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1章
34・隷属の力が目覚めました
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一つ、二つと傷が増えていく。
アデーレも、シュリも満身創痍だ。
(私も、もっと強ければいいのに)
傷だらけになりながら純血の吸血鬼と戦い続けるシュリを見て、私の心に小さな変化が生まれていた。
(もっと強くなりたい、もっと力が欲しい……)
またシュリが怪我をし、傷口から真新しい血が湧き出てくる。
それはポタリポタリと垂れ落ちて、地面に小さな黒い染みをたくさん作った。
近くに弾き飛ばされたシュリに駆け寄り、彼を気遣う。
そうしながらも、私の視線は彼の流す血に注がれていた。
「血が欲しいの?」
「違うわよ、今はそれどころじゃないでしょう?」
「給餌は夫の義務だよ」
「だからっ、それは後でいいから……うぐっ!」
シュリは、大きな腕の傷口を問答無用で私の唇に押し当てる。
そんなことをされて、本能に抗えるはずがない。私は体が要求するがままに、彼の腕にすがった。
給餌行為など御構いなしに、長い爪を伸ばしたアデーレがこちらへ突進してくる。
食事を邪魔する彼女が、ひどく煩わしい。
(排除したい……もっと血が欲しい)
気がつけば私は、アデーレに向けて長い爪を振り下ろしていた。
今まで意識しても伸びなかった爪が、鋭く長く伸びて、敵の腹をえぐっている。
「ううっ、あぐっ……!」
美しい女吸血鬼は、苦しそうに天を仰いだ。
それを見た私は、もう片方の腕も振り下ろす。今度は、左手の爪がアデーレの頰の肉を削いだ。
「人間、風情が……」
こちらからの反撃は、予想していなかったのだろう。私自身でさえ、こんな行動をとれるなんて思わなかった。
膝をついたアデーレに、今度はシュリが攻撃を加える。釣られた私も、本能の赴くままに爪を振り上げだ。
途中からは、完全に理性は吹き飛んでいて、気がつけば私はシュリの腕に抱えられ、止められていた。
空がうっすらと白み始めており、地面には動かなくなったアデーレが落ちている。
シュリの隣には、険しい表情のレオンも立っていた。
「ああ、サラ……理性が戻ったみたいだね」
「シュリ……?」
喉の渇きがひどく、声がかすれている。
「力を使いすぎて、血が足りなくなっているんだね。おいで……」
甘い誘い声に導かれるままに、私はシュリへと腕を伸ばした。
無我夢中でシュリの首筋に牙を立てる。出血多量の状態の彼にこんなことをして大丈夫なのかとも思うが、本能には逆らえないのだ。
「大丈夫だよ、サラ。たくさん僕の血を飲むといい」
シュリは、私の行為を増長させるようなことを言う。
私の理性が戻り始めた頃、レオンがアデーレに近づいた。彼女はまだ死んでいないが、怪我を負いすぎて動けなくなっているみたいだ。
「後始末は、俺がつける。面倒かけたな」
「本当だよ。僕はともかく、サラまで怪我をしたんだから」
その言葉を聞いたレオンは、さらに険しい表情を浮かべた。
「サラ、本部へ戻ろう。後のことはレオンが片付けてくれるから」
「でも……」
「血をたくさん摂取した花嫁には、休息も必要だよ。立っているのも辛いでしょう?」
確かにそうだった、慣れない動きを続けたせいか、体がだるくて重くて仕方がない。
そして、明るくなるにつれて猛烈な睡魔が襲ってくる。
「いいよ、サラ……眠って」
素直にシュリの声に従うように、私の意識は奥深くへと落ちていった。
※
純血の吸血鬼による大規模な反乱は、ハンター達の危機感を煽った。
吸血鬼側についてはレオンが騒動を収めたものの、人間の側では、教会に属さないすべての吸血鬼退治をすべきだという強行論も生まれている。
