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38 お祭りの準備 2

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“ 魔物は自身の肉体を、魔力で強化している ”

“ 討伐後もその魔力は残り続け、強力すぎる物は加工の妨げになる ”

 そう書かれたページを開き、俺は会長に向けて微笑みかけた。

「獣と魔物の違いは、魔力の有無。なので、魔物の肉から魔力を抜きました」

 テーブルに置かれた皿の蓋を開け、持ち込んだ料理を見せる。

 肉を薄く切り、フライパンで焼いて塩をふっただけのシンプルなもの。

「彩りのために、薬草を炒めた物も添えてあります」

「……魔物の種族をお聞かせいただけますか?」

「魔石くらいしか使い道のない、ゴブリンの肉ですね」

 多くの肉を穫れる訳ではないが、これまでは捨てていた物だ。

 街に近い森でも魔物を見るようになり、猟師が穫る肉は減り続けている。

 畜産業も、魔物に追われ規模を減らしているのが現状だ。

「我々はこの肉を無料で配る予定です。新たな市場を開拓するための先行投資ですね」

 食べられる物だとみんなが知れば、売り物になる。

 食糧不足の男爵量では貴重な、タンパク源になってくれる。

「どうでしょう? 利益が見込めそうだと思いませんか?」

「……ええ、貧困に苦しむ者には売れ、それなりの取引には――」

「いえ。我々は、高級食材として扱う予定でいます」

 目を見開く会長を尻目に、俺はフォークを手に取る。

 肉を突き刺し、そのまま口に運んだ。

「なっ――」

「手記にあった通り、神が与えてくれたと思わせる味ですよ」

 さっぱりとした口当たりで、変な臭みもない。

 男爵家で出される堅い肉より、俺としては断然こっちの方が好みだ。

 日本の焼き肉チェーンで出される鶏ささみ!!

 高級店には行ったことがないからわからないが、食べ放題店が相手なら引けを取らない!!

「フェドナルンド副隊長様!? お体の方は――」

「問題ありませんよ。食べられることは事前に確認しておりますので」

 でなければ、こうして持ち込んだりしない。

 会長も理解はしているのだろうが、ずっと致死性の毒だと思っていたものだからな。

 自分の街の貴族が突然食べ始めたんだ。

 驚くなという方が無理だろう。

「ん? ミルトも食べるか??」

「う、うん。新設部隊の隊長として、大きなお肉を、食べても、いいよ……?」

「はいはい。承知いたしました」

 最初はネズミで実験して、自分で試して、レン伍長に食べてもらう。

 そうして最終的にミルトに食べてもらったが、その味に一番ハマったのは彼女だ。

「せっかくだから俺が食べさせてあげるよ」

 肉に薬草を乗せて、ブスリとフォークで刺す。

 恥ずかしそうなミルトの方を向いて、俺はフォークを口元に近づけた。

「あーんって口を開けて」

「……あーん」

 頬を赤らめたミルトが、大きな口を開けてパクンと食いつく。

 やわらかい肉と薬草を噛みしめて、幸せそうに頬を緩ませた。

「見かけによらず、食いしん坊だよね。ミルトは」

「……おいしいのが悪いんです」

 プイっと顔を背けたミルトの首筋が、赤く染まる。

 知的で可愛い美少女だけど、12歳だからな。

 ササミは健康にいいし、いっぱい食べて大きく育てよ。

 まあ、食べているのはゴブリンの肉なんだけどな。

「御覧の通り、扱いに気を付ければ安全で、男爵家の姫をも虜にする味です」

「……どうやら、そのようですね」

 男爵家の入り婿が食べて、直系の姫様も目の前で食べた。

「会長も味見をしていただけますか? きっと、気に入るはずです」

「そっ、そうですな」

 レン伍長が、持ち込んだフォークとナイフを会長の前に並べる。

 街での立場や今後の付き合いを考えると、食べる以外に選択肢はない。

 会長は震える手で、フォークとナイフを握ってくれた。

「存分にお召し上がりください」

 会長の目には、俺が魔人か悪魔にでも見えていることだろう。

 猛毒を持つ、フグの卵巣。

『人間を30人くらい殺せる毒があるけど、酒の粕に3年つけたから大丈夫! マジで旨いぞ!!』

 そう言われても、食べるのには躊躇した。

 技術が発達した日本ですらそんな感じだからな。

「それでは、ありがたく、頂戴いた、します……」

 ナイフで肉を小さく切り、ゆっくりと口に運ぶ。

 副菜は乗せずに、肉だけを食べるらしい。

 多くの商会を取りまとめている者だけあって、思い切りはいいようだ。

「……これは」

「どうですか? 案外、良い肉でしょう」

「ええ! さすがはミルトレイナ様に認められた肉ですな!」

 会長はそう言いながらも、次の肉には手を着けない。

 あとは、全員の体調変化を見てから。そんな感じだろう。

 このあたりの慎重さも、俺は嫌いじゃない。

「先に答えを伝えます。魔物の肉は時間をおくと魔力が抜ける。その期間はおよそ1ヶ月」

「なるほど。それで手記の御仁は」

「ええ。戦で身を隠す生活であれば火を使うのもはばかられますからね」

 焼き払うだけの気力もなく、放置していた魔物の肉に手を着けた。

 その結果、たまたま魔力が抜けた肉を食べれたのだろう。

「魔力が宿る期間は腐らず、虫に食われる心配もありません」

 ゆえに、冷蔵庫や塩がなくても、長期保存がきく。

 印象は悪いが、野ざらしでも平気だ。

 生肉としては、破格の性能だろう。

「そうして食べたいときには、それを使います」

 俺はフォークから手を離し、皿に盛られた薬草を指さす。

「我々の領地であればどこでも採れる、それを」

「……失礼ですが、男爵様はこのことを?」

「もちろん知らせてあります。それで資金なのですが、いくらほど貸していただけますか?」

 商人らしい顔をする会長に向けて、俺は優雅に微笑みかけた。
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