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91:残虐鬼、ファンクラブ仲間と再会する(サイファス視点)
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きらびやかな大広間に豪勢な料理。たくさんの貴族が集まる城の中には、優雅な三拍子が流れている。
着替えて会場に入ったサイファスは、さっそく注意深く辺りを見回した。
すると、ペールブルーの上品なドレスに身を包むエイミーナを発見する。
そして、彼女の手を取ったクレアが、器用に男性向けのステップを踏んでいた。
「クレオ様、格好いいですわ!」
「エイミーナはいつも可愛いが、今日は一段と綺麗だ」
「まあ、クレオ様ったら。うふふ、夫婦として舞踏会に出席できるなんて夢みたい」
優雅にダンスを踊る二人を、他の令嬢たちが羨ましげに見つめている。
そして、給仕係に扮したハクを従えたサイファスも、壁際で彼女たちと同じ行動を取っていた。
先ほどから、クレアとエイミーナの会話が聞こえて気が気ではない。
残虐鬼は妻に関してだけ、恐ろしく嫉妬深いのだ。
「ああどうしよう、ハク。クレアがあんなにも可愛い。他の男に声をかけられたりしないかな」
「勘弁してくださいよ、明らかに男装中じゃないですか。恋愛対象が同性であっても、ここにいるような高位の男性貴族には女と結婚する義務があるんです。この場で現ミハルトン伯爵に下心満載の接触をするわけがないでしょう」
「そうかな……って、舞踏会の会場でじゃなければ接触するってことだよね」
心配で落ち着かないサイファスを見て、ハクは隣で頭を抱えている。
少しして、サイファスの熱すぎる視線に気づいたクレアが壁際へ目を向けた。不穏な気配に気づいたようだ。
ここにいるはずのない夫を発見して驚いている。
とはいえ、曲が終わるまで、彼女は壁際まで移動できない。
いつもルナレイヴで過ごしているサイファスには、王都の知り合いがほぼいなかった。
今回は第一王子に融通してもらい、ここへ参加できている。
彼は大変機嫌が良く、「面白い!」と、あっさりサイファスを名簿に追加してくれた。
そういうわけなので、会場にいる誰もが残虐鬼の参加を知らないのだ。
「早く曲が終わればいいのに」
一人でハラハラし続けるサイファスだが、そんな彼に声をかける者が……
「あ、あの、そこの方」
まさか自分が話しかけられるとは覆わず、サイファスが驚いて振り返ると、小柄な令嬢が自分を見上げているのが目に入った。
「私に、何かご用ですか?」
「え、えっと、その」
上目遣いの令嬢は、モジモジと指先を弄りながら自己紹介を始めた。
「あたし、ヒッヂ子爵家のティナと申します。いつもはお見かけしない方でしたので、ぜひお話をしてみたいと」
「……!? 私とですか!?」
「ええ、そうですわ」
変わったこともあるものだと令嬢を観察しながら、サイファスは名乗ろうとした。
すると……
「あら! サイファス様じゃないの!」
「えっ……?」
またしても名前を呼ばれてそちらを向くと、今度は見覚えのある令嬢が立っていた。
「君は、『クレオ様ファンクラブ』の……」
「現会長を務めている、イッシュ侯爵家のミーシャですわ! 舞踏会でお目にかかるのは初めてね」
挨拶もそこそこに、ミーシャはティナをキッと睨み付け口を開く。
「あなた、クレオ様のご友人に手を付けることは、わたくしが許しませんわよ? あなたも節操がないですわね。いくらサイファス様が田舎の出で王都の噂を知らないからといって、彼があなたのような品のない方を相手にすると思って? 今すぐこの場から立ち去りなさい!」
ぴしゃりと命令するミーシャを見て、ティナは悔しそうに大広間から出て行った。
「あの、今のご令嬢は一体……」
「王都では男好きだと有名な令嬢なの。何度も男女間の騒ぎを起こしている、問題のある人物よ。あなたも目を付けられていたみたいだから、お気を付けて」
「……どうもありがとう」