そして、アデーレについてなのだが、あの後彼女の消息はつかめていない。
おそらくだけれど、レオンが手を下したのではないかと思う。シュリも、そういう見解だった。
吸血鬼ハンター教会本部では、気の滅入るような重い話題が増えたが、そればかりではなくおめでたい話もある。
ナデシコがユーロの子供を身ごもったのだ。一時的に前線から退いた彼女は、本部の部屋の中で安静に過ごしている。外出時は、ユーロも一緒だ。
彼らの子供は、リコのようにハンター教会の中で育てられることになるだろう。
そうして、パートナーを見つけ、将来は一級ハンターとして吸血鬼退治を担う。
私はといえば、妊娠なんてする予定もない。
シュリとは、吸血鬼退治をする目的のために夫婦になっている……そう割り切っていたつもりだった。なのに、アデーレと戦った夜以来、私の中で彼の立ち位置が微妙に変化している。
命をかけて自分を守ってくれた相手に、ただならぬ情が湧いてしまったのだ。それが、とにかく厄介だった。
「サラ、夜の散歩へ行こう」
同じ部屋の中、シュリが微笑みながらこちらへ手を差し伸べてくる。
今までならば、彼が何をしようと平気だった。適当にあしらうか、気分が良ければ少しだけ誘いに乗っていた……はずだ。なんにせよ、何も考えずに自然に行動できていた。
だというのに、あれからの私は変なのだ。
シュリの一挙一動に、激しく動揺してしまっている。
特に、今のような微笑みを浮かべられたら、激しく心臓が脈打ってどうしたらいいのかわからなくなる。
「あ、うん、そうね」
必要不可欠である吸血行為すら、恥ずかしい。なんだかよくわからないが、重症だった。
リコに相談してみたのだが、「まったく、勝手に二人で解決してよ」と取り合ってもらえない。
ナデシコも生暖かい笑みを浮かべるだけで、アドバイスは何もくれなかった。
一体、どうしたら良いというのだろう。
アデーレも、シュリも満身創痍だ。
(私も、もっと強ければいいのに)
傷だらけになりながら純血の吸血鬼と戦い続けるシュリを見て、私の心に小さな変化が生まれていた。
(もっと強くなりたい、もっと力が欲しい……)
またシュリが怪我をし、傷口から真新しい血が湧き出てくる。
それはポタリポタリと垂れ落ちて、地面に小さな黒い染みをたくさん作った。
近くに弾き飛ばされたシュリに駆け寄り、彼を気遣う。
そうしながらも、私の視線は彼の流す血に注がれていた。
「血が欲しいの?」
「違うわよ、今はそれどころじゃないでしょう?」
「給餌は夫の義務だよ」
「だからっ、それは後でいいから……うぐっ!」
シュリは、大きな腕の傷口を問答無用で私の唇に押し当てる。
そんなことをされて、本能に抗えるはずがない。私は体が要求するがままに、彼の腕にすがった。
給餌行為など御構いなしに、長い爪を伸ばしたアデーレがこちらへ突進してくる。
食事を邪魔する彼女が、ひどく煩わしい。
(排除したい……もっと血が欲しい)
気がつけば私は、アデーレに向けて長い爪を振り下ろしていた。
今まで意識しても伸びなかった爪が、鋭く長く伸びて、敵の腹をえぐっている。
「ううっ、あぐっ……!」
美しい女吸血鬼は、苦しそうに天を仰いだ。
それを見た私は、もう片方の腕も振り下ろす。今度は、左手の爪がアデーレの頰の肉を削いだ。
「人間、風情が……」
こちらからの反撃は、予想していなかったのだろう。私自身でさえ、こんな行動をとれるなんて思わなかった。
膝をついたアデーレに、今度はシュリが攻撃を加える。釣られた私も、本能の赴くままに爪を振り上げだ。
途中からは、完全に理性は吹き飛んでいて、気がつけば私はシュリの腕に抱えられ、止められていた。
