31 / 55
31 論功行賞
しおりを挟む
男爵家にある大広間。
俺とミルトは豪華な衣装を身に着けて、横並びに立っていた。
背後には一緒にゴブリンを狩った兵たちがいて、療養中の兵や街の要人、使用人たちも詰めかけている。
「これより、論功行賞を執り行う」
「ミルトレイナ様、フェドナルンド様、前にお進みください」
進行役の言葉こそ仰々しいが、周囲にいるのは男爵家の身内だけ。
査定される戦果に関しても、戦った相手は最弱のゴブリンだけだ。
(男爵様もお優しいわね。式典を開いて初陣をほめてあげるなんて)
(可愛い娘と婿様が挙げた初めての成果だもの。それにあれじゃないかしら、作法の確認?)
(可愛いおふたりが無事に帰られて良かったわね)
周囲からの視線もそんな感じで、広間全体に和やかな雰囲気が漂っていた。
まあ、年齢を考えると、小学生の発表会みたいなもんだからな。
そう思いながらミルトと足を揃えて前に出る。
教えられた作法にのっとり、男爵の前で片膝をついた。
「二人とも、初陣での多大な成果、見事だった」
「ありがとうございます」
「はっ、はい……」
1段上がった場所に立つ男爵も和やかな雰囲気で、仰々しさを感じない。
ゆえに参加者も、微笑ましいものを見守る気分なのだろう。
そんな雰囲気を男爵がさらりと壊す。
「成果を確認する。2人だけの力で40を超える魔物を倒した。相違ないな?」
「はい」
「その通りです……」
不意に周囲がざわつき、使用人たちが目を見開く。
進行役が静粛を呼びかける中で、男爵がさらなる言葉を紡いだ。
「100体規模の巣に潜入し、2人の力だけで壊滅させた。こちらも相違ないな?」
「はい」
「その通りです……」
呆気にとられるように、大広間が静まり返る。
チラリと流し見たが、街の要人たちも驚きを隠せていない。
そんな中で、共に戦った兵たちだけが、なぜか誇らしげな笑みを浮かべていた。
「初陣であった二人の言葉を信じられぬ者もいるであろう。同行した者に説明させる」
そう言って指揮官が呼ばれ、進行役の隣に並ぶ。
何枚にも重なった紙を持ち、誇らしげに胸を張った。
「ミルトレイナ様が立案し、フェドナルンド様が実行された作戦により、我々は多大な成果を得ました」
狩りに出ていたゴブリンを釣り出し、危なげなく敵の数を減す。
巣の位置を見つけ、俺たちの力だけで敵の主力を壊滅させる。
「我々は、その残党を狩ったに過ぎません」
「うむ。今の説明に嘘はなかったと騎士の誇りに誓えるな?」
「もちろんです。嘘偽りはございません」
はじめから狙ってた訳じゃないけど、確かに嘘は言ってない。
『俺たち2人の力だけ』
『主力の殲滅』
大げさな脚色に感じるけど、今はこれがいいらしい。
「同行した者も、異論はないな?」
「「「ございません」」」
全員が声を揃えて、胸に拳を当てる。
参加していない兵や使用人、街の要人たち。
論功行賞に参加したすべての者が、俺たち2人を見詰めている。
「壊滅寸前の部隊を救った経緯も、ミルトレイナの助言あってのものだな?」
「はい。その通りです」
師匠たちを救った場にミルトはいなかった。
動揺した俺の単独行動がもたらした結果だ。
だが、錬金術の実験には、常にミルトの助言をもらっている。
これもウソは言ってない。
「聞いての通りだ。この二人は幼いながらも、高い能力を持っている」
和やかだった雰囲気がウソのように、大広間は静まり返っていた。
全員が固唾を飲む中で、男爵が威厳を込めて言葉を紡ぐ。
「よって。二人には然るべき地位と権限を与える」
すべてが事前に聞かされていた内容で、やっていることはお芝居だ。
どよめく観客たちを他所に、男爵が筆を走らせる。
豪華な羊皮紙に押印し、全員に見せるように掲げた。
「ミルトレイナを隊長、フェドナルンドを副隊長とし。少数精鋭の新設部隊を立ち上げる」
男爵を警護する親衛隊。
師匠や長男が指揮する討伐部隊。
次男が受け持つ諜報部隊。
それらに並ぶ形で、俺たちが新しい部隊を持つらしい。
「我が家の将来を占う重大な決定である。異論がある者は、この場で申し出よ」
参加者が顔を見合わせ、何も言えずにいる。
与えられた情報が多すぎて、正常な判断が出来ていない。
そんな感じに見える。
「ないようだな。ミルトレイナ」
