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25:不良令嬢の苦しすぎる言い訳
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パンパンと紺色のスカートの埃を払ったクレアは、刃物を懐へ戻しながら周囲を見回した。
他に敵は潜んでいないようだ。
地面には、気絶したならず者たちが転がっている。
リーダー格の男は刃物の刺し傷により負傷していたが、動けないだけでまだ息はあった。
馬車の御者も生きており、怪我で意識を失っているだけのようだ。
御者やマルリエッタを馬車の座席に移動させていると、馬の蹄の音が聞こえてきた。
屋敷に近いこの場所で馬を使うのは辺境伯家の関係者に違いない。
(このままじゃまずいな)
慌てたクレアは結んでいたスカートの裾をほどき、いかにも「か弱い被害者です」と言わんばかりの表情で地面に蹲ってみせる。
蹄の音の主は、サイファスとアデリオだった。
「クレア……! 一体何が!?」
血相を変えたサイファスが馬から下りて駆け寄ってきた。
「サイファス? 仕事は?」
「早く終わったのでクレアに合流しようと思って来たんだ。けれど、これは……」
「帰り道で、そいつらが襲ってきた。俺を攫って、サイファスへの人質にしようと企んでいたみたいだ。御者とマルリエッタは怪我をして馬車の中にいる」
サイファスの顔が険しくなり、彼からピリピリとした空気が立ち上る。
クレアは、彼が侍女や御者が負傷させられたことに怒っているのだと思った。
「けれど、どうしてクレアたちを襲った相手が地面に倒れているのかな」
「ああー……それは……」
必死に頭を働かせ、クレアは言い訳を考える。
「マルリエッタが半分やっつけて、残りは通りすがりの強そうな大男が……倒してくれて…………その後、颯爽と去って行ったんだ」
サイファスの背後に控えるアデリオの顔が盛大に歪んでいる。
クレアの苦しすぎる言い訳に呆れ、笑うのを我慢しているようだった。
アデリオを睨むと、彼は「仕方ないな」と首を振りつつ口を開く。
「サイファス様、この者たちを捕縛しましょう。それから、怪我人の手当てを……」
「そ、そうだな」
街角の人通りの少ない場所だが、誰も通らないわけではない。
人々に余計な不安を与えないよう、手早く事件を処理する必要がある。
ひとまずその場をしのいだクレアは返り血を拭いつつ、ハァとため息を吐くのだった。
他に敵は潜んでいないようだ。
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御者やマルリエッタを馬車の座席に移動させていると、馬の蹄の音が聞こえてきた。
屋敷に近いこの場所で馬を使うのは辺境伯家の関係者に違いない。
(このままじゃまずいな)
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蹄の音の主は、サイファスとアデリオだった。
「クレア……! 一体何が!?」
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「帰り道で、そいつらが襲ってきた。俺を攫って、サイファスへの人質にしようと企んでいたみたいだ。御者とマルリエッタは怪我をして馬車の中にいる」
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「けれど、どうしてクレアたちを襲った相手が地面に倒れているのかな」
「ああー……それは……」
必死に頭を働かせ、クレアは言い訳を考える。
「マルリエッタが半分やっつけて、残りは通りすがりの強そうな大男が……倒してくれて…………その後、颯爽と去って行ったんだ」
サイファスの背後に控えるアデリオの顔が盛大に歪んでいる。
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アデリオを睨むと、彼は「仕方ないな」と首を振りつつ口を開く。
「サイファス様、この者たちを捕縛しましょう。それから、怪我人の手当てを……」
「そ、そうだな」
街角の人通りの少ない場所だが、誰も通らないわけではない。
人々に余計な不安を与えないよう、手早く事件を処理する必要がある。
ひとまずその場をしのいだクレアは返り血を拭いつつ、ハァとため息を吐くのだった。
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