空がうっすらと白み始めており、地面には動かなくなったアデーレが落ちている。
シュリの隣には、険しい表情のレオンも立っていた。
「ああ、サラ……理性が戻ったみたいだね」
「シュリ……?」
喉の渇きがひどく、声がかすれている。
「力を使いすぎて、血が足りなくなっているんだね。おいで……」
甘い誘い声に導かれるままに、私はシュリへと腕を伸ばした。
無我夢中でシュリの首筋に牙を立てる。出血多量の状態の彼にこんなことをして大丈夫なのかとも思うが、本能には逆らえないのだ。
「大丈夫だよ、サラ。たくさん僕の血を飲むといい」
シュリは、私の行為を増長させるようなことを言う。
私の理性が戻り始めた頃、レオンがアデーレに近づいた。彼女はまだ死んでいないが、怪我を負いすぎて動けなくなっているみたいだ。
「後始末は、俺がつける。面倒かけたな」
「本当だよ。僕はともかく、サラまで怪我をしたんだから」
その言葉を聞いたレオンは、さらに険しい表情を浮かべた。
「サラ、本部へ戻ろう。後のことはレオンが片付けてくれるから」
「でも……」
「血をたくさん摂取した花嫁には、休息も必要だよ。立っているのも辛いでしょう?」
確かにそうだった、慣れない動きを続けたせいか、体がだるくて重くて仕方がない。
そして、明るくなるにつれて猛烈な睡魔が襲ってくる。
「いいよ、サラ……眠って」
素直にシュリの声に従うように、私の意識は奥深くへと落ちていった。
※
純血の吸血鬼による大規模な反乱は、ハンター達の危機感を煽った。
吸血鬼側についてはレオンが騒動を収めたものの、人間の側では、教会に属さないすべての吸血鬼退治をすべきだという強行論も生まれている。
そして、アデーレについてなのだが、あの後彼女の消息はつかめていない。
おそらくだけれど、レオンが手を下したのではないかと思う。シュリも、そういう見解だった。
吸血鬼ハンター教会本部では、気の滅入るような重い話題が増えたが、そればかりではなくおめでたい話もある。
ナデシコがユーロの子供を身ごもったのだ。一時的に前線から退いた彼女は、本部の部屋の中で安静に過ごしている。外出時は、ユーロも一緒だ。
彼らの子供は、リコのようにハンター教会の中で育てられることになるだろう。
そうして、パートナーを見つけ、将来は一級ハンターとして吸血鬼退治を担う。
私はといえば、妊娠なんてする予定もない。
シュリとは、吸血鬼退治をする目的のために夫婦になっている……そう割り切っていたつもりだった。なのに、アデーレと戦った夜以来、私の中で彼の立ち位置が微妙に変化している。
命をかけて自分を守ってくれた相手に、ただならぬ情が湧いてしまったのだ。それが、とにかく厄介だった。
「サラ、夜の散歩へ行こう」
同じ部屋の中、シュリが微笑みながらこちらへ手を差し伸べてくる。
今までならば、彼が何をしようと平気だった。適当にあしらうか、気分が良ければ少しだけ誘いに乗っていた……はずだ。なんにせよ、何も考えずに自然に行動できていた。
だというのに、あれからの私は変なのだ。
シュリの一挙一動に、激しく動揺してしまっている。
特に、今のような微笑みを浮かべられたら、激しく心臓が脈打ってどうしたらいいのかわからなくなる。
「あ、うん、そうね」
必要不可欠である吸血行為すら、恥ずかしい。なんだかよくわからないが、重症だった。
リコに相談してみたのだが、「まったく、勝手に二人で解決してよ」と取り合ってもらえない。
ナデシコも生暖かい笑みを浮かべるだけで、アドバイスは何もくれなかった。
一体、どうしたら良いというのだろう。
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