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「ちょっと、死ぬ気なの!?」
男の行動があまりにも予想外過ぎてドキリと心臓が跳ねたんだけど、男におびえた様子はないみたい。
それどころか、自分から火の玉に飛び込んで剣を振った。
「はぁぁっ!!」
気合いの声と共に火の玉が2つに割れて、火の粉を散らして消えて行く。
その場にいたみんなが思わず足を止めて、男を見た。
体に損傷はなくて、疲れているようには見えるのだけど、魔法を受け止めた前後の違いはそのくらい。
「「「……おぉぉぉぉぉぉぉおぉおおおおお!!!!」」」
少しだけ遅れて状況を理解した観客たちが、予想外の激しい攻防におたけびを張り上げた。
「火を斬るとかおかしいだろ!? さすがは剛剣だぜ!!」
「ってか、魔女の方もおかしくね!? 人間が生み出して良いサイズじゃなかっただろ!?」
興奮冷めやらぬ様子で人々が言葉を交わしているのだけど、その中にはリリを絶賛する声を混じっているみたい。
むしろリリに注目している声の方が多いかも。
「ってか気絶してねぇよな? あいつマジで強くなったんじゃねぇの!?」
「もしかすると魔女が勝っちまうんじゃないか!?」
「すげー、魔女さんすげー!」
Aランクの冒険者を相手にかわいい女の子が奮闘する。
意外性もあったんでしょうけど、見た目的にも応援するならリリよね。
そんな声援を一心に浴びたリリはと言うと、事態が飲み込めていないのか、不思議そうな表情を浮かべて身を縮めていた。
「わたし、褒められてます?」
いつの間にか気絶という単語がなくなって、魔女さんや魔女ちゃん、なんて声が聞こえてくる。
一応は実力を示すための模擬戦で、リリの評価も正しく上書きされたと思うから、これで当初の目的は達成ね。
だけど、さすがにこれだけ観客が盛り上がっている中で、はい終了ー、って訳にはいかないわよね。
「リリ、2発目は撃てるかしら?」
「はい! 頑張ります!」
私の声を皮切りに観客たちから歓喜の声が上がって、うれしそうにほほ笑んだリリが杖を構え直した。
そうして、さっきと同じ魔法を紡ごうとするんだけど、男もこのまま黙って見ている気はない見たい。
「連発はさすがに苦しいな。防がせてもらおう」
剣を肩に担いだ男が地面を蹴って、リリに殺到する。
つまりは私の出番ね。
「マッシュ!」
「キュ!」
リリの前に魔方陣を展開して、マッシュに出てきてもらう。
体を覆う大きな盾を構えたマッシュが、男の前に立ちはだかった。
「邪魔だっ!」
「キュキュ!」
剣と盾が正面からぶつかり合い、マッシュの体が後方に流される。
続けて剣が振るわれて、受け止めきれずにマッシュが状態を崩した。
ガチン、ガチン、と金属同士が激しくぶつかり合う音が聞こえるたびに、2人の体がリリの方へと近付いていく。
一見すると詠唱の時間を必死に稼いでいるように見えるんだけど、敵の位置が動き続けるからリリも戸惑った表情を見せていた。
そんな状況下で、ジニが私の元へと近寄ってくる。
「姫様。マッシュ殿にアドバイスがある。大丈夫だろうか?」
「……まぁ、一騎打ちって訳じゃないし、大丈夫でしょう。頼むわね」
「心得た。マッシュ殿、正面から受け止めずに斜めにそらせ。貴殿なら出来るはずだ」
「きゅ? ……キュ!」
チラリと振り返ったマッシュが、コクリと首を縦に振る。
ぶつかり合う瞬間を見定めてマッシュが盾を動かすと、男の表情が曇って見えた。
――その瞬間、エマの激が飛ぶ。
「すきを見つけて盾で押し返す。はじき返すのが盾の仕事だ」
「キュ!」
言葉を素直に受け入れたマッシュが体ごと盾を突き出した。
それを嫌がるように男が後ろに飛んで距離を置く。
すかさず前に出たマッシュの行動に、男が思わずと言った様子で舌打ちをした。
再び2人が向かい会って剣と盾を交わらせたんだけど、男の方に先ほどまでの余裕はないみたい。
(さすがね。即座に実行できるマッシュもそうなんだけど、指南役にジニを選んだのは正解だったわ。これで時間は稼げるでしょうから問題はリリなんだけど……)
なんて思いながらリリの方に視線を向けたんだけど、愛用のつえを握りしめた彼女は戸惑った表情を浮かべていた。
右を見たり、左をみたり、時には身を乗り出して正面で切り結ぶ2人の様子を眺めているみたい。
多分なんだけど、マッシュに当たりそうな気がして、撃てないんじゃないかしら?
