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 召喚獣がこの世界に居られるのは、1日8時間。
 それが神様の決めた宿命で、召喚スキルの弱さなのよね。

 制限時間内なら魔法や武力のスキルを超える事もあるのだけど、残りの16時間は恩恵が何も無いの。

 私の場合はその8時間内でも弱い、ってバカにされて居たんだけど、今なら三交代勤務で24時間体制に出来るわよね!?

 いつ命を狙われるとも限らない王族にとって、大きなアドバンテージじゃないかしら?

「スライムを倒すなんてすごいわ。さすがは私のマッシュね!」

「「「きゅ!」」」

 3体になったマッシュをなでていると、なんだか10票も不可能じゃない気さえするから不思議よね。

 それにしても、やっぱりこの子たちのプニプニは気持ち良いわ。

 程良い弾力で押し返して来るし、手に吸い付くようなモチモチだし……。

「ん?」

 なんて思っていたら、不意に右の膝がペシペシと叩かれた。

 どうやら犯人は、ナイフを持ったマッシュみたい。

 丸い手で、私の膝をプニプニしてる姿もかわいいね!

「どうしたの?」

 何かを伝えたそうに私を見上げたマッシュが、なぜかクルリと背を向けてトテトテと走っていった。

 だけどそれも数歩だけ。

 ホテホテ走って振り返り、ポテポテ走って振り返る。そんなことを繰り返していた。

「そっちに行きたいの? 良いわよ。それじゃぁ、みんなでーー」

「キュ!」

「え? ちょっと!」

 なにがあるのかわからないけど、行こうかしら。

 なんて思ってたら、1体だけで森の奥へと駆けて行ってしまった。

 姿が木々の影に隠れて、ガサゴソって動く音が遠ざかって行く。

「いっちゃったわね……」

「はい……」

「「きゅ~」」

 静かになった方向を眺めてマリーと共につぶやけば、大丈夫だよ~、とでも言うように、2体のマッシュが体をすり寄せてくれる。

 ここは人の手が入っていない、魔物が支配する土地。

 倒されてしまった召喚獣は、翌日になれば復活するんだけど、出来ることなら痛い思いなんてしてほしくないのよね。

「行くのならみんなで行けば良かったのに」

 やるせない気持ちが口をついて出ちゃって、隣にいるマリーが優しいほほ笑みをくれた。

「より多くを護衛として残したかったのではないですか?」

「……そうね。私の騎士としては合格かしら」

 友達としては一緒に行きたかったけどね。

 なんて思いながら待ち続けること、10分くらい。

 不安が徐々に大きくなり、マリーの表情も硬くなり始めた頃。

 不意に前方の茂みが大きく揺れた。

「キュ!」

 そこからひょっこりと顔を出したのは、先ほど走り去っていったマッシュ。

「「「キュ!」」」

 その背後に3体のマッシュ。

「……増えたのかしら?」

「「「キュュ!!」」」

 合計6体になったマッシュが、ポヨンポヨンって跳ねてた。

 召喚獣は1人1体。

 そんな常識を蹴破って、うちの子は6体に増えたみたい。

 だけどそれは、良いことばかりでもないのかも。

「このままじゃ、私の魔力が持たないわ。1度に5体が限界ね」

 意識しないと気が付かなかったけど、ちょっとずつ体内の魔力が減っていた。

 申し訳ない気持ちになりながらも1体には帰ってもらって、残る5体をぼんやりと眺めてみる。

 もしかするとまだまだ増えてくれるのかもしれないけど、今日はここまでね。

 焦りは禁物。

「マリー、城に帰ったら魔力増加トレーニングをしようと思うのだけど、付き合ってくれるかしら?」

「もちろんです。どこまででもお付き合いします」

「ありがとう」

 今後の目標は、マッシュたちの上限を見極めること。

 こんなことになるのなら、もっと真面目にトレーニングしておけばよかったわね。

 なんて思うけれど、図書室以外に居場所が無かったのだから仕方がないわよね?

「ん?」

 不意に感じたのは、ぷにぷにとしたマッシュの手先。

 視線を向けた先に居たのは、さっき走り去っていったマッシュと一緒に帰ってきた3匹だった。

「今度はどうしたの?」

 膝を折って視線を合わせると、彼らは傘の内側に手を伸ばして、ごそごそと何かを探し始めた。

「え? これって……」

 中から取り出されたのは、数本の草。

 葉はギザギザってとがってて、スーッ、っとした香りがする。

「薬草、よね?」

「はい。薬草だと思います」

 記憶を頼りに問いかけると、背後のマリーが同意の言葉をくれた。

 昔読んだ本には、煎じて飲めば体調を整える効果がある。良い値段で取り引きされるって書いてあった。

 そんな薬草を両手に握りしめて、合計6本の薬草を手渡してくれる。

「ありがとう、助かるわ」

 くれるみたいだから貰ったんだけど……。

「マリー。これはどうしたら良いと思う?」

「そうですね。調剤部に持ち込むと、没収されてあらぬ疑いをかけられるかと。ご自身でお使いになる分を除いて、城下町で売却されてはいかがでしょう?」

「そうよね。こんなのどこで見つけたんだ、って言われるわね。マッシュもそれで良いかしら?」

「キュ!」

 マッシュはどこまでも楽しそうに、ぷにぷにの右手を掲げてくれた。
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