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46:不良令嬢とかつての仲間

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 クレアはサイファスに駆け寄った。

「サイファス! お前、なんて危険な奴を雇っているんだ!」

 突然のクレアの抗議にサイファスは戸惑った表情を浮かべる。

「どうしたんだい、クレア? 何かあったの? アデリオもいるけど……屋敷から出てきたのかい?」
「こいつは、俺の仕事を手伝ってくれているんだ」
「へえ……」

 アデリオが気まずそうに目を逸らせたが、クレアは気づかなかった。

「第七部隊の隊長――ハクなら大丈夫だよ。クレア、彼は僕が引き入れたんだ」
「引き入れたって、お前、あいつが何者か知っているのか!?」

 クレアは、ほわほわしているサイファスが心配だった。残虐鬼なんて呼ばれているが、クレアの見る限り、サイファスは箱入りお坊ちゃんなのである。
 サイファスはクレアに穏やかな笑みを向けて言った。

「うん、密偵でしょ? 彼は元々余所の依頼で私を探りに来たけれど、お願いして寝返ってもらったんだよ」
「えげつないやり方でな」

 口を挟んだ六十八番は、ハクという名前で呼ばれているようだ。
 だが、クレアは「サイファス」と「えげつないやり方」が結びつかない。
 過去にサイファスの戦っている姿を見たことがあるが、強く綺麗な剣技という印象を受けている。なので、ハクが大げさに話しているのだと思った。
 アデリオだけが、納得した様子で頷いていた。

「しっかし、七十七番が辺境伯夫人になっているとはねえ! 上手くやったな、お前」
「お前こそ、隊長になっているなんてな。今はハクって言うのか?」
「ああ、便宜上そう名乗っている。主な仕事は隣国や王都の情報収集だな」
「その割に、俺のことに気づかなかったんだな」
「辺境伯に止められていた。女性をコソコソ嗅ぎ回るような真似はしたくないって……」

 紳士的なサイファスだが、相手は深窓の令嬢だから大丈夫だろうという油断もあったに違いないとクレアは思う。
 考え込んでいると、サイファスがクレアに尋ねた。

「クレア、ハクとは顔見知りなの?」
「子供の頃、同じ組織にいたんだ。世間は狭いな」
「そっか。仲……いいんだね」

 サイファスがそう呟くと、何故かアデリオとハクが彼から距離を取った。

「七十……クレア様、お前、辺境伯をなんとかしろ!」
「何言ってんだ?」

 クレアが隣を見ると、サイファスは「どうしたんだい?」と、いつも通りの微笑みを向けてくる。
 ハクが何を恐れているのかわからないクレアだった。

「それはそうとクレア様、第七部隊に入る気はないのか?」
「うーん。今は新人を育てているからな。それが終わったら考える」
「そうだな、辺境伯が怖いしな。アデリオの方は、どうなんだ?」
「俺はクレアの侍従だから」
「……侍従ねえ。お前、昔から器用だもんなぁ」

 結局、第七部隊隊長の勧誘は不発に終わった。
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