「はっ、はい……」
練習した通りに両手で紙を受け取り、隊長を示す紋章を受け取る。
次いで俺も物を受け取り、恭しく頭を下げた。
「新設隊の役割に関しては追って通達する。式典は以上だ」
どうやら無事に終わったらしい。
「2人は私と共に来るように」
「承知しました」
そのまま逃げるように、男爵に誘導されて応接室を後にする。
「いいね! すごくよかったよ! 論功行賞に見せかけた新設部隊の押し付け、大成功だね!!」
全体像を描き、護衛の兵に扮していたルン兄さんが、満面の笑みで褒めてくれた。
俺とミルトは豪華な衣装を身に着けて、横並びに立っていた。
背後には一緒にゴブリンを狩った兵たちがいて、療養中の兵や街の要人、使用人たちも詰めかけている。
「これより、論功行賞を執り行う」
「ミルトレイナ様、フェドナルンド様、前にお進みください」
進行役の言葉こそ仰々しいが、周囲にいるのは男爵家の身内だけ。
査定される戦果に関しても、戦った相手は最弱のゴブリンだけだ。
(男爵様もお優しいわね。式典を開いて初陣をほめてあげるなんて)
(可愛い娘と婿様が挙げた初めての成果だもの。それにあれじゃないかしら、作法の確認?)
(可愛いおふたりが無事に帰られて良かったわね)
周囲からの視線もそんな感じで、広間全体に和やかな雰囲気が漂っていた。
まあ、年齢を考えると、小学生の発表会みたいなもんだからな。
そう思いながらミルトと足を揃えて前に出る。
教えられた作法にのっとり、男爵の前で片膝をついた。
「二人とも、初陣での多大な成果、見事だった」
「ありがとうございます」
「はっ、はい……」
1段上がった場所に立つ男爵も和やかな雰囲気で、仰々しさを感じない。
ゆえに参加者も、微笑ましいものを見守る気分なのだろう。
そんな雰囲気を男爵がさらりと壊す。
「成果を確認する。2人だけの力で40を超える魔物を倒した。相違ないな?」
「はい」
「その通りです……」
不意に周囲がざわつき、使用人たちが目を見開く。
進行役が静粛を呼びかける中で、男爵がさらなる言葉を紡いだ。
「100体規模の巣に潜入し、2人の力だけで壊滅させた。こちらも相違ないな?」
「はい」
「その通りです……」
呆気にとられるように、大広間が静まり返る。
チラリと流し見たが、街の要人たちも驚きを隠せていない。
そんな中で、共に戦った兵たちだけが、なぜか誇らしげな笑みを浮かべていた。
「初陣であった二人の言葉を信じられぬ者もいるであろう。同行した者に説明させる」
そう言って指揮官が呼ばれ、進行役の隣に並ぶ。
何枚にも重なった紙を持ち、誇らしげに胸を張った。
「ミルトレイナ様が立案し、フェドナルンド様が実行された作戦により、我々は多大な成果を得ました」
狩りに出ていたゴブリンを釣り出し、危なげなく敵の数を減す。
巣の位置を見つけ、俺たちの力だけで敵の主力を壊滅させる。
「我々は、その残党を狩ったに過ぎません」
「うむ。今の説明に嘘はなかったと騎士の誇りに誓えるな?」
「もちろんです。嘘偽りはございません」
はじめから狙ってた訳じゃないけど、確かに嘘は言ってない。
『俺たち2人の力だけ』
『主力の殲滅』
大げさな脚色に感じるけど、今はこれがいいらしい。
「同行した者も、異論はないな?」
「「「ございません」」」
全員が声を揃えて、胸に拳を当てる。
参加していない兵や使用人、街の要人たち。
論功行賞に参加したすべての者が、俺たち2人を見詰めている。
「壊滅寸前の部隊を救った経緯も、ミルトレイナの助言あってのものだな?」
「はい。その通りです」
師匠たちを救った場にミルトはいなかった。
動揺した俺の単独行動がもたらした結果だ。
だが、錬金術の実験には、常にミルトの助言をもらっている。
これもウソは言ってない。
「聞いての通りだ。この二人は幼いながらも、高い能力を持っている」
和やかだった雰囲気がウソのように、大広間は静まり返っていた。
全員が固唾を飲む中で、男爵が威厳を込めて言葉を紡ぐ。
「よって。二人には然るべき地位と権限を与える」
すべてが事前に聞かされていた内容で、やっていることはお芝居だ。
どよめく観客たちを他所に、男爵が筆を走らせる。
豪華な羊皮紙に押印し、全員に見せるように掲げた。
