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第一章

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その後、どうやら恭ちゃんはお義父さんの伝手を使って相川さんのことを調べたらしい。
そこでわかったのは、相川さんの家が経営している会社がお義父さんの会社の取引先で、経営が危機的状況であること。
相川さんは学費の納入も延滞しているらしい。
もともとお嬢様育ちの相川さんはそんな状況に耐えられず、恭ちゃんと付き合って、お義父さんの会社から援助を受けようと思っていたようだ。
今回の事で恭ちゃんはもちろん、お義父さんも大変ご立腹で、(私にはよくわからないけど)なんらかの手を打つと言っていた。



そしてだんだんと蒸し暑くなってきた6月の初め。もともとあの一件以来相川さんを大学で見ることはなかったけど、彼女は大学をやめたらしいと恭ちゃんから聞いた。


***


「ただいま」
「お邪魔しまーす」

土曜日の夕方。今日は久しぶりに恭ちゃんの実家に帰ってきた。
(お義父さんは何も悪くないけど)お詫びに食事に行こう誘われたのだ。

「あらあら璃子ちゃん、少し見ない間に大人っぽくなっちゃってー!」

出迎えてくれたのはお義母さん。いつも明るくて、テンション高くて、私には本当の娘みたいに接してくれる。

「やあ、いらっしゃい」

続いて奥から出てきたのはお義父さん。恭ちゃんに似たキレイな顔立ちだけど、外ではいつも無表情な恭ちゃんと違って、いつもニコニコしている。
お義母さんも美人だし、とっても素敵な夫婦だ。
密かな私の目標。

「今回は僕の仕事の関係で迷惑をかけてしまったようで、悪かったね」
「迷惑だなんて、とんでもないです!むしろお義父さんのお手をわずらわせてしまったようで…お忙しいのにすみません」
「そんなこと気にしないで。璃子ちゃんが無事でよかったよ。食事は18時に予約してあるんだ。出発まで、少しゆっくりしてて」

そんな会話をしながらみんなでリビングに向かった。
約二ヶ月ぶりの永井家が妙に懐かしい。
実は、高校入学からの三年間、私はここで暮らしていたのだ。
感慨深げにリビングを見渡していたら、お義母さんが声をかけてくれた。

「璃子ちゃんの部屋もそのままにしてあるから、行ってきてもいいわよ」
「え!そうなんですか?なんだか、すみません…」
「ここはあなたの実家なんだから、当然じゃないの」
「お、おかあさーん!!!」

嬉しすぎてお義母さんに飛びつく。私、こんなに暖かい永井家の本当の家族になれて幸せ。

「そういえば、今日真子は?」

私たちが抱きしめ合ってる間に、恭ちゃんがお義父さんに尋ねていた。
真子ちゃんは恭ちゃんの5つ年下の妹さんで、今高校1年生。確かに、今日は姿が見えない。
お兄ちゃん大好きっ子で、いつも恭ちゃんから離れないのに。

「今日はお友達のお誕生日パーティーなんですってよ。残念がってたわ」
「静かでいいな」

うっ。相変わらずクールな恭ちゃん。あれだけ好かれてるのに、そのセリフって…、私もいつかそう言われそうでコワイ。



リビングで一息ついた後、恭ちゃんと二人で2階にあがった。
恭ちゃんは残していった本の整理をするっていうから、私もそのままにしておいてくれているという自分の部屋に入った。

ここへ引っ越してくるときに持ってきた、小学生の時から使っている勉強机とベッド。
お義母さんが揃えてくれたピンクのラグと、白いミニテーブル。
本当に全部そのままだった。
こうしていると、ここに来たばかりの高校1年生の頃に戻ったような気持ちになって、今結婚して恭ちゃんと暮らしているという現実が、なんだか信じられなくなる。

小さい頃から憧れて、大好きで、でも雲の上のような存在だった恭ちゃんと…。
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