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34:食べ物につられる不良令嬢
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翌朝、サイファスがピクニックに出かけようと誘ってきた。
ルナレイヴの地を案内してくれるというので、クレアは素直についていくことにする。
昨日の気まずさは若干残っているものの、サイファスはその話題を持ち出さない。
二人で一頭ずつ馬に乗り、目的地へと向かった。
日帰りで行ける距離は限度があるけれど、景色の良い場所があるそうだ。
サイファスとクレアの組み合わせなので護衛は不要である。
マルリエッタは嬉々として二人を見送った。
そうして昼前に、クレアとサイファスは目的地に到着した。目の前に広がるのは草原と大きな湖だ。
ルナレイヴにはたくさんの湖が点在している。
中でも一番大きな湖の畔には、サイファスの持つ別邸があるのだとか。その周りには、人口二百人ほどの小さな村もあるらしい。
サイファスは、楽しそうにルナレイヴの魅力をクレアに解説する。
湖の背後には小高い丘があり、その向こうには木々が生い茂る小道が続いているようだ。
クレアたちは湖の手前で昼食を食べることにした。
持たされた包みを開くと、屋敷の料理人が気合いを入れて作った品々が現れる。数々のサンドウィッチにカラフルなサラダ、羊や鳥のグリルに凝ったデザート。
ピクニックの弁当というには豪勢すぎる内容だった。
真っ先に肉を頬張るクレアに向かって、サイファスが話しかける。
「マルリエッタから聞いたけど、クレアはお酒が好きなんだってね。ルナレイヴでは、たくさんの酒が造られているよ。クレアの気に入るものも見つかるんじゃないかな」
「本当か……!?」
クレアは身を乗り出した。
「ゼシュテ国の東側には、地元の素材を活かした小さな工房が多いんだ。特にウイスキーやチーズがたくさん作られていて……ルナレイヴにもいくつか蒸溜所がある」
蒸溜所はクレアの興味のある場所だ。なんといっても作りたての酒が飲める。
サイファスは酒造りについても詳しいらしく、クレアに説明をし始めた。
「まず、二日ほど水に漬けた大麦を床に敷き詰め、発芽するまで一週間ほど育成させる。次に発芽した大麦を乾燥させ、粉砕した麦芽を湯と混ぜて、これを発酵して二度蒸溜する」
すると、アルコール度数七十度の素晴らしい飲み物になるらしい。その名をウイスキーという。
「さらに、湯に混ぜた麦芽を糖化させ、ホップを加えて発酵すればビールになるんだよ」
ルナレイヴは酒飲みにとっての天国だった。自然とテンションの上がるクレア。
完全にサイファスのペースに飲まれている。
「大麦は料理にも使われるんだ」
「そういえば、屋敷で良く出されるスープには、野菜や肉の他に麦が入っていたな」
「ソーセージの隠し味や粥にも大麦が使われるよ」
サイファスとの外出は、本で領地の勉強をするよりずっと楽しい。
クレアはかなり、この地が好きになりそうだった。
「ルナレイヴの北側には宝石や石炭の取れる山もあるんだ。その近辺には修道院なんかもある」
その山を狙って隣の国が、ちょっかいをかけてきているわけだ。
「……思ったより発展しているな。ルナレイヴでは酪農も盛んそうだし」
すると、サイファスは緩く首を横に振った。
「こんな風になったのは、最近のことなんだ。昔は人と家畜が同じ建物に住んでいたんだよ。ルナレイヴは度々他国に侵攻されて、とても貧しかったからね。私たちも食べ物がなくなると豚の血を採って蒸し、固めて食べていた」
「……そっか。お前も大変だったんだな」
今のルナレイヴがあるのは、サイファスの尽力のおかげなのだろう。
目の前の人物の功績が、唯々眩しいクレアだった。
豚の血の話から飛ぶが、辺境ではハムやベーコン、ソーセージ作りも盛んだ。王都で流行の生ハムも、東の地で作られることが多い。
生ハムは、精肉を塩漬けして乾燥させたもので、肉を塩漬けする職人が揉みほぐした肉を温度の低い場所に百日近く置き、乾燥させてから熟成させる。
ソーセージは、そのままでは食べにくい豚の血や内臓を塩やスパイスで味付けしてから胃袋や腸袋に詰め、燻製して保存したものだ。冬場の保存食にもなる。さらに、これを干せばサラミになるのだ。