「ミルトレイナを隊長、フェドナルンドを副隊長とし。少数精鋭の新設部隊を立ち上げる」
男爵を警護する親衛隊。
師匠や長男が指揮する討伐部隊。
次男が受け持つ諜報部隊。
それらに並ぶ形で、俺たちが新しい部隊を持つらしい。
「我が家の将来を占う重大な決定である。異論がある者は、この場で申し出よ」
参加者が顔を見合わせ、何も言えずにいる。
与えられた情報が多すぎて、正常な判断が出来ていない。
そんな感じに見える。
「ないようだな。ミルトレイナ」
「はっ、はい……」
練習した通りに両手で紙を受け取り、隊長を示す紋章を受け取る。
次いで俺も物を受け取り、恭しく頭を下げた。
「新設隊の役割に関しては追って通達する。式典は以上だ」
どうやら無事に終わったらしい。
「2人は私と共に来るように」
「承知しました」
そのまま逃げるように、男爵に誘導されて応接室を後にする。
「いいね! すごくよかったよ! 論功行賞に見せかけた新設部隊の押し付け、大成功だね!!」
全体像を描き、護衛の兵に扮していたルン兄さんが、満面の笑みで褒めてくれた。
94
お気に入りに追加
102
あなたにおすすめの小説
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】
・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー!
十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。
そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。
その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。
さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。
柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。
しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。
人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。
そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。
ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!
桜井正宗
ファンタジー
辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。
そんな努力もついに報われる日が。
ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。
日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。
仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。
※HOTランキング1位ありがとうございます!
※ファンタジー7位ありがとうございます!
しっかり者のエルフ妻と行く、三十路半オッサン勇者の成り上がり冒険記
スィグトーネ
ファンタジー
ワンルームの安アパートに住み、非正規で給料は少なく、彼女いない歴35年=実年齢。
そんな負け組を絵にかいたような青年【海渡麒喜(かいときき)】は、仕事を終えてぐっすりと眠っていた。
まどろみの中を意識が彷徨うなか、女性の声が聞こえてくる。
全身からは、滝のような汗が流れていたが、彼はまだ自分の身に起こっている危機を知らない。
間もなく彼は金縛りに遭うと……その後の人生を大きく変えようとしていた。
※この物語の挿絵は【AIイラスト】さんで作成したモノを使っています
※この物語は、暴力的・性的な表現が含まれています。特に外出先等でご覧になる場合は、ご注意頂きますようお願い致します。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる