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69:調薬と各国魔法事情
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カマルが合流し、私たちは調薬スペースへ移動した。
木目の綺麗な調薬台からは、太い根っこが生えている。
「スペースの奥には扉がありますね」
不思議に思っていると、アキルが笑いながら教えてくれた。
「奥も調薬をする場所だよ。もっと複雑な薬とか、実験中の薬は向こうの部屋の中で作るよ。今日は砂漠大国トパゾセリア産の基本的な傷薬だから、こっちの台で大丈夫~。この薬は、少し前におじさん……神官長が生み出して、一気に国中に広まったんだ」
森林小国エメランディアにも、傷の治りを早める魔法薬ならある。
メルヴィーン商会でも売られていたし、魔法薬学でも習った初歩の薬だ。
(私でも、できるかも)
そう考えていたら、全く違う材料が出てきた。
「……!」
赤と黄色の花びらが入り乱れる草と、紫色の葉っぱ、乾燥した白い枝に青い綿。
かつて、メルヴィーン商会で目にした商品もある。
「アメリーちゃんは、初めてだよねぇ。今日作るのは、エメランディアには出回っていない薬なんだ」
「はい、見たことがないです」
「エメランディアの薬は体の治癒力を上げて傷の治りを早めるけれど、トパゾセリアの薬は時を戻して傷自体を消すんだよ。あまりにも時間が経った傷は、もっと上の薬でないと駄目だけどね」
「えっ、それって……」
まるで、サリーの治癒魔法みたいだ。
彼女のような特別な才能を、砂漠大国の人々は皆持っているのだろうか?
そのような薬、エメランディアには一切出回っていない。
「時間に干渉する魔法は複雑だし、誰でもできる技ではないけれど、薬はそれほどでもないから安心して。カマルは作ったことがあるね。先に説明するよ」
「ありがとうございます。カマル、すごいね、時を戻す薬を作れるんだね!」
「そりゃあ、カマルはこちらの国で、魔法の基礎教育を受けているもの。エメランディアの魔法は違うから、一から勉強しないといけないけど」
カマルがヨーカー魔法学園の授業を難なくクリアしていたのは、この辺りの事情もあるようだ。
尊敬の眼差しで見ていると、少し顔の赤いカマルが早口で答える。
「そこまで難しくないし、アメリーもすぐにできるよ」
「そうそう。魔法の精度を上げる練習にもなるから、学園へ戻っても活かせるよ。材料はエメランディアでも手に入るから、やり方さえ覚えればいつでも作れる。初級アイテム販売の免許があれば、エメランディア国内で売って、ぼろ儲けできると思うよ」
トパゾセリアでは、上級魔法薬師の免許持ちなら、いつでも調薬指導ができるそうだ。
国が変わると、常識も変わる。
「アメリー、こうするんだよ」
私の手を取りながら、カマルが魔法鍋に花びらを入れていく。
ちなみに、神殿の魔法鍋はハイネが持っているような超高級鍋だった。
「お鍋から、クリーミーな匂いが……」
「この白い枝、ミルクツリーの香りだよ。煮込むとこうなるんだ」
私はメルヴィーン商会の娘なのに、薬の材料のことをよく知らない。
父により、現場から遠ざけられていたからだ。
彼は私を「商会を拡大する駒」、そして「実験台」としか見ていなかった。
(今からでも、勉強しよう)
そんな私の決意を見越したように、アキルが言った。
「神殿には、広い図書室があるよ。内容は偏っているけれど、魔法医療に関する本は充実してる。あとは、おじさんの自作毒薬本コレクションが……」
毒薬本は、ハイネが喜びそうだと思った。
次はカラフルな花びらを投入。すると、フルーティーな香りになった。
葉っぱを入れればとろみが出て、綿を加えれば泡立つ。
そうして、ついに、薬が完成した。
「私にも、できた!」
「すごいよ、アメリー」
カマルやアキルの教え方は、非常にわかりやすかった。
「うん、上出来。魔力の操作も安定しているねぇ。これなら、中級の薬を教えられるかも。調薬は、細やかな魔力操作のいい練習になるんだよね。そういえばさ、アメリーちゃんは……」
「なんでしょう?」
「好きな人はいるのかな?」
世間話のような流れで、アキルからとんでもない質問が来た。
「…………!?」
おそらく、恋愛的に好きな相手という意味だろう。
(私、まだ十三歳だけど)
チラリと隣を見れば、カマルが真剣な目つきでこちらを見つめている。
「ごめんなさい、よくわからないです。今まで恋愛どころじゃなかったので」
「……だよね~」
メルヴィーン商会では生きることに必死だったし、学園に入ってからも知らないことだらけで、皆についていくのに精一杯だった。
