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至愛への溺没  ※性描写あり

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 腕の中に少年がいる。
 日が暮れるまで友達と野原を駆け回り、母親に文句のひとつやふたつを言うようになる年頃だろう。
 しかし、少年はとても弱っていた。
 手足は枯れ木のように細く、それは骨が透けて見えるようだ。裂けてぼろぼろになって形を失った服を着ていて、なにも履かない足にはたくさんの傷が刻まれ、爪が剥がれて血がにじんでいた。
 しかし、瞳だけは、まだかろうじてかすかな光をともしていた。
「み……ず……」
 少年は渇いてひび割れた唇を、苦しそうに動かした。
 水袋を口にあてたが、もう水を飲む力も残っていないようだった。
 しかし、乾いた唇を水で濡らして、少年はほほ笑んだ。
 この世に生まれて間もない赤ん坊が、はじめて母親に笑いかけたような笑みだった。
 そして、少年の瞳の光が消えた――。
 
 
 エステルは、叫び声を聞いてとび起きた。
 我に返り、ここが自分の寝室で、自分の叫びで目が覚めたのだと悟る。
 しかし、まだ夢の中で抱いていた少年の重さが、腕に残っているような気がして、自分の腕をさすった。
 荒い息を整えながら、全身にかいた汗よって纏わりついている夜衣を脱ぐ。
 窓を開けて夜風に体を晒して、汗が乾くのを待った。
 自室の扉が開く音がした。
「エステル」
 扉が開く音とともに囁かれた自分の名を呼ぶ声を聞いてエステルは安堵して、衣をつかみかけた手を止めた。
「グレオス……」
 雲に隠れて弱い光しか放てなくなった月によって、長身の男の影がぼんやりと浮かび上がった。
「また悪い夢をみていたのか?」
 男は手で、エステルの額の汗をぬぐう。
「大丈夫よ」
 触れられた男の手は冷たくて、心地よい。
「いつもと同じ、民が死ぬ夢よ」
 額にある男の手が、今度は頬に触れた。
 そして、なぞるように形のよい唇に触れ、首に触れ、そして乳房をつかんだ。
「わたし、夢の中でもなにもできなかった。男の子を抱いて、ただ死ぬのを見ていることしかできなかった」
 目に涙を滲ませるエステルを、乳房に触れていないほうの手で男はそっと抱き寄せた。
「わたしにできることなんてなにもないんだわ……」
「自分を責めるな。おまえのおかげで、救われた命もたくさんある」
 彼の声は、初春の太陽の日差しを思わせる、低くおだやかな声だった。
「そうだといいんだけど」
 エステルは甘えるように、男のたくましい胸によりかかった。
 グレオスは蝶の羽を愛でるようにエステルの身体の曲線をなでると、彼女の胸の頂にそっと唇で触れた。
 続きを想像してエステルが恍惚の笑みを浮かべると、男はそれに答えて赤子のように乳房を吸った。
 そのまま、愛欲に溺れて、愛する人と朝まで愛し合いたい――。
 身体にまわされた男の手が、尻をつかみ、そのまま足の間にすべりこもうとしたとき、エステルは男からさっと離れた。
「だめ――」
「どうしてだ? 昨晩は喜んでいただろう」
「それは……」
「いずれ、おれたちは結婚する。世継ぎができれば、王も喜ぶだろう」
 さっきまで冷たかった男の手は、欲情に燃えて温かくなっていた。
「明日は、ラッセル王子が国を訪れる。大国の王子のまえ、寝不足でだらしない格好をするわけにはいかないわ――」
「おれ以外の男のことを考えるな」
 そう言って、男は少し強引にエステルを引き寄せる。
 茂みに隠された秘所に触れられると、エステルの身体がびくんと跳ねた。
 男の燃える男根が腰に押し当てられた。
「グレオス――」
 男に触られて、足の間の穴から液体が流れてくるのがわかった。
 目の前の男に愛されたいと身体が叫んでいる。
「生涯、おまえだけを愛す」
 盛った獣のように欲情にかられた男のかすれた声が、愛撫するように耳に響く。
 幼いころから、身近で自分を守ってくれた守役の男のことを慕っていた。
