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三回目

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 部屋にあるセミダブルのベッドに堂崎を放って、すぐにその上に馬乗りになって身体を抑え付ける。
 わたわたと逃げだそうと慌てる彼を見下ろしながら、俺は自身のネクタイを引き抜いた。

「逃げる気なら縛ってベッドに括り付けるぞ」
 特にそういうプレイを好むわけじゃないが、脅すように堂崎に告げる。
 だって横恋慕の相手を気にして恋人を無下にするなんて許せない。俺はこんなに堂崎のことしか考えていないのに。

 俺たちの立場は一体いつのまに入れ違ったんだ。惚れられて優位であったのは確かに俺のはずなのに、今や彼の言動に振り回されて、思いを募らせているのは俺の方。
 堂崎も以前はこんなふうに、酷くもどかしい思いをしていたのだろうか。

「……逃げねえんなら、優しくしてやってもいい」
 返事をしない彼に、少し不安になって譲歩をする。
 できればちゃんと、自身の意思で抱かれて欲しい。前の二回の悪戯はどちらも俺が仕掛けてなし崩しに持ち込んだもので、もちろん堂崎に嫌がられたりはしなかったけれど、どこか繋がりが心許ないのだ。

「で、でも僕……、だって……」
 しかしこちらの内心を余所に、彼はおとなしく抱かれることを渋った。
「だって、何だよ」
 それにまたイラッとして突っ込む。すると堂崎が、意を決したように口を開いた。

「だ、だって、由利さんとエッチなことするの、これが三回目ですよ!?」

「……あ? ああ、そうだな、それが?」
 わかりきったことを宣言されて、俺は目を点にする。
「僕の調べたデータによると、由利さんが付き合った人と別れる目安はいつも三回エッチをした後……。つまり、これをしてしまうと、僕は由利さんと別れることに……」
 あー……。確かに、以前付き合ってた奴とはみんな三回くらいで飽きてたかも。つーか、そんなことまでデータ取ってんのかこいつ。

「……ち○こ突っ込んでねーのに、前二回なんかカウント入んねえよ」
 もちろん、何回突っ込んだって別れる気はないけど。
「ゆ、由利さんが触ってくれるのは嬉しいけど、今度は飽きられるかとガクブルして……。その、僕は経験も技もないし……」

 最近やたらと萎縮していたのはこのせいか。でも経験なんか要らないし、この身体に一から全て教え込むのは俺の特権だ。その初心さは利点でしかない。
 深刻な顔をしている彼に、全く馬鹿なことを言うなぁ、と俺は肩の力が抜けて苦笑した。

「拒否った理由はそれかよ。三田を引き合いに出したのももしかしてただの口実か?」
「あの、別に先輩を口実に使ったわけじゃ……。ほんとにそういう話もしてましたしっ」
「ふうん。……まあいいか」
 結局三田に気を遣ったわけではなく、俺に飽きられることが怖かっただけだと理解すれば、イライラはすぐに流れ去ってしまった。

 つまり堂崎は俺と離れたくなかったということで。俺も放すつもりがないのだから、何の問題もない。

 俺は自身のネクタイをベッド下に放り投げて、次いで彼のネクタイを引き抜いた。
「由利さん!? 僕の話聞いてました!? エッチなことして飽きられると困るんですけど! 僕まだ由利さんといたいのに……!」
「だから、前二回はカウントに入んねえって言ってるだろ。……それに今のとこ、お前に飽きる予定ないんだよ」
 あっ、このやろう、身を捩ってまだ逃げようとしやがる。

「予定なんてすぐに変更可能じゃないですか! 困るんですよ、もしもA君が見つかった時とか、即飽きて捨てられるかもしれないし!」
「A君って……。あー……」
 またまた出ましたA君。本人のくせに、堂崎との間に立ちはだかる壁。俺は思わず天を仰いだ。
 正直存在だけなら三田より厄介かもしれない。

 ……そろそろ俺も覚悟を決めるべきだろうか。堂崎の中のA君を消さないと、きっと彼は俺の向ける愛情を本心から信じてはくれないのだ。
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