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素直になれない

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 堂崎がもしいなくなったとしたら。

 もしもで考えてみても、あいつの代わりに誰かが俺の生活風景に入っている姿は全く脳裏に浮かばなかった。

 だって口うるさいけれど、あいつは俺が心地よく居られることにいつも心を砕いてくれていたのだ。今や堂崎は、俺の癒やし空間である自宅の一部になってしまっている。
 いや、以前は帰るのも面倒な自宅だったのだが、堂崎の努力によって癒やし空間になってしまったというのが正解か。

 ……そういや堂崎がよく俺を手懐けたいと言っていたっけ。悔しいが、あいつはいつの間にかそれを成し遂げていたらしい。堂崎本人はそれに気付いていないだろうけれど。

「……今更あいつがいない生活って想像できねえわ」
 何となく悟った気持ちで呟いた俺に、ママが目を輝かせる。

「あら、ステキ。その言葉、堂崎ちゃんが聞いたら喜ぶわ」
「いや、あれだ、家事とか全部やってくれるし。リサーチスキルもありがたいし。常駐の便利屋がいなくなると困るみたいな」
 自分でも不要だと分かる補足を入れると、ママが呆れたように肩を竦めた。

「はあ、全く素直じゃないんだから……。何で由利くんは堂崎ちゃんを大事に思って可愛がれないのかしら」
「だってあいつ可愛くねえもん」
「可愛い堂崎ちゃんが見たいなら、ちょっと優しくしてあげなさいよ。普段はにこにこして可愛いのよ? 由利くんがちゃんと愛情注いであげたらテキメンよ」

「……別にいい。今更堂崎に優しくとか、気色悪い」
「出た出た。今まで堂崎ちゃんをないがしろにしてたから、優しくしたくても急に態度を変えるのが体裁悪いだけでしょ。面倒臭い性格ねえ」
 うぐっ、すごく端的に俺の欠点を指摘された。

「俺は堂崎にクズっぷりを見られてるし、酷えこと結構言ってるし、家事の手伝いも全然しねー男なんだぞ。いきなり優しくしたって胡散臭えだろ」
「馬鹿ねえ。由利くんの悪いとこ全部承知した上で付き合ってるんだから、たまに優しくしてもらったら喜ぶに決まってるじゃない。もう、身体の付き合いは爛れるほど達者なくせに、恋愛はまるで駄目ね」
「はあ!? れれれ恋愛!?」
 思わぬ単語に動揺する。俺と堂崎の間にそんな言葉が出てくるなんて、あり得ない!

「どうせさっきの堂崎ちゃんと黒髪の子が同一人物だと困る理由も、相手が堂崎ちゃんだと素直に謝れなくなるからでしょ? ああもう、子供だわー」
 次いで俺の心中をあっさりと言葉にされて、俺は狼狽えた自分をごまかすように無言でショットグラスをあおった。続けてチェイサーも飲み干して、立ち上がる。
 駄目だ、これ以上ここにいると、俺の堂崎に対する虚勢を丸裸にされそうだ。

「……今日はもう帰る」
「あらあ、そう? 堂崎ちゃんによろしく。また来てね~。黒髪の子も来るかもしれないしね?」
 俺が退席を告げると、ママは一転して笑顔で手を振った。
 俺に論難を浴びせきって、満足げだな、くそ。結局二人が同一人物なのかも教えてくれないし。

 心労のため息を吐いた俺は、これからのことを考えつつ会計を済ませて、アマンダの外に出る。

 とりあえずはやはり、地味男を捕まえるのが先決か。
 残念ながら俺には、堂崎に向かってお前が地味男かと確認する勇気はないのだ。あいつ自体、俺が捜す男と自分が同一人物なんて考えてもいないようだし、まだどちらとも言えない。

 ……そしてどちらにしてももう少し、堂崎に優しくする努力をしよう。
 本人には絶対言えないけれど、地味男がどうあれ、今の俺に堂崎を手放す気はないのだから。
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