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1章
27・吸血鬼が学習しました
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翌日の夜、私達はリコ経由で本部での初任務を言い渡された。
今回は、シュリと二人だけの仕事らしい。
「二人には、本部付近に出没する、はぐれ吸血鬼の退治をして欲しい」
「はぐれ吸血鬼……って、何?」
「この辺りの吸血鬼は、レオンを筆頭とするジルヴァフィクス家が管理していて、一応大きな揉め事は起こさないように教育されている」
「そうなのね」
吸血鬼ハンター協会本部がある場所だ。
あちらとしても、無駄な被害を抑えたいのかもしれない。
「けど、吸血鬼側の管理はこちらが呆れ返るほど杜撰で、ジルヴァフィクス家の目を掻い潜って悪さをする奴が度々出る。そこで、本部のハンターの出番だ」
「レオン達は、自分達が管理している吸血鬼を取り締まらないの?」
「教育するだけして、後は放置というスタイルらしい。もともと向こうは「人間のために譲歩してやっている」という態度で、そこまで頑張ってはくれないんだ」
「なるほど……」
なんにせよ、私はハンターとして吸血鬼退治をするだけだ。
「シュリ、行こう」
「うん、サラは僕が守るからね。今回は結構血をあげたから、サラ自身もかなり強くなっていると思うけれど」
「血の量で、そんなにも強さが変わるの?」
「隷属の強さは、主となる吸血鬼の血の質と量で決まる。僕は混血だけれど、ジルヴァフィクス家の血が混じっているし、量だって最近は十分に与えているから、サラは隷属の中では強い部類だ」
「そうなのね。でも、隷属としての強さというのは、未だによくわからないわ」
力が強くなり、動きも早くなり、感覚も鋭くなる。それだけしか知らない。
「そうだ、シュリ。手の爪を長くて伸ばすには、どうすればいいの? シュリも、ルシード国で退治した隷属達も爪を伸ばしていたけれど、私も出来る?」
「ああー……どう説明すればいいかな。僕も他の吸血鬼も、生まれつき爪を伸ばしたりしていたらしいし、特に考えたことがなかったなあ。自然に出る感じだよ」
「えっ、意識して出しているんじゃないの?」
「気づいたら、勝手に出ているから」
「……まあいいわ。他には、なにか特別なことはできる?」
「いや、普通……かな?」
シュリはそう言うが、爪のように意図していない部分での変化があるかもしれない。
これに関しては、他の吸血鬼にも質問してみるか、自分で少しずつ解明していくしかなさそうだ。
話は戻るが、今回の目的地は協会本部の近くにある歓楽街の中だという。
お膝元で事件を起こされた協会は、かなりご立腹で早々に相手を叩き潰したいとのこと。ジルヴァフィクス家にも、もちろん苦情を入れている。
当のレオン達は、どこ吹く風のようだが……
四十九階から一階まで、専用エレベーターを使って降りる。出口に向かって歩いていると、吸血鬼ハンター達の集団とすれ違った。
「あれは、本部の二級ハンター達だね」
シュリが、耳元でこっそりと私に説明してくれるが、ちょっと距離が近い。
私が恥ずかしがっていると、背後から二級ハンターの男が険のある声で言った。
「この、娼婦が……」
驚いた私は、瞬時に後ろを振り返る。
(今のって、私に向けた言葉……?)
悪意に反応した私を見て、彼はニヤリと笑って言葉を続ける。
「いいよなあ、一級ハンター様は。そうやって、吸血鬼の男に媚を売っていれば、働かなくても将来安泰だものなあ……!」
「…………」
やはり、娼婦というのは私に向けた言葉だったらしい。
確かに一級ハンターは、吸血鬼の隷属になることさ受け入れれば、寿命の心配もないし高待遇を受けられる。飼い殺しの危険と常に隣り合わせだが……
(でも、娼婦はないわよね)
一級ハンターは、協会側が必要と判断して設けている存在で、現に協会に与する吸血鬼達のおかげで、たくさんの事件が解決している。
(リコが以前言っていたのは、こういうことなのね)
彼の言う通り、本部の一級と二級ハンターの間には、溝があるように思えた。
本部付近では、危険任務に一級ハンターが出向くことが多く、二級以下の死亡率は他拠点に比べて低い。
しかし、吸血鬼の生息数が多いバーグでは、彼らによる事件の件数は圧倒的に多いのだ。
吸血鬼という存在自体を疎ましく思う人間がいても、不思議はないのである。
(私だって、シュリに出会わなければ、そういう偏見を持っていたかもしれない……ん、シュリ?)
