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114:思わぬ事実と落ち着かない気持ち

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 目が覚めたら、私は騎士団の医務室にいた。
 スティンガースコーピオンの毒にやられて、カマルに運ばれたところまでは覚えている。
 そのあとで、意識を失ってしまったのだろう。
 
「……苦しくない」
 
 毒による気分の悪さは消えている。
 カマルが薬を作ると言っていたけれど、完成したのかな?
 ふと横を向くと、私の寝ていたベッドにもたれかかるようにしてカマルが眠っていた。
 
「カマル?」
 
 状況がわからず戸惑っていると、後ろから声がかかる。
 
「アメリー、カマルはつきっきりで君を看病していたんだ」
 
 振り向くと、カディンとシュクレが立っていた。もう怪我は完全に治ったみたいだ。
 
「一人で解毒薬を作って、大活躍だったんですよ。毒にやられた騎士は、全員助かりました」
「……そうだったの。カマルが助けてくれたんだ」
「おかげでこちらは大変でしたけどね。騎士に口うつしで薬を飲ませたり」
「く、口?」
「ちなみに、アメリーさんに薬を飲ませたのはカマルさんです」
「えっ!?」
「俺なんて、オッサン相手に口移しだったのに……一人だけずるいですよ」
「それに関しては、俺も同感だ。薬の件は本当に感謝しているが」
 
 カディンまで、シュクレと一緒になって文句を言っている。
 
(それって……私、カマルとキスしちゃったってこと!? ひゃあぁぁ!)

 隣で眠っている彼の顔をまともに見られない。
 なんだろう、ただの医療行為だってわかっているのに、無性に恥ずかしくてドキドキしてしまう。頬が熱い。

(私、なんか変! すごく変!)

 カディンとシュクレは私の挙動不審な様子に気づかず、自分たちの仕事に戻っていった。
 体が回復した者は、スタンピード後の雑務や再開した訓練に参加するそうだ。
 毒が抜けたばかりの私は、もう少し安静にしないといけないらしい。
 頑丈な体を持つ騎士の中には、同じ毒を受けたのに復活している人もいる。
 けれど、私は鍛えているわけでもない上に子供なので、無茶をしては駄目とのこと。
 
(インターンの日数は限られているし、なるべく早く復帰したいのだけれど)

 困っていると、眠っていたカマルがもそもそと動いた。

「んっ……ん……」

 身じろぎした彼は、ゆっくりと頭を上げる。

「あれ、アメリー……目が覚めたの?」
「う、うん。ありがとう、カマルのおかげだよ」

 カディンとシュクレが余計なことを言ってきたせいで、なんとなく気まずい気持ちになってしまう。
 
(ただの医療行為、ただの医療行為、ただの医療行為)

 呪文のように心の中でそう唱え、なんとか平静を装った。

「アメリー、良かった。目が覚めて……薬が効いてくれて」
 
 カマルがギュッと私を抱きしめる。途端に、私の心臓が激しく脈打ち始めた。

(どうして今まで、彼に抱きしめられても平然としていられたんだろう! 変に意識しちゃったから落ち着かないよー!)

 私の心の声など、カマルは知るよしもない。こちらに手を伸ばして触れてくる。
 
「熱も下がったみたいだね」
「カマルの薬が効いたんだよ。カディンとシュクレが教えてくれて……すごいね、一人で解毒剤を作ってしまうなんて」
「アキル兄さんたちが作っていた手順を覚えていたんだ。見よう見まねだから心配な部分もあったけど」
 
 カマルはまだ、私を放してくれない。

(あれ、よく考えたら……今さらだけどカマルのスキンシップって激しすぎない? 文化の差があるとはいえ、他の友達にはこんなことしないし。いやいや、考えすぎだよね)

 混乱が止まらない私だけれど、熱くなってしまった頬や、早さを増していく心音をカマルに気づかれたくない。恥ずかしすぎて、また寝込んでしまいそうだもの。
 なので、無理矢理話を逸らしてしまった。

「そういえば、カマルの体調は大丈夫? 団長の精霊は、あれからどうしているのかな」
「あれから変化はないよ。精霊は団長と一緒に行動しているけど、ほとんど姿は見せない。団長はスタンピードの後処理で忙しく走り回っているから、まだ話を聞けていないんだ。アメリーの体も心配だったし」
「そっか……もう少し落ち着いたら、ヨーカー魔法学園に帰るまでに話を聞きたいね」

 どうして、あの精霊は悪意のある笑みを浮かべたのか、私やカマルの体調の変化は彼女と関係があるのか。きちんと聞き出さなければ。
 それが、フィーユで起こった事件を解明する糸口になるかもしれないから。
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