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76:新学期のイベントについて

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 湖での水遊びは楽しかった。
 私とガロ以外の子たちは、生まれながらに貴族だから、こういう場所で遊んだりしないだろう。そう思っていたけれど、違ったみたいだ。
 魔法都市で暮らすのは富裕層が多いせいか、客層も落ち着いている。
 そして、ミスティにサングラスを借りて変装したので、誰も私がアメリー・メルヴィーンだと気づかなかった。
 カマルもまるで私の心の声が聞こえたかのように、自分が羽織っていた上着ですっぽり私の体を包んで、水着姿を隠してくれた。
 やっぱり、彼は優しい。

 小さなさざ波の立つ水辺は綺麗で……
 キラキラ反射した光が、未来の明るさを物語っているようだった。
 
「そういえばさ、平民組と留学組は、新学期の行事を知っているのか?」

 遊び疲れて休憩していると、唐突にノアが質問してきた。

「確か、オリビアさんが『他校交流会』が開催されるとかなんとか」
 
 私は、うろ覚えの情報を思い出す。
 ヨーカー魔法学園には「ボードレース」のような、学期ごとのイベントが存在する。
 前にオリビアと話したとき、少しだけ話題に上ったのだ。
 二学期は、エメランディア国内や、近隣の国の魔法学校に通う生徒と、一緒に交流するイベントがあったはず。

「正確には、『他校交流会』の前に『他校対抗試合』が行われる。うちの学校代表と他校代表が魔法で試合をするんだ。そして、代表を決めるために、学年別の『校内予選』がある。俺らはBクラスだけれど、予選は関係なく参加できる」
「試合って、なんの試合?」
「魔法合戦だ! 年によって違うが、昨年度の一年生の予選は、魔法の打ち合いだったな」
「へえ、すごいねえ。それって、全員出なければいけないの?」
「ああ、強制参加だ。予選の成績が、そのまま授業の成績に反映されるらしいぜ」

 魔法歴の長い貴族の子はともかく、平民出身の私やガロは圧倒的に不利。

(酷いイベントだなぁ)

 Aクラスの人たちは、嬉々として攻撃魔法を放ってきそうだ。
 砂漠大国でアキルに魔法を指導してもらったけれど、人を攻撃する練習はしていない。
 毒魔法に関するトールの本も読んだけれど、下手に使えば死人を出してしまいそうなので試合向きではない。

「で、他校対抗試合では、各校で勝ち進んだ代表たちが対戦する。これも種目は毎年変わって、昨年は魔法薬効果のある料理作り対決だった」
「そっちは楽しそう」
「ゲテモノ料理のオンパレードだったらしいぜ。審査員が軒並み食中毒で倒れたとか」
「気の毒すぎる……」
「だから、今年は料理対決はないと思う」
「……そうだね」

 残念だけれど、そのような恐ろしいイベントなら回避した方がいい。
 
(危なくない種目を希望……)
 
 ともあれ、まずは、新学期の授業について行くのが大事だ。
 そして、初級魔法薬師と初級アイテム販売の免許も取ったので、せっせと商売しよう。
 アルバイトも継続する予定。お金があるに越したことはない。
 
「それから、『他校交流会』のあとに、もう一つイベントが控えている。『魔法インターン』だ。毎年、全ての生徒が必ず受けなければならない。将来どの方向へ進むかの参考にするんだ」
「へえ、『魔法インターン』かぁ」
 
 将来なりたいものなんて、まだ決まっていない。
 砂漠大国の人たちに恩返ししたいとは思うけれど。

(私にできることって、なんだろう)

 今までは、良い就職先で働き、一人で生活していく方法しか考えていなかったけれど……
 この学校や砂漠大国でたくさんの人と出会い、様々な知識と技術を身につけた。
 きっと、まだまだ選択肢はたくさんある。

(なりたいもの、見つけられるかな?)
 
 気球や飛行船の浮かぶカラフルな空を見上げた私は、初めて自分の将来に真剣に向き合おうと思った。
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