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 翌朝……マルはエイデンのベッドの中で目覚めた。
 すぐ傍で、愛おしいエルフが行儀よく横になり眠っている。
 何も身につけていないマルは、昨日のことを思い返してポッと顔を赤くした。
 そのまま、モソモソとベッドの外へ出ようとし、いつの間にか目覚めていたエイデンに捕獲される。

「おはようございます、マル?」
「お、おはよう、エイデン……あの」

 恥ずかしさでいたたまれなくなったマルは、その場でハムスター姿に変身した。

「……そうきましたか」

 笑顔の銀髪エルフは、マルを持ち上げて優しくプニプニし、そっと頬ずりする。

「僕とマルの仲なのに、恥ずかしがることはないでしょう?」
「……キュ」
「だって、昨夜は……」
「チーーーー!」

 大きな声で鳴いたマルは、エルフの恥ずかしい発言を封じた。
 そんなマルの背中をエイデンは優しく指で撫でる。
 二人で戯れていると、ライリーがやってきた。慌てて着替えて、彼を部屋の中に招き入れる。

「……そのぶんだと、昨夜の心配は不要のようだな、マル」
「ありがとう、ライリー。国王陛下に話をつけてくれて」
「ああ。だが、最終的な話し合いはまだ終わっていない。今日は、エイデンやマルも出席して欲しいと思う」
「もちろん。私は何をすればいい?」
「特に何をということはないが、エルフの国へ来た女たちの代表として話を聞いて欲しい」
「わかった!」

 午前中に会議が開かれ、総代表であるライリーと、その他のエルフの代表たち、そしてマルは城の玉座の間に集まった。
 そこでは、エルフによる一方的な会議が進行する。
 マルは、じっと動かず成り行きを見守っていた。

「……と言うわけで、エルフの国は、家畜小屋の環境改善とエルフに対する虚言の禁止、花嫁の返却や交換不可を要求する。それさえ認めていただけたら、今回の事件は不問にしていい」
「…………!」
「まだ自分たちの主張を押し通すようなら、こちらにも考えがあるが?」

 ライリーがニヤリと笑い、獣人たちに動揺が走った。
 彼らは、過去の戦争でエルフにぼろ負けした歴史を思い出したのだろう。
 今、獣人や人間の国があるのは、全てエルフの国の慈悲によるものだ。

 獣人の王は渋々彼の要求を受け入れ、家畜小屋は「花嫁の間」と名前を変えることになった。
 さらに、エルフやその花嫁たちが中の環境を改善するということも決定する。
 きっと、これからの旧家畜小屋は優しい場所に生まれ変わるだろう。

「ハムスター獣人の姫は、それで良いのか!?」

 すがるように訴えた大臣の言葉に、マルは静かに頷いた。

「獣人の国のためにも、エルフの要求を受け入れるべきだよ……」

 こうして、最後の会議も無事に終了し、マルたちは無事にエルフの国へ帰還した。
 その際、白鳥のメイドもエルフの一団に同行した。



 数日後、祭の最終日がやって来た。
 会場となる街の広場に、マルとエイデン、サラミとライリーも立っている。
 他の獣人女性たちも、夫となるエルフと共に集まっていた。
 たまに相手が変わっているカップルもいたが、双方の合意があればペアの変更は自由なのだとか。

「いよいよ、最終日ですね。これで、愛するマルと正式な夫婦になれます」

 笑顔でマルを抱きしめるエイデンに向かって、ライリーがため息を吐いた。

「どこぞの阿呆のように、フライングをして花嫁に手を出す奴もいるがな」
「なんのことでしょう?」

 飄々としているエイデンとは対照的に、マルは真っ赤になって彼の後ろに隠れている。
 ライリーはサラミに手を出したかったが、懸命に我慢していたようだ。
 あっさり手を出したエイデンに、複雑な感情を抱いている……と思われる。

 広場の隅には、獣人の国から保護した白鳥獣人のメイドも立っていた。
 独身エルフの男たちが、彼女を取り囲んでいる。

 しばらくすると花嫁の意思確認が始まり、たくさんの夫婦が誕生した。
 たまに、破局するカップルもいたが……
 そうして、いよいよマルの順番がやってきた。意思確認役のエルフが尋ねる。

「エイデンと夫婦になる意思はありますか?」

 マルは、迷わず彼に返事をした。

「はい、私は、エイデンと……」

 そこまで言いかけた時、不意に広場の隅で叫び声が上がった。

「その女は駄目よ! 獣人の中でも最弱のハムスターなのに!」

 驚いて金切り声のした方を見ると、そこに立っていたのは白鳥のメイドだった。

「許さない、同じ弱い獣人のくせに、白鳥よりもさらに格下のハムスターのくせに……! 私より幸せになるなんて!」

 広場にいた全員が、ギョッとして彼女の方を見る。

「獣人の国で、どんなに辛いことがあっても耐えられたわ。自分よりも、もっと不幸な姫がいると知っていたから。そして、そういう獣人は多い……あなたみたいな存在は、消えちゃいけないのよ!」

 白鳥の獣人は、マルの存在のおかげで自分を保てていた。「どんなに辛いことがあっても、あの姫よりはマシだ」と、そう思って今まで過ごしていたらしい。
 だが、エイデンと幸せな結婚をするハムスターを見て、我慢ができなくなってしまったようだ。
 だとすれば、夜中にマルを呼び出したことも、彼女自身の意思によるものだった可能性が高い。

 喚き立てる白鳥獣人を近くにいたエルフが広場から連れ出す。
 マルは、大してショックを受けなかった。
 彼女のような考え方の獣人がいることを、前々から知っていたからだ。
 ハムスターの姫の存在は、弱い獣人たちの慰めにもなっていた。
 小さくて弱くて、最後にはエルフへの生贄になった哀れな姫……白鳥の獣人が望んでいたのは、そういうストーリーだったのだろう。
 意思確認役のエルフに促されたマルは、再び口を開いた。

「私は、エイデンと結婚します……! あの獣人が言ったように、私は小さくて弱いハムスターだけど、彼はそれがいいと言ってくれた。いつも優しく接してくれたし、勉強も教えてくれた。私は、エイデンが好きです!」

 ワッと、広場全体に歓声が湧き上がる。
 エルフたちの輪の中から抜け出してきたエイデンが、マルを抱き上げキスをした。

「マル、ありがとう。僕も君を愛しています」
「エイデン……」

 花婿となったエルフに抱き上げられながら、元いた場所へと移動する。
 その後、サラミとライリーも無事に結ばれたのだった。
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