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20:残虐鬼の屋敷案内
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サイファスとクレアは、一緒に屋敷の廊下を歩く。
戦いが一段落したこともあり、屋敷の中は落ち着いた空気が漂っていた。
歴史ある重厚な造りの建物に、二人分の靴音が響く。
クレアは隣を歩くサイファスを見上げた。
流れるような金髪に青い瞳の美丈夫は、残虐鬼とは思えないほどの優男。
数度にわたり結婚が流れた人物には見えない。
歩きながら彼を観察していると、青空色の瞳と目が合いふわりと微笑まれた。
「ここが私の書斎だよ」
最初に案内された場所は、壁一面が本に覆われた空間だった。
中央には執務机が置かれている。
父ミハルトン伯爵は寝室と執務室を同じにしていたが、彼は仕事とプライベートを分けたい性質らしかった。
クレアは隙間なく並べられた本を見て感嘆のため息を漏らす。
「すごいな。こんな書斎は初めて見た」
「好きな本があれば、何でも持って行っていいよ。クレアの好む読み物はないかもしれないけれど……」
「どちらかというと、物語よりも領地に関する本を読みたい」
ルナレイヴの知識を得るために言ったのだが、サイファスは感極まった顔でクレアを見た。
「クレア、この領地のことを思ってくれているんだね。ありがとう!」
「自分がいる場所のことを知らないのが嫌なだけだ」
「……本当に、君と結婚できて良かった」
嬉しそうな笑みを向ける彼を見て、クレアはまた罪悪感がうずいた。
続いて、厨房や使用人部屋、客室やダイニングなど全ての部屋を回っていく。
案内するサイファスは、とても楽しそうだった。彼がこの屋敷を愛していることがわかる。
その後は庭を散策した。
「そういえば、サイファスは薔薇の世話をしているんだな」
「全部じゃないよ。この一角だけ」
「マルリエッタが、『奥様のために植えた』って言ってた」
「……っ!」
前に聞いた話を伝えると、サイファスの頬が朱に染まる。
そっと顔を逸らす彼は、うら若い乙女のようだった。
(女みたいな反応だなあ)
クレオ時代の自分の婚約者だった女性を思い浮かべ、クレアは小さく瞬きした。
庭を一通り見て歩き、最後にサイファスの寝室へ向かう。
「クレアの部屋の隣が私の部屋なんだよ」
「……入っていいのか?」
「うん。クレアは私の奥さんだから」
儚い笑顔を向けられ、クレアはまた居心地が悪くなった。
「さあ、どうぞ」
手を引かれ、サイファスの寝室へ足を踏み入れる。
彼の部屋は落ち着いた色彩の広い空間だった。
クレアは密かに自分のレースに覆われた部屋と交換して欲しいと思った。
「せっかくだから、お茶にしようか。クレア、こっちに座って」
「わかった」
部屋の中央に置かれた長椅子に二人並んで腰掛ける。
しばらくサイファスと話をしていると、満面の笑みを浮かべたマルリエッタがお茶を運んで来たのだった。
戦いが一段落したこともあり、屋敷の中は落ち着いた空気が漂っていた。
歴史ある重厚な造りの建物に、二人分の靴音が響く。
クレアは隣を歩くサイファスを見上げた。
流れるような金髪に青い瞳の美丈夫は、残虐鬼とは思えないほどの優男。
数度にわたり結婚が流れた人物には見えない。
歩きながら彼を観察していると、青空色の瞳と目が合いふわりと微笑まれた。
「ここが私の書斎だよ」
最初に案内された場所は、壁一面が本に覆われた空間だった。
中央には執務机が置かれている。
父ミハルトン伯爵は寝室と執務室を同じにしていたが、彼は仕事とプライベートを分けたい性質らしかった。
クレアは隙間なく並べられた本を見て感嘆のため息を漏らす。
「すごいな。こんな書斎は初めて見た」
「好きな本があれば、何でも持って行っていいよ。クレアの好む読み物はないかもしれないけれど……」
「どちらかというと、物語よりも領地に関する本を読みたい」
ルナレイヴの知識を得るために言ったのだが、サイファスは感極まった顔でクレアを見た。
「クレア、この領地のことを思ってくれているんだね。ありがとう!」
「自分がいる場所のことを知らないのが嫌なだけだ」
「……本当に、君と結婚できて良かった」
嬉しそうな笑みを向ける彼を見て、クレアはまた罪悪感がうずいた。
続いて、厨房や使用人部屋、客室やダイニングなど全ての部屋を回っていく。
案内するサイファスは、とても楽しそうだった。彼がこの屋敷を愛していることがわかる。
その後は庭を散策した。
「そういえば、サイファスは薔薇の世話をしているんだな」
「全部じゃないよ。この一角だけ」
「マルリエッタが、『奥様のために植えた』って言ってた」
「……っ!」
前に聞いた話を伝えると、サイファスの頬が朱に染まる。
そっと顔を逸らす彼は、うら若い乙女のようだった。
(女みたいな反応だなあ)
クレオ時代の自分の婚約者だった女性を思い浮かべ、クレアは小さく瞬きした。
庭を一通り見て歩き、最後にサイファスの寝室へ向かう。
「クレアの部屋の隣が私の部屋なんだよ」
「……入っていいのか?」
「うん。クレアは私の奥さんだから」
儚い笑顔を向けられ、クレアはまた居心地が悪くなった。
「さあ、どうぞ」
手を引かれ、サイファスの寝室へ足を踏み入れる。
彼の部屋は落ち着いた色彩の広い空間だった。
クレアは密かに自分のレースに覆われた部屋と交換して欲しいと思った。
「せっかくだから、お茶にしようか。クレア、こっちに座って」
「わかった」
部屋の中央に置かれた長椅子に二人並んで腰掛ける。
しばらくサイファスと話をしていると、満面の笑みを浮かべたマルリエッタがお茶を運んで来たのだった。
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