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31 論功行賞

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 男爵家にある大広間。

 俺とミルトは豪華な衣装を身に着けて、横並びに立っていた。

 背後には一緒にゴブリンを狩った兵たちがいて、療養中の兵や街の要人、使用人たちも詰めかけている。

「これより、論功行賞を執り行う」

「ミルトレイナ様、フェドナルンド様、前にお進みください」

 進行役の言葉こそ仰々しいが、周囲にいるのは男爵家の身内だけ。

 査定される戦果に関しても、戦った相手は最弱のゴブリンだけだ。

(男爵様もお優しいわね。式典を開いて初陣をほめてあげるなんて)

(可愛い娘と婿様が挙げた初めての成果だもの。それにあれじゃないかしら、作法の確認?)

(可愛いおふたりが無事に帰られて良かったわね)

 周囲からの視線もそんな感じで、広間全体に和やかな雰囲気が漂っていた。

 まあ、年齢を考えると、小学生の発表会みたいなもんだからな。

 そう思いながらミルトと足を揃えて前に出る。

 教えられた作法にのっとり、男爵の前で片膝をついた。

「二人とも、初陣での多大な成果、見事だった」

「ありがとうございます」

「はっ、はい……」

 1段上がった場所に立つ男爵も和やかな雰囲気で、仰々しさを感じない。

 ゆえに参加者も、微笑ましいものを見守る気分なのだろう。

 そんな雰囲気を男爵がさらりと壊す。

「成果を確認する。2人だけの力で40を超える魔物を倒した。相違ないな?」

「はい」
「その通りです……」

 不意に周囲がざわつき、使用人たちが目を見開く。

 進行役が静粛を呼びかける中で、男爵がさらなる言葉を紡いだ。

「100体規模の巣に潜入し、2人の力だけ・・・・・・で壊滅させた。こちらも相違ないな?」

「はい」
「その通りです……」

 呆気にとられるように、大広間が静まり返る。

 チラリと流し見たが、街の要人たちも驚きを隠せていない。

 そんな中で、共に戦った兵たちだけが、なぜか誇らしげな笑みを浮かべていた。

「初陣であった二人の言葉を信じられぬ者もいるであろう。同行した者に説明させる」

 そう言って指揮官が呼ばれ、進行役の隣に並ぶ。

 何枚にも重なった紙を持ち、誇らしげに胸を張った。

「ミルトレイナ様が立案し、フェドナルンド様が実行された作戦により、我々は多大な成果を得ました」

 狩りに出ていたゴブリンを釣り出し、危なげなく敵の数を減す。

 巣の位置を見つけ、俺たちの力だけで敵の主力を壊滅させる。

「我々は、その残党を狩ったに過ぎません」

「うむ。今の説明に嘘はなかったと騎士の誇りに誓えるな?」

「もちろんです。嘘偽りはございません」

 はじめから狙ってた訳じゃないけど、確かに嘘は言ってない。

『俺たち2人の力だけ』
『主力の殲滅』

 大げさな脚色に感じるけど、今はこれがいいらしい。

「同行した者も、異論はないな?」

「「「ございません」」」

 全員が声を揃えて、胸に拳を当てる。

 参加していない兵や使用人、街の要人たち。

 論功行賞に参加したすべての者が、俺たち2人を見詰めている。

「壊滅寸前の部隊を救った経緯も、ミルトレイナの助言あってのものだな?」

「はい。その通りです」

 師匠たちを救った場にミルトはいなかった。
 動揺した俺の単独行動がもたらした結果だ。

 だが、錬金術の実験には、常にミルトの助言をもらっている。

 これもウソは言ってない。

「聞いての通りだ。この二人は幼いながらも、高い能力を持っている」

 和やかだった雰囲気がウソのように、大広間は静まり返っていた。

 全員が固唾を飲む中で、男爵が威厳を込めて言葉を紡ぐ。

「よって。二人には然るべき地位と権限を与える」

 すべてが事前に聞かされていた内容で、やっていることはお芝居だ。

 どよめく観客たちを他所に、男爵が筆を走らせる。

 豪華な羊皮紙に押印し、全員に見せるように掲げた。

「ミルトレイナを隊長、フェドナルンドを副隊長とし。少数精鋭の新設部隊を立ち上げる」

 男爵を警護する親衛隊。
 師匠や長男が指揮する討伐部隊。

 次男が受け持つ諜報部隊。

 それらに並ぶ形で、俺たちが新しい部隊を持つらしい。

「我が家の将来を占う重大な決定である。異論がある者は、この場で申し出よ」

 参加者が顔を見合わせ、何も言えずにいる。

 与えられた情報が多すぎて、正常な判断が出来ていない。

 そんな感じに見える。

「ないようだな。ミルトレイナ」

「はっ、はい……」

 練習した通りに両手で紙を受け取り、隊長を示す紋章を受け取る。

 次いで俺も物を受け取り、恭しく頭を下げた。

「新設隊の役割に関しては追って通達する。式典は以上だ」

 どうやら無事に終わったらしい。

「2人は私と共に来るように」

「承知しました」

 そのまま逃げるように、男爵に誘導されて応接室を後にする。

「いいね! すごくよかったよ! 論功行賞に見せかけた新設部隊の押し付け、大成功だね!!」

 全体像を描き、護衛の兵に扮していたルン兄さんが、満面の笑みで褒めてくれた。
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