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 そうしてギルドに報告を済ませた翌日のこと。

 久しぶりに見たお城の中は普段以上にピリピリとして居て、兵士たちが気の重い表情を浮かべていた。

 ダンジョンの事が伝わったのかしら?

 なんて思っていたんだけど、漏れ聞こえて来る話題は派閥の争いみたい。

(国の危機かもしれないって言うのにのん気なものね……)

 なんて思ったりもしたんだけど、私たちを闇討ちした骨折男が発端らしいのよ。

 あいつの実家って第1王子を支持する派閥みたくて、その対応を巡ってずっと会議をしてるみたい。

 マリーに頼んだ工作がうまくいった結果なんだけど、なんだか複雑な気分ね。

「そんな事で討論するよりダンジョンの方が先だと思うのだけど……」

 なんて思わず漏れ出た私の言葉に、マリーが肩をすくめてみせた。

「そちらに関しましては、忙しいからと冒険者ギルドに押し付けたようですね」

「なにをやっているのかしらね……」

 本当にバカな人が多すぎるわ。

 そう思うのだけど、私に出来ることなんてなにもない。

 ショタ長の手伝いに行ったとしても、立場の問題とか出てきちゃうから、行かない方が良いと思うしね。

「何はともあれ、マリーのおかげで骨折男の件は1件落着ね。ありがとう、助かったわ」

「お役に立てて光栄です」

 私がねぎらいの言葉をかけると、誇らしげな表情を浮かべたマリーが恭しく頭を下げてくれた。

(ダンジョンのことは抜きにしても、数日でここまで話が大きくなるなんて、貴族って暇なのかしら)

 なんてことを本気で思わなくもないのだけど、足の引っ張り合いも仕事の1つなのよね、きっと。

 はぁ……、って小さくため息を吐きながら、走り回る人々を尻目に、私たちは通い慣れたトレーニングルームに向かった。

 だけど今日の目的は、魔力の増加じゃないの。

(居てくれるといいのだけど……)

 願うような気持ちで広間に入ったのだけど、そこにいつもの男たちはいなくてガランとしていた。

 会議の護衛にでも駆り出されているのかしら?

 なんて思いながら、いつもの場所に赴く。

 そこにはたった1人で黙々とトレーニングを続ける彼女の姿があった。

(やっぱりここだったわね)

 予想通りでうれしいのだけど、彼女の心境を思うとあまり喜んでもいられないのよね。

 私が部屋の中を進んで行ったら、彼女はいつものように深く頭を下げてくれた。

「マッシュ。ポーションをもらえるかしら?」

「キュ!」

 そんな彼女の前で立ち止まって、彼女にポーションを差し出してみる。

 案の定、不思議な顔をされたけど、その手の中に無理やり押し付けてあげた。

「今日はあなたにお願いがあってきたのよ。トレーニング中で悪いのだけど、少しだけ話を聞いてもらえないかしら?」

 私の申し出に首をかしげた彼女が、首に巻いたタオルを置いて視線を向けてくれる。

 その瞳が不安げに揺れていた。

「ボクに話を……? ですか?」

「えぇ、この子と模擬戦をして欲しいのよ。お願い出来ないかしら?」

「模擬戦……。それは構わない。ですが……」

 足下でプルプルと震えるマッシュを眺めた彼女が、次いで視線を広間の方に向ける。

 その瞳はきっと、いつもの男たちを探しているのよね……。

「大丈夫よ、今なら誰もいないわ。それにもし戻ってきたとしても、私が責任を持つわよ。あと、言葉遣いはいつも通りに。気にしないわ」

「……わかった。言葉遣いに関しては申し訳なく思っている。よろしく頼む……」

 少しだけ視線を落とした彼女が、傍らに置いてあった剣を拾い上げて広間に足を向けた。


 今日ここに来た目的は、彼女と交流を持つこと。

 骨折男のうわさを広めるついでにマリーに調べてもらったんだけど、彼女とは仲良くなれそうな気がしたのよね。

 私たちも彼女の背中を追いかけて広間に入り、マッシュがトコトコと彼女の前に進み出た。

「こっちの武器は訓練用の物を使うわ。うちの子には耐えられない攻撃を食らったら帰ってもらうことにするわね。そんなルールでどうかしら?」

「それで構わない。手合わせ願おう」

 私とマッシュに向かって、彼女が深く頭を下げてくれた。

「わかったわ。マッシュ、よろしくね」

「キュ!」

 マッシュから2メートルくらいの距離を開けて、彼女が愛用の剣と盾を手に腰を据える。

 対するマッシュは、傘の中から刃の潰れた剣を取りだした。

「名前を聞かせてもらってもいいかしら?」

「無論だ。名をジニと言う。心優しき姫よ」

「ありがとう。知っているかも知れないけど、一応名乗っておくわ。ミリアン・フィリアよ。ミリって呼んでくれるとうれしいわ。努力家のジニさん」

 私がそう言うと、一瞬だけ大きく目を開いた彼女――ジニが、どこかうれしそうに目を閉じる。

「やはりあなたは、人の心がわかる姫のようだ」

 口の中だけでつぶやかれたそんな言葉が、フワリと私の耳に運ばれた。
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