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24:不良令嬢の反撃!

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 マルリエッタは、あっという間に指示を出すリーダー以外の男たちを伸してしまった。
 彼女の目は残った男を睨んでいる。

「あなた方は、どこの手の者です? 痛い目に遭いたくなければ話しなさい!」

 しかし、リーダーの男は何も話さない。じりじりとマルリエッタとの距離を縮めていく。
 男の武器は先端にとげのある鉄球がついた鎖鞭だった。
 ぶんぶんと鉄球を振り回した男は、それをマルリエッタめがけて投げつける。
 鎖鞭は当たれば肉を引き裂き、時には内臓をも損傷させてしまう恐ろしい武器だ。
 わざわざそんな武器を選んで使う当たり悪趣味と言える。
 マルリエッタは、人間の動体視力では追えない不規則な動きをする鎖に苦戦していた。

(助けるか……)

 迷っていたところ、不意にマルリエッタの体がのけぞった。
 背後に潜んでいた別の仲間が彼女に攻撃を仕掛けたのだ。
 その隙にリーダーの男が体勢を崩したマルリエッタに近づき、彼女を気絶させる。
 不意を突かれたマルリエッタはその場に崩れ落ちてしまった。

「殺すな。辺境伯夫人に直接仕えているなら、きっといい家のお嬢様だ。高値で売れる」
「それで、辺境伯夫人は?」
「もちろん連れて行く。辺境伯への大事な人質だからな」

 新しく現れたならず者二人が馬車に迫る。
 クレアは動きやすいようドレスの裾を結んで身構えた。
 ならず者たちが扉を開け放った瞬間、足から外に飛び出す。クレアは厚い靴底で一人の顔面を踏みつけた。

「ぐえっ!」

 一人を倒した直後に、もう一人の顔面に拳をたたき込む。そうして、体勢を崩した男の腰から剣を引き抜き奪った。
 その柄で二人を昏倒させた後、クレアはリーダーの男に向き直る。

「おい、オッサン。さっさとマルリエッタを放せ……死にたくないならな」
「なんなんだ!? この女もお前も、おかしいんじゃないのか!? 残虐鬼の屋敷の女は皆こんななのか!?」

 リーダーの男は、おののきながらも声を張り上げた。

「こ、この女がどうなってもいいのか! 大人しく我々に従え!」
「裏に誰がいるのか吐かせる必要はあるが、事情を知っている奴は一人いればいいんだ。あとは生かすも殺すも俺次第……」

 そう口にしたクレアは、倒れた男たちを眺める。いずれもまだ息があるようだ。

「そんじゃ、オッサンには消えてもらうか」

 焦った表情を浮かべるリーダーの男は、太い腕でマルリエッタの首を抱え込んだ。骨を折ろうとしているのだ。
 しかし、その隙を見逃すクレアではない。
 持っていた剣をためらうことなく男の眉間めがけて投げつけた。剣はまっすぐ飛び、男は間一髪のところでそれを避ける。
 それと同時に相手の懐に迫ったクレアは、マルリエッタを男から引き離すことに成功した。
 しかし、我に返った男はすぐさま地面に置いていた鎖鞭を持ち、クレアに狙いを定めている。

「いいのか? 俺はサイファスに対する人質なんだろ? そんなもんを当てたら大怪我じゃ済まなくなるぞ?」
「う、煩い! お前が辺境伯夫人の訳がない! 夫人はか弱い令嬢のはずで、お前は偽物だ!」

 マルリエッタを馬車の陰に隠したクレアは、鎖鞭を避けつつ男に迫った。

「剣を捨てた丸腰の女に何が出来る!」

 鎖鞭が使えない距離まで近づいたクレアを倒そうと、男が腕を伸ばす。
 体術でならクレアに勝てると踏んでいるのだ。
 実際に体格差は大きい上、不意打ちが出来ないクレアは不利だった。
 しかし、間近に迫ったクレアはニヤリと不敵に笑い懐に手を入れた。

「誰が丸腰だって、オッサン?」

 直後、静かな街に男の苦悶の叫びがこだました。
 幼少期を密偵として過ごしたクレアには、懐に凶器を隠し持つ習慣があったのだ。
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