継母と妹に家を乗っ取られたので、魔法都市で新しい人生始めます!

桜あげは

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77:公爵令息と他国の王子

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 そうして、新学期がやって来た――
 ほんの少し穏やかになった朝の日差しを受けながら、私は講堂へ向かう準備をする。
 分校長の、新学期の挨拶があるのだ。
 
 ほっこり落ち着く部屋の壁際には、オリオンがカスタマイズしてくれたボードが立てかけられている。金地に太い筆で描いたような黒と白の模様が入っていて、格好いい見た目だ。
 ノアが「あいつ、好き勝手いじっていやがる!」なんて言っていたから、お値段以上の仕事をしてくれたのだろう。感謝だ。
 
(私は、いろいろな人に助けられているなぁ。立派な魔法使いにならなきゃ)
 
 シュエが鞄に入り込もうとしている。一緒に出かけたいみたいだ。
 最近のシュエは活動的で、よく外をお散歩している。
 私は、少し早めに黒撫子寮を出ることにした。目指すは講堂だ。
 
 寮を出発し、校庭沿いの道を歩いて行く。講堂へ行くには、黄水仙寮と青桔梗寮の前を通らなければならないのだけれど……
 先ほどから、やけに他の生徒の視線が気になる。
 上級生も、同級生も。私が何をやったわけでもないのに、じろじろ見てくる。
 
(居心地が悪いな)
 
 新学期早々、変に絡まれてはたまらない。シュエを抱っこして、いそいそと講堂の中へ入った。ちなみに、ヨーカー魔法学園は、あらゆる場所において使い魔同伴オーケーだ。
 まだ人の少ない講堂はしんと静まりかえっている。生徒どころか、教師もまばらだ。

(一年生、Bクラスの席は……)

 シュエを下ろし、きょろきょろしていると、前から人が近づいてきた。
 サラサラした銀髪に淡い紫の瞳の、背の高い人。

(あの人は、確か……記憶が正しければ、赤薔薇寮の寮長だった気が)
 
 そんな人が、私などに用があるはずない。

(邪魔にならないように、道をあけよう)
 
 脇にそれると、なぜか赤薔薇寮長も同じ方向へ曲がってきた。こちらへ来たかったのだろうか。
 戸惑う私を見て、彼はくすりと優雅に微笑んだ。
 そして、洗練された上品な仕草で私の片手をとる。
 
「アメリー・メルヴィーン」
「は、はい……」
「私はアーサー・オールブライツ、赤薔薇寮の寮長だ。こうして話すのは、初めてだね」
 
 そっと観察しても、相手が何を考えているのかわからなかった。

「そんなに警戒しないで。一度、君と話してみたかっただけなんだ」

 学園に在籍している国内貴族の中で、最も地位の高い人が……私なんぞと話がしたいなんて。信じられない。

「ご実家があんな風になってしまって、大変だろう? 私に手助けできることがあればと思ったのだけれど」

 予想外の話をされ、私はますます戸惑った。
 過去に私が誘拐されたとき、赤薔薇寮にも加害者がいた。
 
(てっきり、サリー以外の平民を蔑視する人たちだと思っていたけれど……)
 
 寮長は、彼らと考えが異なるのだろうか。

「ご心配いただきありがとうございます。でも、私は大丈夫ですので」

 むしろ、メルヴィーン商会が潰れてからのほうが、何かと助かっている。
 お金は入ったし、ドリーの嫌がらせも止んだし。
 けれど、アーサーは信じてくれない。

「無理しなくていい。私なら、君の力になってあげられる」
「本当に困っていないんです」
「そう言わずに。サリーも公爵家で面倒を見ると決まっているんだ。君も一緒にどうかな」

 一人で放り出されてしまったサリーだけれど、公爵家が保護してくれたようだ。
 とはいえ、私は彼の提案を受けるつもりはない。
 アーサーをよく知らないし、既にハリールの養女になっている。
 そのことを伝えようとしたが、私が口を開くより早く、二人の間に割って入る者がいた。

「大丈夫。アメリーは砂漠大国が引き受けるから」

 きらきらと光を反射する金髪。私を庇うよう、前に立っているのはカマルだ。

「エメランディアにも、そろそろ知らせが来る頃かも。アメリーは、リシェニ伯爵家の養女になったって」
「リシェニ伯爵家? 砂漠大国の医療の頂点に君臨する、あのリシェニ家か!?」

 僅かに、アーサーの顔色が変わる。
 対するカマルは平然としていて、アーサーに握られていた私の手を、さりげない動きで外した。

「そのリシェニ家だよ。なので、ご心配なく」
 
 砂漠大国トパゾセリアは、魔法そのものより魔法アイテムや魔法薬で稼いでいる国だけれど、医療や薬関連のレベルは魔法大国と張り合えるほど高いのだ。
 ちなみに、大医務長の位は世襲ではなく、ハリールが実力で手に入れたもの。
 なので、リシェニ家が有名になったのは彼の功績だった。

(それにしても、ハリールさん。やっぱりすごい人だなあ!)

 彼に対しては、尊敬の気持ちでいっぱいだ。
 
(そういえば、昨夜遅くに、ハリールさんから荷物が届いていたっけ。まだ開けていないけれど、帰ったら開封してお礼をしなきゃ)

 考えているうちに、カマルは私の手をとって歩き出す。

「アメリー、行こう」
「う、うん」
 
 アーサーに向けて、ぺこりと一礼した私は、カマルと並んで自分の席へ移動した。
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