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26:おかしな辺境伯と侍女の観察眼

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 屋敷に帰ったクレアは、何故かサイファスに抱きしめられていた。
 馬に乗せられて帰るときも、屋敷に帰った後も、サイファスがクレアを放そうとしない。
 しかも、このおかしな状態を屋敷中の誰もが黙認している。

「なあ、サイファス。いつまでこうしている気だ?」
「クレアの無事を噛みしめているんだ。夫婦なら普通のことだよ」

 こんな白昼堂々と妻を抱えて放さない男が普通であるわけがない。
 アデリオは、ものすごく複雑な顔でクレアたちを見てくる。

「暑いから、いい加減この手をほどいてくれないか?」

 しかし、彼は聞く耳を持たない。

「君に怪我がなくて良かった」
「ああ。マルリエッタと大男のおかげだ」
「その大男にお礼がしたいけど、手がかりが少なすぎて身元がわからないね」
「しなくていいんじゃないか? ええと、騒ぎにしたくなさそうだったし」
「そうなの?」
「そうなんだ……!!」

 ぶんぶんと首を縦に振るクレアを見て、サイファスは不思議そうな表情を浮かべていた。
 話の途中でマルリエッタが目覚めたと知らせが入り、クレアは彼女の元へ向かうことにした。
 マルリエッタは寝間着姿で横になっているため、サイファスはひとまず遠慮することにしたようだ。
 女同士ということもあり、クレアは堂々とマルリエッタの部屋に入った。

「マルリエッタ、もう大丈夫なのか?」

 ベッドに近づくと、マルリエッタが上半身を起こす。

「クレア様、ご無事でしたか。良かった……」
「俺のことはいい。見たところ、脳しんとうを起こしていたようだが、体におかしなところはないか?」
「ええ、特に。先ほどお医者様も来られましたが、体に異常はないと」
「助けてくれてありがとうな」

 礼を言うと、何故かマルリエッタは顔を曇らせる。彼女の細い指はブランケットの端を強く握りしめていた。
 胡桃色の目を伏せた彼女は、ためらいがちにクレアに問いかける。

「クレア様、あなたは……一体何者なのですか?」
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