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7(エイデン視点)
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女性たちが出かけている間、エイデンとライリーは集会所で男同士の近況報告を行なっていた。
「で、お前はどうなんだ。あのハムスターと上手くやっているのか?」
「そうでうすねえ。険悪な雰囲気ではないですけど、まだ警戒されていますね」
「まあ、小動物系の獣人は扱いが難しいと言うしな……あえてそこを狙ったお前はすごいと思う」
「だって、ハムスターなんて可愛いじゃないですか。そういうライリーだって、自分好みの色白美人を躊躇いなく選んだくせに」
「……あー、その辺りは仕方がない。エルフは自分の性癖に忠実だから」
ライリーは、少し強引に話をまとめた。
がっしりとした体つきで強面の彼だが、内面はとても照れ屋で責任感が強くて優しい男だ。
あの豚獣人の女性は、きっと今までよりも幸せになれると思う。
では、自分はどうだろうか……マルと上手くやっていけるだろうか?
自分が獣人の花嫁に受け入れられるかどうか、かなり不安である。
しかし、花嫁を得て舞い上がる高揚感の方が強かった。
そもそも、ハムスター獣人のマルを選んだのは、エイデンの一目惚れだ。
家畜小屋と呼ばれる劣悪な環境の中で精一杯生きるマルを見て、どうしようもなく庇護欲が掻き立てられた。本来、エイデンは面倒見の良い方ではないと言うのに。
必死で壁の外の果物を見つめるマルに、つい手を貸してしまったのだ。
祭前の接触は、実は禁止なのだが……姿を見せなかったので、セーフだろう。
そうして、獣人を保護する当日は必死にマルを探し求めた。連れて行ける獣人の数は限られているので、彼女の方から現れてくれて助かったと思っている。
集会所が開放されると同時にハムスターの獣人を探し、無事にマルを家へ連れ帰ることができた。
これから一ヶ月間、祭が続く。祭はエルフと花嫁たちの交流期間でもあるのだ。
そうして、最終日に花嫁側の意思を聞く。
受け入れられれば無事に相手と夫婦になることができるが、拒否されれば一生独身だ。別の相手と添い遂げることもできない。
婚姻を断った花嫁は、また次の年の祭に回されて別の男と交流することになるのだが、マルと他の男がそんなことになるのは耐えられない。
(なんとしても、彼女に心を開いてもらえるよう頑張らなければなりませんね。とはいえ、まだ名前も呼べていないのですが……)
エイデンは、要領の良い方だった。そのはずだ。
しかし、好きになった女性を目の前にすると、どうすれば良いのかわからなくなってしまう。そもそも、自分が異性として見られているのかどうかも怪しい。
昨日観察した限りでは、マルは実年齢よりも幼く、女性として大切な何かが抜け落ちている。異性の家で生活しているというのに、全く意識されていないようで……少し凹んだ。
だが、連れてこられたばかりの花嫁なのだ、きっとエルフ側と違いそれどころではないのだろう。
きちんと不安と取り除いてあげなければならない。そして、精一杯優しく接するしかない。
獣人や人間の国から連れてこられる花嫁は、故郷でひどい扱いを受けていることが多い。おそらく、マルやサラミもそうだろう。
本人は無自覚だろうが、特にマルはやせ細っていると思う。
「なあ、エイデン。お前、知っているか?」
エイデンの思考を中断させるように、ライリーが話しかけてきた。
「何をですか?」
「サラミは、元貴族だ」
「そうなんですね」
「そして、お前の花嫁は元王族だとよ」
「…………」
ライリーの言葉に思わず口をつぐむ。それが事実だとすれば、厄介だった。
「なんで、王族がエルフの元へ送られるんですか?」
「わからんが、今年も花嫁全員の素性を調べる。毎年面倒な作業が多いな。俺はサラミのことだけわかれば、それで充分だというのに」
「……総代表が何を言っているんですか。キリキリ働いてくださいよ」
「お前もな。というわけで、花嫁に気を遣ってやってくれ」
「わかりました……僕としても、マルのことは気になりますし、憂いがあれば断ち切ってあげたい」
「お前が言うと、不穏に聞こえるな」
「不穏も何も、僕はしがない医者ですよ」
「見た目に反して、誰よりも喧嘩っ早い武闘派のな?」
「自分だって、他人のことをとやかく言えないくせに」
酒場の息子だけあって、ライリーは荒事などお手の物なのだ。
「ややこしいことに、ならなければ良いがな」
彼の言葉に、エイデンも頷く。
「本当に。たとえ、何かがあったとしても、彼女を諦めることはできませんけれどね」
もう少ししたら、女性陣が帰ってくるだろう。
マルが少しでも早く、この国に馴染んでくれるといい。そうして、この国を好きになって欲しい。
戻ってきた彼女と再会できることを楽しみにしつつ、エイデンは今後のことに思いを馳せた。
「で、お前はどうなんだ。あのハムスターと上手くやっているのか?」
「そうでうすねえ。険悪な雰囲気ではないですけど、まだ警戒されていますね」
「まあ、小動物系の獣人は扱いが難しいと言うしな……あえてそこを狙ったお前はすごいと思う」
「だって、ハムスターなんて可愛いじゃないですか。そういうライリーだって、自分好みの色白美人を躊躇いなく選んだくせに」
「……あー、その辺りは仕方がない。エルフは自分の性癖に忠実だから」
ライリーは、少し強引に話をまとめた。
がっしりとした体つきで強面の彼だが、内面はとても照れ屋で責任感が強くて優しい男だ。
あの豚獣人の女性は、きっと今までよりも幸せになれると思う。
では、自分はどうだろうか……マルと上手くやっていけるだろうか?
