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9:洞窟の外に出た

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「ねえ、そのウルフはどうするの? カルロに懐いているみたいだけれど」

 尻尾を振り続けるウルフを見て、私は魔王に尋ねた。

「そうだねえ」
「ウチの部屋で飼いましょうか? 転移した今なら、ペット禁止も何もないし」

 ウルフはずっとカルロを待ち続けていたというのに、このまま一匹で放り出すのも気の毒だ。

「飼うなら、部屋に来る前にお風呂に入ってもらうけどね」
「……だそうだよ。一緒に来るの?」

 ちぎれんばかりに尾を振るウルフに向けてが問うと、ウルフは「ウォン!」と一鳴きする。
 魔物同士だからだろうか、ウルフにはカルロの言っている内容が分かるようだ。
 カルロもウルフの反応で意思確認できている。

(さすが、魔王)

 きっと、魔物を束ねる彼の力なのだろう。
 ……そういうことにしておく。

「来るなら、モエギには手を出すな。彼女はヌシだよ。分かった?」
「ウォン!」

 それにしても、すごい光景だ。
 私はカルロにウルフについて聞いてみた。

「このウルフには名前はあるの? 男の子、女の子?」
「ウルフはウルフだ。このウルフは雄だな」
「名前、つけてあげたらいいのに」

 そう言うと、カルロが少し狼狽える。

「魔物に魔王が名前を付けることなんてないけど……」

 少し考えた後、カルロが口を開いた。

「…………ブルーノ」

 すると、ウルフが嬉しそうに尻尾を振りながら吠える。

「あら、いい名前じゃない。よろしくね、ブルーノ。よければ、洞窟の出口へ案内してくれる?」
「ウォッ……」

 なんだか、私に対しては淡泊な反応。まだ、ブルーノは心を開いていないようだ。
 しかし、出口には連れて行ってくれる。
 こちらから向こうに対する意思疎通は出来ているみたいだ。

 魔王の寝台があった反対方向へ洞窟を進むと、岩と岩の隙間に人一人がギリギリ通れる程度の穴が開いていた。
 そこからは、光が差し込んでいる。

「モエギ。元人間が、いきなり明るい場所に出るのは危険かもしれない」

 そう言って、カルロが背後から私を目隠しする。
 まるで抱きしめるかのように密着され、私は熱のこもった頬をぎゅっと押さえた。
 しばらく目隠しされた後、徐々に指の隙間から光が漏れ、外の明るさに慣れてきた。

「大丈夫?」
「うん、平気。ありがとう、カルロ」
「これからも、外に出る時は手伝うよ」

 私を背後から羽交い締めにし、優雅に微笑む魔王。「距離感間違っていませんか?」と訊きたいが、人間と魔物の文化は異なる可能性がある。

(食事やお風呂や就寝の文化は一緒だったけれど)

 外は、白い石の地面が広がる岩場だった。洞窟を形成している石と同じもののようだ。
 草原や森はまだない。
 生き物の姿すら見えず、乾いた風だけが吹いている。

「広いね。何もないけど」

 頭上を見上げると、明るい日の光が照っていた。
 真上に太陽があるので、元の世界と同じ感覚でいうと昼だろう。
 洞窟にいる間は時間が分からなかったので適当に寝起きしていたが、私の体内時計は狂っていなかったようだ。

(そういえば、洞窟外で畑作は出来るのかな?)
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