「リリ。マリーの練習を思い出してみて。大きな一撃で当てようとするから困るの。小さい方が狙いやすいわよ?」
「……そっか、そうですね。ありがとうございます!!」
パッと表情を明るくしたリリがつえを胸に抱きしめて目を閉じる。
詠唱すらないままに、彼女の周囲に20個近くの火の玉が並んだ。
「「「は……?」」」
「行っちゃってください!」
驚きの声を上げる観客たちを尻目にリリがつえを振る。
正面に居たマッシュを大きく迂回して火の玉が男に向かって飛んでいった。
「っち!!」
迫り来る火の玉に備えて男が剣を握りしめたものの、突然動きを止めた火の玉が男の周囲を覆った。
男の正面には大盾を構えたマッシュが陣取って、周囲にはすきをうかがう火の玉が漂う。
まずは背中に一撃。
「ぐはっ……!!」
次いで迫ってきた火の玉を男が剣で切った瞬間、その背中を別の火の玉が襲う。
「ぐっ……」
衝撃に吹き飛ばされた男が振り向いた瞬間、4方向から火の玉が迫った。
「追加です!!」
20個じゃ生ぬるいって思ったのか、リリがさらに火の玉を追加。
男の周囲を50個近い火の玉が飛び回り、男の背中を狙っていた。
肩で大きく息をしていた男が周囲に目を向けて、深く息を吐く。
「……無理だな。…………降参だ」
「聞こえた? この試合、魔女ちゃんの勝利!!」
「「「おぉぉぉぉぉぉおおおおお!!」」」
潔く剣を手放した男が、両手を掲げて肩をすくませた。
男の行動があまりにも予想外過ぎてドキリと心臓が跳ねたんだけど、男におびえた様子はないみたい。
それどころか、自分から火の玉に飛び込んで剣を振った。
「はぁぁっ!!」
気合いの声と共に火の玉が2つに割れて、火の粉を散らして消えて行く。
その場にいたみんなが思わず足を止めて、男を見た。
体に損傷はなくて、疲れているようには見えるのだけど、魔法を受け止めた前後の違いはそのくらい。
「「「……おぉぉぉぉぉぉぉおぉおおおおお!!!!」」」
少しだけ遅れて状況を理解した観客たちが、予想外の激しい攻防におたけびを張り上げた。
「火を斬るとかおかしいだろ!? さすがは剛剣だぜ!!」
「ってか、魔女の方もおかしくね!? 人間が生み出して良いサイズじゃなかっただろ!?」
興奮冷めやらぬ様子で人々が言葉を交わしているのだけど、その中にはリリを絶賛する声を混じっているみたい。
むしろリリに注目している声の方が多いかも。
「ってか気絶してねぇよな? あいつマジで強くなったんじゃねぇの!?」
「もしかすると魔女が勝っちまうんじゃないか!?」
「すげー、魔女さんすげー!」
Aランクの冒険者を相手にかわいい女の子が奮闘する。
意外性もあったんでしょうけど、見た目的にも応援するならリリよね。
そんな声援を一心に浴びたリリはと言うと、事態が飲み込めていないのか、不思議そうな表情を浮かべて身を縮めていた。
「わたし、褒められてます?」
いつの間にか気絶という単語がなくなって、魔女さんや魔女ちゃん、なんて声が聞こえてくる。
一応は実力を示すための模擬戦で、リリの評価も正しく上書きされたと思うから、これで当初の目的は達成ね。
だけど、さすがにこれだけ観客が盛り上がっている中で、はい終了ー、って訳にはいかないわよね。
「リリ、2発目は撃てるかしら?」
「はい! 頑張ります!」
私の声を皮切りに観客たちから歓喜の声が上がって、うれしそうにほほ笑んだリリが杖を構え直した。
そうして、さっきと同じ魔法を紡ごうとするんだけど、男もこのまま黙って見ている気はない見たい。
「連発はさすがに苦しいな。防がせてもらおう」
剣を肩に担いだ男が地面を蹴って、リリに殺到する。