全部クレアの大好物である。
サイファスは、食べ物でクレアを釣る作戦に出たようだった。
ルナレイヴの地を案内してくれるというので、クレアは素直についていくことにする。
昨日の気まずさは若干残っているものの、サイファスはその話題を持ち出さない。
二人で一頭ずつ馬に乗り、目的地へと向かった。
日帰りで行ける距離は限度があるけれど、景色の良い場所があるそうだ。
サイファスとクレアの組み合わせなので護衛は不要である。
マルリエッタは嬉々として二人を見送った。
そうして昼前に、クレアとサイファスは目的地に到着した。目の前に広がるのは草原と大きな湖だ。
ルナレイヴにはたくさんの湖が点在している。
中でも一番大きな湖の畔には、サイファスの持つ別邸があるのだとか。その周りには、人口二百人ほどの小さな村もあるらしい。
サイファスは、楽しそうにルナレイヴの魅力をクレアに解説する。
湖の背後には小高い丘があり、その向こうには木々が生い茂る小道が続いているようだ。
クレアたちは湖の手前で昼食を食べることにした。
持たされた包みを開くと、屋敷の料理人が気合いを入れて作った品々が現れる。数々のサンドウィッチにカラフルなサラダ、羊や鳥のグリルに凝ったデザート。
ピクニックの弁当というには豪勢すぎる内容だった。
真っ先に肉を頬張るクレアに向かって、サイファスが話しかける。
「マルリエッタから聞いたけど、クレアはお酒が好きなんだってね。ルナレイヴでは、たくさんの酒が造られているよ。クレアの気に入るものも見つかるんじゃないかな」
「本当か……!?」
クレアは身を乗り出した。
「ゼシュテ国の東側には、地元の素材を活かした小さな工房が多いんだ。特にウイスキーやチーズがたくさん作られていて……ルナレイヴにもいくつか蒸溜所がある」
蒸溜所はクレアの興味のある場所だ。なんといっても作りたての酒が飲める。
サイファスは酒造りについても詳しいらしく、クレアに説明をし始めた。
「まず、二日ほど水に漬けた大麦を床に敷き詰め、発芽するまで一週間ほど育成させる。次に発芽した大麦を乾燥させ、粉砕した麦芽を湯と混ぜて、これを発酵して二度蒸溜する」
すると、アルコール度数七十度の素晴らしい飲み物になるらしい。その名をウイスキーという。
「さらに、湯に混ぜた麦芽を糖化させ、ホップを加えて発酵すればビールになるんだよ」
ルナレイヴは酒飲みにとっての天国だった。自然とテンションの上がるクレア。
完全にサイファスのペースに飲まれている。
「大麦は料理にも使われるんだ」
「そういえば、屋敷で良く出されるスープには、野菜や肉の他に麦が入っていたな」
「ソーセージの隠し味や粥にも大麦が使われるよ」
サイファスとの外出は、本で領地の勉強をするよりずっと楽しい。
クレアはかなり、この地が好きになりそうだった。
「ルナレイヴの北側には宝石や石炭の取れる山もあるんだ。その近辺には修道院なんかもある」
その山を狙って隣の国が、ちょっかいをかけてきているわけだ。
「……思ったより発展しているな。ルナレイヴでは酪農も盛んそうだし」
すると、サイファスは緩く首を横に振った。
「こんな風になったのは、最近のことなんだ。昔は人と家畜が同じ建物に住んでいたんだよ。ルナレイヴは度々他国に侵攻されて、とても貧しかったからね。私たちも食べ物がなくなると豚の血を採って蒸し、固めて食べていた」
「……そっか。お前も大変だったんだな」
今のルナレイヴがあるのは、サイファスの尽力のおかげなのだろう。
目の前の人物の功績が、唯々眩しいクレアだった。
豚の血の話から飛ぶが、辺境ではハムやベーコン、ソーセージ作りも盛んだ。王都で流行の生ハムも、東の地で作られることが多い。
生ハムは、精肉を塩漬けして乾燥させたもので、肉を塩漬けする職人が揉みほぐした肉を温度の低い場所に百日近く置き、乾燥させてから熟成させる。
ソーセージは、そのままでは食べにくい豚の血や内臓を塩やスパイスで味付けしてから胃袋や腸袋に詰め、燻製して保存したものだ。冬場の保存食にもなる。さらに、これを干せばサラミになるのだ。
全部クレアの大好物である。
サイファスは、食べ物でクレアを釣る作戦に出たようだった。
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