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4:まったり畑作と洗濯事情

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 玄関の扉を開けると、洞窟が広がっていた。
 部屋が湿気でカビないか心配である。
 天井には鍾乳洞、地形はガタガタで日も差さない松明のみの明るさ。
 まさしく、典型的なゲームのダンジョンだ。
 一応水は湧き出ているが、スキルがあっても、とても畑を作れそうにない。
 だって、地面が岩だもの!

「何これ無理ゲー」

 早くも絶望で精神離脱しそうになっていると、親子丼を食べ終えたヒヨコのチリがやってきた。

「モエギ様、どうされたのですか?」
「ああ、うん。食料をどうにかして調達したかったのだけれど、畑を作ったりする以前の問題みたいで……」

 しかし、チリの方は、全く困っていなさそうだった。小さなくちばしを開閉し、冷静に私に告げる。

「整備&農業のスキルが必要ですね」
「でもさ、こんな場所で農業なんて無理だよね。土もないし、水も少ししかないし、日も差さないよ? 洞窟の出口がどっちかわかる?」
「今のダンジョンは全て洞窟の地形みたいですからね。レベルが上がって新しいスキルを手に入れないと地形の変化も無理です」
「じゃあ、レベルが上がるまで何を食べればいいの? 冷蔵庫の中身は、もう酒とツマミくらいしかないのに」
「大丈夫ですよ。この世界では、洞窟内でも実る作物があるのです。なので、まずはダンジョンの地形を整備するのです。スマホのステータス画面を開いて、『整備&農業』のコマンドをタップです」

 言われたとおりにスマホ画面をスライドすると、普通にそれらしき画面が出てきた。
 何、この仕様……

「とりあえず道具は保留で、今は畑作前の整備をしましょう!」
「チリが全力サポートしますので、ご心配なく! 作物を植えたい場所を見ながら、整備&農業の項目をタップです。他のスキルも、同じ方法で使えます」
「わかった……っと」

 すると、家の前のゴツゴツ治した岩壁や鍾乳洞が一掃され、平らな地面と天井になった。
 私の部屋の周りが綺麗に整地された。
 けれど、更地にしたところで地面は硬い岩だ。やっぱり作物を植えられる気がしない。

「こんな場所で、何も植えられそうにないんだけど」
「黙ってもう一度項目をタップするのです」
「うっ……ええと、整備&農業っと」

 言われたとおりにすると、別の画面が現れた。

<畑作メニュー(洞窟)>
洞窟キノコ:レベル1
岩マメ:レベル1
岩カブ:レベル1
岩トマト:レベル1

「ここに出ている野菜類は、洞窟の中でも植えられるのです! 地面が岩でも、日が差さなくても関係ありません」
「なんという、不思議作物!」
「ちなみに、収穫まで一日や二日程度です」

 色々突っ込むモエギを無視し、ヒヨコは尚も簡単な説明を続けている。
 名前に「岩」とついているのが不安だが、カブやトマトなど、日本でも馴染みのある食べ物なので料理可能だろう。
 それにしても……

「収穫早っ!」

 元の世界の農家が聞いたら怒りだしそうな、まるでゲームのようなお気楽さだ。
 祖父がいくつか畑を持っていたが、一つの野菜を作るのに大変な苦労をしていた。

「モエギ様、早く野菜を選ぶのです。植えたい場所にスマホのカメラを向けながら項目をタップです!」
「と、とりあえず……キノコ。一株がどれくらいなのかわからないけど」

 キノコを選び、生やす場所にカメラを向ける。
 すると、みるみるうちに白く細い塊が現れぐんぐん伸び、大きめのシメジに似たキノコが生えた。
 それらは、部屋の前を照らすかのように小さく発光している。

「すごい……本当に生えた」
「キノコは収穫しない限り消えないのです。収穫してもまた同じ場所に生えてきます。言い遅れましたが、植える場所は慎重に選んだ方がいいですよ」
「ねえ、このキノコ……毒はないの?」
「畑作で植えられる作物は、全部食用可能なものばかりです。毒抜きなどは一切必要ありません」
「なるほど、便利すぎるわね。じゃあ、今度はマメを植えてみようかしら」

 少し離れた場所にマメを生やしてみると、黄金色の小さな芽が出て茎が伸び木になり……枝豆似のマメが実った。

「岩マメの木は決まった数しか実がならず、全部の実を収穫すると消えます。岩トマトも同様です」

 ついでにカブやトマトも植えておきたいが、ちょっと疲れきた。

「体力を回復させる方法、ないのかな」

 羽繕い中のチリに聞くと、投げやりな答えが返ってくる。

「眠ったら、ある程度回復するのです」
「……そっか。眠る他なさそうね」

 仕方がないので、部屋に戻って寝ることにする。残念ながら、まだ出来ることは多くないのだ。

(どのみち、色々ありすぎて疲れたものね)

 創世神は私の「適応力」を買ってくれていたみたいだけれど、まだ頭の整理が追いつかない。

(先にお風呂に入ってしまいましょう)

 電気やガスや水道はどこにも繋がっていないが、問題なく使えるとのこと。
 食糧事情は厳しいが、こういう面では助かった。
 さすがに、何日もお風呂に入れなかったり、洗濯できないというのは辛い。

(そういえば、カルロの服。いかにも……な、魔王服だったけど。洗濯しているのかしら? 下着の替えは?)

 食糧の危機が落ち着くと、私は妙なことが気になりだした。
 しかし、一度気になり始めたら止まらないのは性分みたいなもので……

(ぬあああ! やっぱり気になる!)

 けれど、着替えて貰うにも、私の部屋にあるのは女物の服ばかり。
 新品のものもあるけれど、さすがに女子のパンツを魔王に穿いて貰うのは気が引ける。
 服だってサイズが合わないだろう。

(……聞こう)

 人里に出る手段がない今、そして裁縫で服を作れる気がしない今、男性向け衣装は取り寄せなければ手に入らない!

(最初の道具召喚は、魔王の下着になってしまうのかしら)

 私は部屋で寛いでいるカルロに質問した。

「あ、あのさ、カルロ」
「何か?」
「その……着替えってどうしてるの?」
「……………………」

 長い沈黙のあと、カルロが口を開く。

「着替えは持っているよ。眠っていた近くに新しい服も揃えてあったし」
「そうなのね。じゃあ、洗濯は?」
「洗濯は……以前は下級の人型モンスターが行っていたけど」
「良かった、臭いまま服を着ていたわけじゃないんだね。それじゃあ、着替えを持ってきて。今日着ていた服は洗っちゃうから。洗濯機で回しても大丈夫かな。魔王服って、ちょっとゴテゴテしているけど」
「『洗濯機』? モエギが何を言っているのか、ちょっとわからない。ヌシが洗濯なんてしなくても……」
「他にする人がいないんだから仕方がないでしょ? 大丈夫よ、機械に放り込んで回すだけだから」

 複雑な表情を浮かべた美形は、追い立てられてしぶしぶ服を取りに行った。
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