つまりは私の出番ね。
「マッシュ!」
「キュ!」
リリの前に魔方陣を展開して、マッシュに出てきてもらう。
体を覆う大きな盾を構えたマッシュが、男の前に立ちはだかった。
「邪魔だっ!」
「キュキュ!」
剣と盾が正面からぶつかり合い、マッシュの体が後方に流される。
続けて剣が振るわれて、受け止めきれずにマッシュが状態を崩した。
ガチン、ガチン、と金属同士が激しくぶつかり合う音が聞こえるたびに、2人の体がリリの方へと近付いていく。
一見すると詠唱の時間を必死に稼いでいるように見えるんだけど、敵の位置が動き続けるからリリも戸惑った表情を見せていた。
そんな状況下で、ジニが私の元へと近寄ってくる。
「姫様。マッシュ殿にアドバイスがある。大丈夫だろうか?」
「……まぁ、一騎打ちって訳じゃないし、大丈夫でしょう。頼むわね」
「心得た。マッシュ殿、正面から受け止めずに斜めにそらせ。貴殿なら出来るはずだ」
「きゅ? ……キュ!」
チラリと振り返ったマッシュが、コクリと首を縦に振る。
ぶつかり合う瞬間を見定めてマッシュが盾を動かすと、男の表情が曇って見えた。
――その瞬間、エマの激が飛ぶ。
「すきを見つけて盾で押し返す。はじき返すのが盾の仕事だ」
「キュ!」
言葉を素直に受け入れたマッシュが体ごと盾を突き出した。
それを嫌がるように男が後ろに飛んで距離を置く。
すかさず前に出たマッシュの行動に、男が思わずと言った様子で舌打ちをした。
再び2人が向かい会って剣と盾を交わらせたんだけど、男の方に先ほどまでの余裕はないみたい。
(さすがね。即座に実行できるマッシュもそうなんだけど、指南役にジニを選んだのは正解だったわ。これで時間は稼げるでしょうから問題はリリなんだけど……)
なんて思いながらリリの方に視線を向けたんだけど、愛用のつえを握りしめた彼女は戸惑った表情を浮かべていた。
右を見たり、左をみたり、時には身を乗り出して正面で切り結ぶ2人の様子を眺めているみたい。
多分なんだけど、マッシュに当たりそうな気がして、撃てないんじゃないかしら?
「リリ。マリーの練習を思い出してみて。大きな一撃で当てようとするから困るの。小さい方が狙いやすいわよ?」
「……そっか、そうですね。ありがとうございます!!」
パッと表情を明るくしたリリがつえを胸に抱きしめて目を閉じる。
詠唱すらないままに、彼女の周囲に20個近くの火の玉が並んだ。
「「「は……?」」」
「行っちゃってください!」
驚きの声を上げる観客たちを尻目にリリがつえを振る。
正面に居たマッシュを大きく迂回して火の玉が男に向かって飛んでいった。
「っち!!」
迫り来る火の玉に備えて男が剣を握りしめたものの、突然動きを止めた火の玉が男の周囲を覆った。
男の正面には大盾を構えたマッシュが陣取って、周囲にはすきをうかがう火の玉が漂う。
まずは背中に一撃。
「ぐはっ……!!」
次いで迫ってきた火の玉を男が剣で切った瞬間、その背中を別の火の玉が襲う。
「ぐっ……」
衝撃に吹き飛ばされた男が振り向いた瞬間、4方向から火の玉が迫った。
「追加です!!」
20個じゃ生ぬるいって思ったのか、リリがさらに火の玉を追加。
男の周囲を50個近い火の玉が飛び回り、男の背中を狙っていた。
肩で大きく息をしていた男が周囲に目を向けて、深く息を吐く。
「……無理だな。…………降参だ」
「聞こえた? この試合、魔女ちゃんの勝利!!」
「「「おぉぉぉぉぉぉおおおおお!!」」」
潔く剣を手放した男が、両手を掲げて肩をすくませた。
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