織田信長 -尾州払暁-

藪から犬

文字の大きさ
上 下
57 / 100
第三章 血路

十二

しおりを挟む

 別に、直也を信用していないからじゃない。これは、秘密を打ち明けてくれた礼子さんに対する、私の人間としての礼儀。

 それにしても、直也って、お魚、綺麗に食べるよねぇ。

 と、焼きサンマ定食のサンマを、まるで作法でも会得しているのかと思うほど綺麗に食べる様子に見ほれていると、不意に直也が視線を上げた。

「あ、そうだ」
「え?」

 メガネの奥の黒い瞳は、心の中を見透かされそうで、意味もなくどぎまぎしてしまう。

 なんだろう、この感じ。
 一番近いのはそう、『後ろめたさ』。

 なにが、後ろめたいの?

 別に、後ろめたくなるようなことなんか、してないのに。

「肝心な用件を忘れていた。亜弓、今度の週末、時間あいてるか?」
「え? ああ、今週末は実家に帰る予定なんだけど……、何か、用事があったの?」
「そうか、実家に……。じゃあ、仕方ないな。今度にするよ」

 そう言って、少し肩をすくめると、直也は又食事を再開した。

 これは、何か用事があった様子だ。

「え、なに、何? 気になるなぁ、言ってよ」
「ああ。ちょっと、家の両親が、会いたいっていうもんだから」

 ――はい!?

「ご……両親って、直也のご両親!?」

 思わずすっとんきょうな声が出てしまい、周囲の視線が集まってしまった。でも直也は気にする様子もなく、たくあんをポリポリとかじりながら頷く。

「そう。でも用事があるんだから、又今度で良いよ」

 こ、これは、行くべきか?

 行くべきなんだろうなぁ。

 プロポーズしてきた相手のご両親が『会いたい』って言ってるんだから、プロポーズされた側としては、馳せ参じてしかるべきよね。

 実家に帰るといっても、同じ県内だから、無理すればなんとか往復できるんだけど。でも……。

 迷ったのは、ほんの少し。
 正直言うと、今は陽花はるかの病状の方が心配だった。

 それに、もしも今直也のご両親に会っったとしても、きっと陽花のことが気になって、何か失敗をやらかすかもしれない。そんな変な自信がある。直也のご両親に会うなら、万全の気持ちで望みたい。

 だから、申し訳ないけど、今回は見送らせてもらおう。

「ごめんね。田舎のいとこから、高校の時の共通の友達が病気で入院したって連絡がって、そのいとこと一緒に、お見舞いに行くことにしたんだ。私だけなら、なんとでも融通きくんだけど……」
「そうか、友達が……。それは心配だな」
「本当に、ごめんね……」
「気にするなって。俺の方はいつでも大丈夫だから、あせることはないよ」
「うん……」

 嘘は、言ってない。

 なのに、心配げな眼差しを向けてくる直也に対して、やっぱり私は、心の何処かで『後ろめたさ』を感じていた。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

天竜川で逢いましょう 起きたら関ヶ原の戦い直前の石田三成になっていた 。そもそも現代人が生首とか無理なので平和な世の中を作ろうと思います。

岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。 けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。 髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。 戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!?

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した 若き日の滝川一益と滝川義太夫、 尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として 天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

16世紀のオデュッセイア

尾方佐羽
歴史・時代
【第12章を週1回程度更新します】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。 12章では16世紀後半のヨーロッパが舞台になります。 ※このお話は史実を参考にしたフィクションです。

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

処理中です...