アキルは曖昧に微笑み、カマルは安心したような、ちょっと不服なような……不思議な表情をしていた。
木目の綺麗な調薬台からは、太い根っこが生えている。
「スペースの奥には扉がありますね」
不思議に思っていると、アキルが笑いながら教えてくれた。
「奥も調薬をする場所だよ。もっと複雑な薬とか、実験中の薬は向こうの部屋の中で作るよ。今日は砂漠大国トパゾセリア産の基本的な傷薬だから、こっちの台で大丈夫~。この薬は、少し前におじさん……神官長が生み出して、一気に国中に広まったんだ」
森林小国エメランディアにも、傷の治りを早める魔法薬ならある。
メルヴィーン商会でも売られていたし、魔法薬学でも習った初歩の薬だ。
(私でも、できるかも)
そう考えていたら、全く違う材料が出てきた。
「……!」
赤と黄色の花びらが入り乱れる草と、紫色の葉っぱ、乾燥した白い枝に青い綿。
かつて、メルヴィーン商会で目にした商品もある。
「アメリーちゃんは、初めてだよねぇ。今日作るのは、エメランディアには出回っていない薬なんだ」
「はい、見たことがないです」
「エメランディアの薬は体の治癒力を上げて傷の治りを早めるけれど、トパゾセリアの薬は時を戻して傷自体を消すんだよ。あまりにも時間が経った傷は、もっと上の薬でないと駄目だけどね」
「えっ、それって……」
まるで、サリーの治癒魔法みたいだ。
彼女のような特別な才能を、砂漠大国の人々は皆持っているのだろうか?
そのような薬、エメランディアには一切出回っていない。
「時間に干渉する魔法は複雑だし、誰でもできる技ではないけれど、薬はそれほどでもないから安心して。カマルは作ったことがあるね。先に説明するよ」
「ありがとうございます。カマル、すごいね、時を戻す薬を作れるんだね!」
「そりゃあ、カマルはこちらの国で、魔法の基礎教育を受けているもの。エメランディアの魔法は違うから、一から勉強しないといけないけど」
カマルがヨーカー魔法学園の授業を難なくクリアしていたのは、この辺りの事情もあるようだ。
尊敬の眼差しで見ていると、少し顔の赤いカマルが早口で答える。
「そこまで難しくないし、アメリーもすぐにできるよ」
「そうそう。魔法の精度を上げる練習にもなるから、学園へ戻っても活かせるよ。材料はエメランディアでも手に入るから、やり方さえ覚えればいつでも作れる。初級アイテム販売の免許があれば、エメランディア国内で売って、ぼろ儲けできると思うよ」
トパゾセリアでは、上級魔法薬師の免許持ちなら、いつでも調薬指導ができるそうだ。
国が変わると、常識も変わる。
「アメリー、こうするんだよ」
私の手を取りながら、カマルが魔法鍋に花びらを入れていく。
ちなみに、神殿の魔法鍋はハイネが持っているような超高級鍋だった。
「お鍋から、クリーミーな匂いが……」
「この白い枝、ミルクツリーの香りだよ。煮込むとこうなるんだ」
私はメルヴィーン商会の娘なのに、薬の材料のことをよく知らない。
父により、現場から遠ざけられていたからだ。
彼は私を「商会を拡大する駒」、そして「実験台」としか見ていなかった。
(今からでも、勉強しよう)
そんな私の決意を見越したように、アキルが言った。
「神殿には、広い図書室があるよ。内容は偏っているけれど、魔法医療に関する本は充実してる。あとは、おじさんの自作毒薬本コレクションが……」
毒薬本は、ハイネが喜びそうだと思った。
次はカラフルな花びらを投入。すると、フルーティーな香りになった。
葉っぱを入れればとろみが出て、綿を加えれば泡立つ。
そうして、ついに、薬が完成した。
「私にも、できた!」
「すごいよ、アメリー」
カマルやアキルの教え方は、非常にわかりやすかった。
「うん、上出来。魔力の操作も安定しているねぇ。これなら、中級の薬を教えられるかも。調薬は、細やかな魔力操作のいい練習になるんだよね。そういえばさ、アメリーちゃんは……」
「なんでしょう?」
「好きな人はいるのかな?」
世間話のような流れで、アキルからとんでもない質問が来た。
「…………!?」
おそらく、恋愛的に好きな相手という意味だろう。
(私、まだ十三歳だけど)
チラリと隣を見れば、カマルが真剣な目つきでこちらを見つめている。
「ごめんなさい、よくわからないです。今まで恋愛どころじゃなかったので」
「……だよね~」
メルヴィーン商会では生きることに必死だったし、学園に入ってからも知らないことだらけで、皆についていくのに精一杯だった。
アキルは曖昧に微笑み、カマルは安心したような、ちょっと不服なような……不思議な表情をしていた。
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