の光りが差し込み、辺りを明るく照らしている。 

 どうやら、今日も良い天気のようだ。

「……頭痛てぇ。昨日の戦闘並みに死にそう」

 そんな天気やクロエのテンションと反比例して、俺の体調は最悪だった。

 いつまた狼が襲ってこないとも限らない場所で寝るのは、普通に無理だった。

 目を閉じることすらできず、辺りが明るくなるまでは、半ば見張りのような気分だった。

 おかげで昨日以上に寝不足だ。

 いくら若返った16歳の体とはいえ、寝不足が2日も続くと、かなり辛いものがある。

「すこし思うことがあるのだが、朝は起きるべき時間だとする一般的な考えを大幅に変更するべきだとボクは思うのだが、どうだろう」

「ぅぅぅぅ、太陽の癖して、アリスに断りもなく出てくるなんて、生意気なのよ。もう少し沈んでなさいよね」

 無論、お姫様達も体調は良くないらしい。

 俺と違って、彼女達は狼に脅えることもなく、眠ること自体は出来ていたようだが、歩き疲れや寝床の悪さもあり、十分な休息には成らなかったようだ。

「起きるよー、ごはんだよー。ごーはーんー」

 クロエは相変わらず元気な声をかけてくれるが、今の体調では彼女のリクエストに答えることは不可能だ。

「悪いクロエ、マジ無理。もう少し寝るわ」

 それでもさすがに無視はかわいそうだと思い、一言だけ断りをいれ、意識をまどろみに同化させていく。 

「もー、私は、お兄ちゃんをそんな人に育てた覚えは無いよ? おーきーてーー」

 近寄ってきたクロエに体を揺さぶられているようだが、眠いものは眠い。 

 人間、無理をしても良いことなどない。

 人類は手間をかけずに良い物を作れるように走り続けてきた。

 その結果が、機械であり、器具なのだ。

 より楽な道を追い求めることこそが、人類の未来を豊かにしてきた。

 ゆえに、堕落とは悪いことではなく、むしろ良い物で、推奨されるべき事柄なのだ。

 したがって、今は寝るべき時間であることは、全世界が認める事実である。

「あと6時間だけよろしく」

「6時間っておかしいでしょ。もーー、すぐに起きなきゃ、先に朝ごはん食べちゃうよ? お兄ちゃん達の分残しといてあげないよ?」 

「いいよ、あさごはんくら――!!」

 朝御飯。

 その言葉を聞いて脳が覚醒した。

 気力で目を開き、ガバっと跳ね起きて、周囲を見渡す。

 すると、視界の端っこの方で、ひょこひょこと歩き回る黒い物体を見つけた。

 どうやら俺の相棒は、無事だったようだ。

「おはよ、お兄ちゃん。起きたなら、お姉ちゃん達を起して欲しいな。私じゃ無理そうなんだよね。
 まさか、朝ごはん抜きにも動じない人がいるなんて、信じられない事態なんだよ」

 クロエがカラスを虐殺してないか心配で跳ね起きたのだが、クロエは、朝ごはん抜きに驚いて跳ね起きたと思ったらしい。

 純粋無垢な天使の笑顔をこちらに向けている。

 心が痛い。
 邪推した俺をそんな目でみないでほしい…………。

「わかった。サラとアリスは俺がおこすよ。
 それよりクロエ。朝飯って、食材残ってたか? 肉は昨日全部食べたよな?」

「うん、お肉はなかったんだけど、お城から持ってきた大麦が少しだけ残ってたからお粥にしたよ。洞窟から出てすぐの所にゼンマイも生えてたから、おひたしも作ってみました」

 朝早くに起きたクロエは、足りない食材を外で収穫して来てくれたらしい。

 ほんと、疑ってごめんなさい。

 心の中で深く反省し、未だ眠りから目覚めようとしないお姫様に声をかける。

「ほら、起きるぞ。早く準備しないと、命が危険だぞ。兄達が攻めてくるぞ」

「うぅぅ、もぉ、うるさいわよ。もう少し寝かせなさいよね。
 どうしても起きてほしいなら、ちゃんとそれ相応の頼み方って物があるでしょ」

「頼み方ってなんだよ。土下座でもすればいいのか?」

「誰もそんなこと望んでないわよ。お姫様が寝てるのよ。普通、王子様のキスでしょ」

 …………異世界にも、少女マンガとか、童話的な物語があるのか?
 それに王子様って、俺ってそんな感じじゃないだろ?

 とか思いながら、丸くなって眠るアリスに近づき、そっと頬に口付けをした。

 すると、アリスが跳ね起きて、びっくりした表情を見せる。

「ちょ、な、なにするのよ!!
 寝ているレディにき、キスするなんて、恥を知りなさいよね」

「……いや、アリスがキスしろって言ったんだろ?」

「うぅー、そ、そう、なんだけど…………。
 ふん、いいわ。お望み通り、起きてあげるわよ。感謝しなさいよね」

 しろと言われたことをしたら怒られて、さらには感謝しなければいけなくなったらしい。

 これは、あれか? 俺が王子様じゃないから怒ってるのか?

 ってか、この国の王子様って、思いっきり敵対してんじゃん。

 ……まぁ、いいや。相手はアリスだから、あまり深く考えないことにしよう。 

「ほら、サラも起きろよ。
 もう、寝てんの、お前だけだぞ」

「んー、そうだね。それじゃぁ、ボクは、お姫様抱っこを希望しようかな」

「いや、なんでだよ……」

 しぶしぶ、サラをお姫様抱っこで運ぶ。

 ようやく、全員揃っての朝食となった。
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