 そして、男にはじめて求められたとき、自分の将来や、王女という身分を考えずに、迷わず彼を受け入れた。
 その後、秘め事は国王に知られ、ふたりが夜をともにしていることは公となった。しかし、ラシェール王国は貧しい小国。そんな国に見向きをする国は大陸にはなく、立派な騎士の子種はきっと強い赤子を王家に授けてくれるだろうと踏んだ王は、ふたりの情事を歓迎した。
 はじめてのときは痛みとともに受け入れた太い肉棒も、今ではときには甘美な愛の詩を、ときには激動と禁断の叙事詩を聞いているような快楽を与えてくれる。
 男の長い指が身体の内側に入って、エステルの口から甘い声が漏れた。
「もっと聞かせろ――」
 そう言って、今まで自分の身体に入っていた手が口の中に入れられた。
 つんと鼻を突く匂いが、微かな嫌悪感をもたらす。
「やめて――」
 眉根を寄せて苦しげに呻くと、それがさらに男を煽り、腰に触れる男の欲情の塊が力を増す。
 エステルの身体を、男は鍛え上げられた腕で抱きかかえると、寝台の方へ運んだ。
 男によってエステルの身体は寝台に投げ出され、たくましい身体がそのうえに覆い被さった。
 身体のいたるところを男の舌が這いまわり、這われたところがどうしようもなく疼く。
 最後に、男の舌が秘部を舐めた。
 エステルは、死ぬのをわかっていながら川の流れに身を任せて、大海に流れ出ようとする淡水魚のように、全身の力を抜いた。
 快楽に身を任せる。
 秘所を吸う男の唇と舌からもたらされる刺激に、自分の身体が翻弄されるままに任せる。
 甘い声、甘い汁といった自分の身体の内側から漏らされるものはすべてを漏らす。
 理性、意識といった自分の身体が手放せるものはすべて手放そうとした――。
 男からもたらされる刺激に自分の身体が壊れようとしたとき、男からの刺激が消えた。
「やめないで!」
 とっさに叫ぶと、不敵な笑みを浮かべるように男が口の端を上げた。
「もっといいものをやる」
 そう言って、男はエステルの足を大きく開かせた。
 男の視線が、秘めた茂みの奥に注がれる。
 見られているだけであるのに、触れられているように身体が疼いた。
 快感を求めるように、自然に腰が揺れる。
 男は視線をエステルの顔に移した。
 どんなはしたない顔をしているだろうと思い、顔を手で覆うと、その手を解かれて、眼前に男の顔が迫った。
 接吻をするように、ふたりの視線が絡み合った。
「愛している」
 さっきまで、自分の身体に快感を与えていた口が、今度は心に快感を与えた。
 これ以上の快感はあるのだろうか――。
 男の屹立する男根が、秘所に触れられた。
 入る場所を探すように、何度か秘所を上下に行き来する。
 男の愛欲の塊が、一気に身体の中に入ってきた。
 濡れた自分の身体は、あたりまえのようにそれを受け入れる。
 最初はこうではなかった。
 もう自分の身体は、すっかり彼の男根を受け入れる形に変化したのだ。彼の太いそれを快感とともに受け入れられるように広がったのだ。
 わたしは、彼の形になったのだ――。
 男が動き出した。
 激しくなってゆく彼の動きと息づかいが愛おしかった。
 愛する人とつながる――これ以上、素晴らしいことがあるだろうか。
 あるとしたら、この身体にその愛の結晶が宿ることであろうか――。
「締めすぎだ」
 肩で息をしながら、男がかすれたこえで呟いた。
「気もち……いい?」
 エステルは恐る恐る訊いた。
 男はさらに激しく身体をエステルの足の間に打ちつけた。これは、同意であるのだろうと思って心が温かくなる。自分の身体で、愛しい人が快感を感じてくれている。
 心が温かくなると、身体の中でくすぶっていた浴がどんどん膨れていくのがわかった。
 男の激しすぎる動きを受け入れて、足が攣る。しかし、攣った足の痛みなど、かき消すほどの快感が身体を支配する。
「グレオス……もう――」
 今まで声を殺していた男の口から、快感に悶える声が漏れた。
 そして、エステルの身体に温かい液体がそそがれた。

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