「あら、クレオ様が踊り終わったみたいね。こちらへ歩いてこられるわ」
彼女の言うとおりで、エイミーナを伴ったクレアが、サイファスの方へと向かってきていた。
着替えて会場に入ったサイファスは、さっそく注意深く辺りを見回した。
すると、ペールブルーの上品なドレスに身を包むエイミーナを発見する。
そして、彼女の手を取ったクレアが、器用に男性向けのステップを踏んでいた。
「クレオ様、格好いいですわ!」
「エイミーナはいつも可愛いが、今日は一段と綺麗だ」
「まあ、クレオ様ったら。うふふ、夫婦として舞踏会に出席できるなんて夢みたい」
優雅にダンスを踊る二人を、他の令嬢たちが羨ましげに見つめている。
そして、給仕係に扮したハクを従えたサイファスも、壁際で彼女たちと同じ行動を取っていた。
先ほどから、クレアとエイミーナの会話が聞こえて気が気ではない。
残虐鬼は妻に関してだけ、恐ろしく嫉妬深いのだ。
「ああどうしよう、ハク。クレアがあんなにも可愛い。他の男に声をかけられたりしないかな」
「勘弁してくださいよ、明らかに男装中じゃないですか。恋愛対象が同性であっても、ここにいるような高位の男性貴族には女と結婚する義務があるんです。この場で現ミハルトン伯爵に下心満載の接触をするわけがないでしょう」
「そうかな……って、舞踏会の会場でじゃなければ接触するってことだよね」
心配で落ち着かないサイファスを見て、ハクは隣で頭を抱えている。
少しして、サイファスの熱すぎる視線に気づいたクレアが壁際へ目を向けた。不穏な気配に気づいたようだ。
ここにいるはずのない夫を発見して驚いている。
とはいえ、曲が終わるまで、彼女は壁際まで移動できない。
いつもルナレイヴで過ごしているサイファスには、王都の知り合いがほぼいなかった。
今回は第一王子に融通してもらい、ここへ参加できている。
彼は大変機嫌が良く、「面白い!」と、あっさりサイファスを名簿に追加してくれた。
そういうわけなので、会場にいる誰もが残虐鬼の参加を知らないのだ。
「早く曲が終わればいいのに」
一人でハラハラし続けるサイファスだが、そんな彼に声をかける者が……
「あ、あの、そこの方」
まさか自分が話しかけられるとは覆わず、サイファスが驚いて振り返ると、小柄な令嬢が自分を見上げているのが目に入った。
「私に、何かご用ですか?」
「え、えっと、その」
上目遣いの令嬢は、モジモジと指先を弄りながら自己紹介を始めた。
「あたし、ヒッヂ子爵家のティナと申します。いつもはお見かけしない方でしたので、ぜひお話をしてみたいと」
「……!? 私とですか!?」
「ええ、そうですわ」
変わったこともあるものだと令嬢を観察しながら、サイファスは名乗ろうとした。
すると……
「あら! サイファス様じゃないの!」
「えっ……?」
またしても名前を呼ばれてそちらを向くと、今度は見覚えのある令嬢が立っていた。
「君は、『クレオ様ファンクラブ』の……」
「現会長を務めている、イッシュ侯爵家のミーシャですわ! 舞踏会でお目にかかるのは初めてね」
挨拶もそこそこに、ミーシャはティナをキッと睨み付け口を開く。
「あなた、クレオ様のご友人に手を付けることは、わたくしが許しませんわよ? あなたも節操がないですわね。いくらサイファス様が田舎の出で王都の噂を知らないからといって、彼があなたのような品のない方を相手にすると思って? 今すぐこの場から立ち去りなさい!」
ぴしゃりと命令するミーシャを見て、ティナは悔しそうに大広間から出て行った。
「あの、今のご令嬢は一体……」
「王都では男好きだと有名な令嬢なの。何度も男女間の騒ぎを起こしている、問題のある人物よ。あなたも目を付けられていたみたいだから、お気を付けて」
「……どうもありがとう」
「あら、クレオ様が踊り終わったみたいね。こちらへ歩いてこられるわ」
彼女の言うとおりで、エイミーナを伴ったクレアが、サイファスの方へと向かってきていた。
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