自分が獣人の花嫁に受け入れられるかどうか、かなり不安である。
しかし、花嫁を得て舞い上がる高揚感の方が強かった。
そもそも、ハムスター獣人のマルを選んだのは、エイデンの一目惚れだ。
家畜小屋と呼ばれる劣悪な環境の中で精一杯生きるマルを見て、どうしようもなく庇護欲が掻き立てられた。本来、エイデンは面倒見の良い方ではないと言うのに。
必死で壁の外の果物を見つめるマルに、つい手を貸してしまったのだ。
祭前の接触は、実は禁止なのだが……姿を見せなかったので、セーフだろう。
そうして、獣人を保護する当日は必死にマルを探し求めた。連れて行ける獣人の数は限られているので、彼女の方から現れてくれて助かったと思っている。
集会所が開放されると同時にハムスターの獣人を探し、無事にマルを家へ連れ帰ることができた。
これから一ヶ月間、祭が続く。祭はエルフと花嫁たちの交流期間でもあるのだ。
そうして、最終日に花嫁側の意思を聞く。
受け入れられれば無事に相手と夫婦になることができるが、拒否されれば一生独身だ。別の相手と添い遂げることもできない。
婚姻を断った花嫁は、また次の年の祭に回されて別の男と交流することになるのだが、マルと他の男がそんなことになるのは耐えられない。
(なんとしても、彼女に心を開いてもらえるよう頑張らなければなりませんね。とはいえ、まだ名前も呼べていないのですが……)
エイデンは、要領の良い方だった。そのはずだ。
しかし、好きになった女性を目の前にすると、どうすれば良いのかわからなくなってしまう。そもそも、自分が異性として見られているのかどうかも怪しい。
昨日観察した限りでは、マルは実年齢よりも幼く、女性として大切な何かが抜け落ちている。異性の家で生活しているというのに、全く意識されていないようで……少し凹んだ。
だが、連れてこられたばかりの花嫁なのだ、きっとエルフ側と違いそれどころではないのだろう。
きちんと不安と取り除いてあげなければならない。そして、精一杯優しく接するしかない。
獣人や人間の国から連れてこられる花嫁は、故郷でひどい扱いを受けていることが多い。おそらく、マルやサラミもそうだろう。
本人は無自覚だろうが、特にマルはやせ細っていると思う。
「なあ、エイデン。お前、知っているか?」
エイデンの思考を中断させるように、ライリーが話しかけてきた。
「何をですか?」
「サラミは、元貴族だ」
「そうなんですね」
「そして、お前の花嫁は元王族だとよ」
「…………」
ライリーの言葉に思わず口をつぐむ。それが事実だとすれば、厄介だった。
「なんで、王族がエルフの元へ送られるんですか?」
「わからんが、今年も花嫁全員の素性を調べる。毎年面倒な作業が多いな。俺はサラミのことだけわかれば、それで充分だというのに」
「……総代表が何を言っているんですか。キリキリ働いてくださいよ」
「お前もな。というわけで、花嫁に気を遣ってやってくれ」
「わかりました……僕としても、マルのことは気になりますし、憂いがあれば断ち切ってあげたい」
「お前が言うと、不穏に聞こえるな」
「不穏も何も、僕はしがない医者ですよ」
「見た目に反して、誰よりも喧嘩っ早い武闘派のな?」
「自分だって、他人のことをとやかく言えないくせに」
酒場の息子だけあって、ライリーは荒事などお手の物なのだ。
「ややこしいことに、ならなければ良いがな」
彼の言葉に、エイデンも頷く。
「本当に。たとえ、何かがあったとしても、彼女を諦めることはできませんけれどね」
もう少ししたら、女性陣が帰ってくるだろう。
マルが少しでも早く、この国に馴染んでくれるといい。そうして、この国を好きになって欲しい。
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