私は、ハッとして、隣にいるシュリを見上げた。
娼婦呼ばわりからの、私に対する嫌味……ルシード国のメイド達の悲劇が、脳裏をよぎる。
「シュリ……!」
しかし、今回のシュリは、思いの外落ち着いていた。
にこにこと翡翠色の瞳を細め、男の方を観察している。どうやら、彼も学習してくれたようだ。
「うん、サラ、心配しないで。僕は瑣末なことで怒ったりしないよ」
得意げな顔で、そんなことをのたまうシュリ。
「大切な奥さんを困らせたくないし、それに……」
そう話すシュリの目が、冷たく男を射抜く。
(ん……!?)
私が嫌な予感を抱いたのと同時に、彼が再度口を開いた。
「あと二週間で死ぬ人間に、何を言っても無駄だよねー」
「……!?」
ギョッとした私と男は、瞬きしながらシュリに目をやる。
「君、最近体の節々が痛むでしょう? そろそろ、任務に支障が出て来る頃だ。ふふ……」
笑みを深めたシュリを見て、男の顔色が急激に悪化した。
「シュリ……?」
「これ、僕の特技。ジルヴァフィクス家の吸血鬼は、吸血鬼の血を受けた人間の寿命がわかる」
彼の目が、褒めて褒めてと言うように私を見る。
余命宣告された男は、青い顔のまま仲間達と本部の奥へと去って行った。
(これ以上、二級ハンターがこちらに噛み付いてこなくて良かった……)
そう思い胸をなで下ろした私だが、同時に彼に対して複雑な気持ちを抱いた。
今回は、シュリと二人だけの仕事らしい。
「二人には、本部付近に出没する、はぐれ吸血鬼の退治をして欲しい」
「はぐれ吸血鬼……って、何?」
「この辺りの吸血鬼は、レオンを筆頭とするジルヴァフィクス家が管理していて、一応大きな揉め事は起こさないように教育されている」
「そうなのね」
吸血鬼ハンター協会本部がある場所だ。
あちらとしても、無駄な被害を抑えたいのかもしれない。
「けど、吸血鬼側の管理はこちらが呆れ返るほど杜撰で、ジルヴァフィクス家の目を掻い潜って悪さをする奴が度々出る。そこで、本部のハンターの出番だ」
「レオン達は、自分達が管理している吸血鬼を取り締まらないの?」
「教育するだけして、後は放置というスタイルらしい。もともと向こうは「人間のために譲歩してやっている」という態度で、そこまで頑張ってはくれないんだ」
「なるほど……」
なんにせよ、私はハンターとして吸血鬼退治をするだけだ。
「シュリ、行こう」
「うん、サラは僕が守るからね。今回は結構血をあげたから、サラ自身もかなり強くなっていると思うけれど」
「血の量で、そんなにも強さが変わるの?」
「隷属の強さは、主となる吸血鬼の血の質と量で決まる。僕は混血だけれど、ジルヴァフィクス家の血が混じっているし、量だって最近は十分に与えているから、サラは隷属の中では強い部類だ」
「そうなのね。でも、隷属としての強さというのは、未だによくわからないわ」
力が強くなり、動きも早くなり、感覚も鋭くなる。それだけしか知らない。
「そうだ、シュリ。手の爪を長くて伸ばすには、どうすればいいの? シュリも、ルシード国で退治した隷属達も爪を伸ばしていたけれど、私も出来る?」
「ああー……どう説明すればいいかな。僕も他の吸血鬼も、生まれつき爪を伸ばしたりしていたらしいし、特に考えたことがなかったなあ。自然に出る感じだよ」
「えっ、意識して出しているんじゃないの?」
「気づいたら、勝手に出ているから」
「……まあいいわ。他には、なにか特別なことはできる?」
「いや、普通……かな?」
シュリはそう言うが、爪のように意図していない部分での変化があるかもしれない。
