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57:現れたピンクの強敵(サイファス視点)
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(クレアが、私を意識してくれている!)
その日、サイファスは天にも昇る気持ちでクレアと一夜を過ごした。
だが、未だ並んで眠る以上のことはできていない。
いざ彼女と寝るとなると、小鳥の心臓がトクトクと激しく脈打ち始め、葛藤の無限ループに陥ってしまう。数ヶ月経っても、何の進歩もない残虐鬼であった。
さて、アズム国との交渉は難航していた。
アスターという第二王子の部下は、ゴンザレスの身を案じているようだ。
しかし、アズム国の王は交渉に応じず、役に立たなかったゴンザレスを切り捨てる判断をした。
交渉を通じてわかったことは、もともとアズム国はゴンザレスに期待をしておらず、ゼシュテ国侵攻に関しては、厄介な残虐鬼のこともあって後回しにする気満々だということだった。
たとえ、いつか攻めるとしてもルナレイヴは避け、過去にあったように別の場所から軍勢で攻める手段をとるだろう。
(クレアもクレオとしてアズム国を迎え撃ったことがあったと言っていたっけ……確か、王都の寄せ集めの軍隊よりも、ルナレイヴの兵士の方が敵から見て厄介だと評価していたなあ)
と言うわけで、レダンドに引き続きゴンザレスの身柄も持て余してしまっている。
さらに、ゴンザレスに付き添いたいと王子の部下のアスターまでやって来た。
どうしようもないため、とりあえず二人とも牢屋へ入れている。
(ルナレイヴの牢屋は不要人材引き取り所じゃないんだけど)
とりあえず、ルナレイヴの国境沿いの脅威は大きな戦いに発展することなく去った。クレアの手柄だ。
色々複雑ではあるけれど、彼女に助けられたのは事実。
愛する妻への心配が先立ち、本人へは礼よりも先に説教をする羽目になったけれど……サイファスはクレアに心から感謝していた。
クレアは様々な面でルナレイヴに幸福を運んでくれる、奇跡の花嫁だ。
本当に、こんなにも素敵な女性が自分などの妻になっていいのかという思いが拭いきれない。
とはいえ、もうクレアのことが好きすぎて手放せない域に来ている。彼女が泣いて嫌がっても放してあげられそうにない。
戦が終わり、ルナレイヴはしばらく平穏な日々が続くと思われる。
これでようやく、クレアと夫婦らしく楽しく過ごすことができるのだ。
(今こそ、彼女と絆を深めるときだよね)
サイファスの心は逸った。
(クレアは私を嫌っていない! むしろ、好意を抱いてくれているみたいだ。だからきっと、彼女が自分の感情の意味に気づきさえすれば、相思相愛の夫婦になれる)
可愛い妻の葛藤を考えるだけで、自然と頬が緩む。
あともう少しの距離で、二人の心が繋がる気がした。
執務室で仕事をしつつ窓から外を眺めると、クレアが一人で散歩しているのが目に入った。
サイファスの植えた薔薇の傍でウロウロしている。
しばらくして、クレアは手前に置いてあるベンチに横になった。居眠りを始める気だ。
(なんて、無防備な!)
辺境伯家の庭なんて、どこの誰が見ているかもわからない。彼女の可憐な眠り顔を他の男に見せたくはなかった。
サイファスは、急いで庭へ直行する。
(あわよくば膝枕……いや違う。私は彼女の身を心配しているんだ!)
自分に意味不明の言い訳をしつつ、サイファスはクレアの元へ向かう。
しばらく進み、無事彼女の姿が目に入って一安心した。
「クレア……」
声を掛けて彼女の傍へ寄ろうとしたのだが、歩み寄るサイファスと眠るクレアの間にピンクの塊が飛び込んできた。
「……!?」
その塊は甲高い声を発し、ベンチに横になっていたクレアに飛びつく。
「クレオ様ぁ~っ! ああっ、こんなところにいらっしゃったのね!」
「うがっ……!?」
殺気のない不意打ちに、クレアはうめき声を上げている。
サイファスは慌ててピンクの塊をクレアから引き剥がした。
「クレア、大丈夫かい?」
「うう、サイファス? 大丈夫だ……」
ベンチから起き上がるクレアが、ピンクの塊に目をとめる。
彼女の珊瑚色の瞳が大きく見開かれた。
「エイミー……? どうしてここに」
クレアが呟いた名は、彼女の元婚約者(♀)のものだった。
その日、サイファスは天にも昇る気持ちでクレアと一夜を過ごした。
だが、未だ並んで眠る以上のことはできていない。
いざ彼女と寝るとなると、小鳥の心臓がトクトクと激しく脈打ち始め、葛藤の無限ループに陥ってしまう。数ヶ月経っても、何の進歩もない残虐鬼であった。
さて、アズム国との交渉は難航していた。
アスターという第二王子の部下は、ゴンザレスの身を案じているようだ。
しかし、アズム国の王は交渉に応じず、役に立たなかったゴンザレスを切り捨てる判断をした。
交渉を通じてわかったことは、もともとアズム国はゴンザレスに期待をしておらず、ゼシュテ国侵攻に関しては、厄介な残虐鬼のこともあって後回しにする気満々だということだった。
たとえ、いつか攻めるとしてもルナレイヴは避け、過去にあったように別の場所から軍勢で攻める手段をとるだろう。
(クレアもクレオとしてアズム国を迎え撃ったことがあったと言っていたっけ……確か、王都の寄せ集めの軍隊よりも、ルナレイヴの兵士の方が敵から見て厄介だと評価していたなあ)
と言うわけで、レダンドに引き続きゴンザレスの身柄も持て余してしまっている。
さらに、ゴンザレスに付き添いたいと王子の部下のアスターまでやって来た。
どうしようもないため、とりあえず二人とも牢屋へ入れている。
(ルナレイヴの牢屋は不要人材引き取り所じゃないんだけど)
とりあえず、ルナレイヴの国境沿いの脅威は大きな戦いに発展することなく去った。クレアの手柄だ。
色々複雑ではあるけれど、彼女に助けられたのは事実。
愛する妻への心配が先立ち、本人へは礼よりも先に説教をする羽目になったけれど……サイファスはクレアに心から感謝していた。
クレアは様々な面でルナレイヴに幸福を運んでくれる、奇跡の花嫁だ。
本当に、こんなにも素敵な女性が自分などの妻になっていいのかという思いが拭いきれない。
とはいえ、もうクレアのことが好きすぎて手放せない域に来ている。彼女が泣いて嫌がっても放してあげられそうにない。
戦が終わり、ルナレイヴはしばらく平穏な日々が続くと思われる。
これでようやく、クレアと夫婦らしく楽しく過ごすことができるのだ。
(今こそ、彼女と絆を深めるときだよね)
サイファスの心は逸った。
(クレアは私を嫌っていない! むしろ、好意を抱いてくれているみたいだ。だからきっと、彼女が自分の感情の意味に気づきさえすれば、相思相愛の夫婦になれる)
可愛い妻の葛藤を考えるだけで、自然と頬が緩む。
あともう少しの距離で、二人の心が繋がる気がした。
執務室で仕事をしつつ窓から外を眺めると、クレアが一人で散歩しているのが目に入った。
サイファスの植えた薔薇の傍でウロウロしている。
しばらくして、クレアは手前に置いてあるベンチに横になった。居眠りを始める気だ。
(なんて、無防備な!)
辺境伯家の庭なんて、どこの誰が見ているかもわからない。彼女の可憐な眠り顔を他の男に見せたくはなかった。
サイファスは、急いで庭へ直行する。
(あわよくば膝枕……いや違う。私は彼女の身を心配しているんだ!)
自分に意味不明の言い訳をしつつ、サイファスはクレアの元へ向かう。
しばらく進み、無事彼女の姿が目に入って一安心した。
「クレア……」
声を掛けて彼女の傍へ寄ろうとしたのだが、歩み寄るサイファスと眠るクレアの間にピンクの塊が飛び込んできた。
「……!?」
その塊は甲高い声を発し、ベンチに横になっていたクレアに飛びつく。
「クレオ様ぁ~っ! ああっ、こんなところにいらっしゃったのね!」
「うがっ……!?」
殺気のない不意打ちに、クレアはうめき声を上げている。
サイファスは慌ててピンクの塊をクレアから引き剥がした。
「クレア、大丈夫かい?」
「うう、サイファス? 大丈夫だ……」
ベンチから起き上がるクレアが、ピンクの塊に目をとめる。
彼女の珊瑚色の瞳が大きく見開かれた。
「エイミー……? どうしてここに」
クレアが呟いた名は、彼女の元婚約者(♀)のものだった。
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