これに関しては、他の吸血鬼にも質問してみるか、自分で少しずつ解明していくしかなさそうだ。
話は戻るが、今回の目的地は協会本部の近くにある歓楽街の中だという。
お膝元で事件を起こされた協会は、かなりご立腹で早々に相手を叩き潰したいとのこと。ジルヴァフィクス家にも、もちろん苦情を入れている。
当のレオン達は、どこ吹く風のようだが……
四十九階から一階まで、専用エレベーターを使って降りる。出口に向かって歩いていると、吸血鬼ハンター達の集団とすれ違った。
「あれは、本部の二級ハンター達だね」
シュリが、耳元でこっそりと私に説明してくれるが、ちょっと距離が近い。
私が恥ずかしがっていると、背後から二級ハンターの男が険のある声で言った。
「この、娼婦が……」
驚いた私は、瞬時に後ろを振り返る。
(今のって、私に向けた言葉……?)
悪意に反応した私を見て、彼はニヤリと笑って言葉を続ける。
「いいよなあ、一級ハンター様は。そうやって、吸血鬼の男に媚を売っていれば、働かなくても将来安泰だものなあ……!」
「…………」
やはり、娼婦というのは私に向けた言葉だったらしい。
確かに一級ハンターは、吸血鬼の隷属になることさ受け入れれば、寿命の心配もないし高待遇を受けられる。飼い殺しの危険と常に隣り合わせだが……
(でも、娼婦はないわよね)
一級ハンターは、協会側が必要と判断して設けている存在で、現に協会に与する吸血鬼達のおかげで、たくさんの事件が解決している。
(リコが以前言っていたのは、こういうことなのね)
彼の言う通り、本部の一級と二級ハンターの間には、溝があるように思えた。
本部付近では、危険任務に一級ハンターが出向くことが多く、二級以下の死亡率は他拠点に比べて低い。
しかし、吸血鬼の生息数が多いバーグでは、彼らによる事件の件数は圧倒的に多いのだ。
吸血鬼という存在自体を疎ましく思う人間がいても、不思議はないのである。
(私だって、シュリに出会わなければ、そういう偏見を持っていたかもしれない……ん、シュリ?)
私は、ハッとして、隣にいるシュリを見上げた。
娼婦呼ばわりからの、私に対する嫌味……ルシード国のメイド達の悲劇が、脳裏をよぎる。
「シュリ……!」
しかし、今回のシュリは、思いの外落ち着いていた。
にこにこと翡翠色の瞳を細め、男の方を観察している。どうやら、彼も学習してくれたようだ。
「うん、サラ、心配しないで。僕は瑣末なことで怒ったりしないよ」
得意げな顔で、そんなことをのたまうシュリ。
「大切な奥さんを困らせたくないし、それに……」
そう話すシュリの目が、冷たく男を射抜く。
(ん……!?)
私が嫌な予感を抱いたのと同時に、彼が再度口を開いた。
「あと二週間で死ぬ人間に、何を言っても無駄だよねー」
「……!?」
ギョッとした私と男は、瞬きしながらシュリに目をやる。
「君、最近体の節々が痛むでしょう? そろそろ、任務に支障が出て来る頃だ。ふふ……」
笑みを深めたシュリを見て、男の顔色が急激に悪化した。
「シュリ……?」
「これ、僕の特技。ジルヴァフィクス家の吸血鬼は、吸血鬼の血を受けた人間の寿命がわかる」
彼の目が、褒めて褒めてと言うように私を見る。
余命宣告された男は、青い顔のまま仲間達と本部の奥へと去って行った。
(これ以上、二級ハンターがこちらに噛み付いてこなくて良かった……)
そう思い胸をなで下ろした私だが、同時に彼に対して複雑な気持ちを抱いた。
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