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シーズン1 マンザナール砂漠封鎖事件
イルシオンシティ ピエタアンジェロ(慈悲の天使)病院 駐車場 23:00
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外はいまだに雨が降っていた。
ズィルバーは自前の車のセダンの中から見る景色を見て、短いため息を吐く。
この調子では恐らく、朝まで降り続けるだろう。 そう思うと気が滅入る。
本来、この仕事は短時間で終わるものだと、ズィルバーは予測していた。
謎の人間の少年、というイレギュラーさえなければ、今頃ズィルバーは暖かい暖炉の前で、読みかけの本を手元に置いてうたた寝をしていたはずだ。
なのに、どうして。
心の中で自問自答する。
ズィルバーの主な収入源は、仕事兼趣味の探偵業だった。
確かにここ最近の自分の稼ぎというのは、確かにお世辞にも良くなかった。
昔、探偵小説を読んで難事件を次々に解決していく主人公に憧れて、この業界に入った。
が、実際の探偵業というのは酷く地味なものだった。
金持ちの行方不明の猫の捜索や恋愛関連の尾行はまだそれっぽい。
しまいには、探偵という名の何でも屋になってしまった。
小説で見ていた探偵とは違い、この世界は名探偵が必要となるような大きな事件は起きない。
つまり、この世界は平和だ。
何でも屋が必要とされる程度の平和な世界。 とどのつまり、こうして探偵が怠惰を貪るぐらいが世の中的にはちょうどいい。
「一応、報告しておくか」
おもむろに、ズィルバーは懐から携帯を取り出し、今回の仕事の依頼人に電話を掛ける。
『……私だ』
「ズィルバーです。 ゼクト大佐、依頼されてた仕事が一段落終わりましたので報告を」
聞こえたのは老人ぐらいの男性の声だろうか。
狡猾さを思わせるような声と共に外にいるのか、がやがやと雑音が聞こえる。
『私も忙しい。 手短に報告を』
「分かりました。 では……」
ゼクト、と呼ばれた人物にズィルバーはこれまでのことを報告する。
なるべく簡潔、そして効率的に。
昔から彼と話す際はある一定の緊張が出る。
決して嫌いだとか苦手だとかではない。 それはズィルバー自身も分かっていた。
「……というわけなんです」
『なるほど、それは興味深い』
「しかし、何故僕にこんな依頼を? 確認だけならあなたでも良かったのに」
『最近厄介な事件が多発して、組織の人員をフル活用して対処している。 私とて、現場に駆り出されているのだ。 そこまで言えば、お前もどれほどの異常事態か、理解できるはずだが?』
電話からため息が混じった声が響く。
それと同時に、ギチギチと何か歯ぎしりのような音も聞こえる。
……そうだった。
昔からこのヒトは何かしら苛つくとこのような音を発する。
恐らく、今の状況に心底ストレスを貯めているのだろう。
そう思い、ズィルバーは詮索するのを止めた。
「それで、今後僕はあの子の状態を確認すればいいんですね?」
『ああ、そうだ。 詳細が分かり次第、報告してくれ。 その後に――――――』
と、その瞬間だった。
会話を遮るように、とてつもない爆発音が携帯から鳴り響く。
ズィルバーは驚き、携帯を落としそうになった。
「もしもし!? 一体なにが――――――」
『……内のテロリストが……爆……』
『死者は?』
『全員退……被害は……』
『そうか、分かった』
どうやら電話の向こうで、ゼクトは部下と会話しているらしい。
雑音と悲鳴、それらのせいで何を言っているのかよく分からないが、緊急事態なのは確実のようだ。
『聞いての通りだ。 かれこれ、この状況が先週から続いている。 ……正直、狐の手を借りたいぐらいだ』
「……ッ」
悲鳴や雑音を押しのけ、ギチギチ、とさらに歯軋りの音が大きくなる。
ゼクトがここまで不愉快そうにしているのは、そうなかなかない。
きっと、彼の近くにいる部下たちは心底生きた心地がしないだろう。
『中から『化け物』が!!』
今度ははっきりとゼクトの部下の声が聞こえる。
状況はどうやら芳しくないらしい。 電話越しでも、向こうの様子が手に取るようにわかる。
『今すぐ行く。 ……というわけだ。 少し時間をおいて詳細が分かり次第、私に報告してくれ』
「え、ちょ……」
ブツッっと一方的に電話が切れる。
……急を要する事態だというのは重々承知しているし、それをとやかく言うつもりもない。
そう、大体理解しているつもりだ。
「はぁ……」
だが、理解はしていても、ズィルバーの口から深く、なんともいえないため息が溢れた。
不満が無いとは嘘になる。
なんだか厄介ごとに巻き込まれたようで不安、というのが正直な感想だ。
どうしてこうなってしまったのか。
目を閉じ、ズィルバーはこれまでのことを振り返ってみる。
今朝、まったく連絡を取ってなかった昔の上司から急に連絡が来たと思えば、急に依頼を押し付けられ……。
行ってみれば、あまりいい思い出のない悪友が人間を惨殺していて、その奥には正体不明の少年がいて……。
一段落してみれば、依頼主は忙しそうで追加の仕事を注文してきた、と。
頭が重い。
おまけに先ほどから意味の分からないことだらけだ。
なにもない平凡な日常だったのに、まるで急に別世界に来たような感じだ。
おまけに慣れない事ばかりで体が悲鳴を上げている。
それでも。
依頼を受けた以上は卒なくこなさなければならない。
依頼というのは人に信頼されているからこそ、成り立つもの。
それだけは妥協したくないし、ズィルバー自身も許さない。
今も昔も変わらない。 どんな事情でも、どんな状況でも、だ。
奮い立たせるように目を見開くと、手に持っていた携帯から着信音が鳴り響く。
見ると、マルダ―からメールが届いていた。
『例の少年、部下が病院に搬送し終えたらしい。 結果も出たらしいから様子も見てくれ』
短い文章に病室の座標まで記載されている。
喋れば余計な事を言うくせに、こういった文章になると簡潔に正確に情報を伝えてくる。
だが、今のズィルバーにとってこれほど有難いものはない。
「さて、と」
重い腰を上げ、車から出て病院に向かう。
そして、人の姿に擬態すると、トボトボと歩き出した。
ズィルバーは自前の車のセダンの中から見る景色を見て、短いため息を吐く。
この調子では恐らく、朝まで降り続けるだろう。 そう思うと気が滅入る。
本来、この仕事は短時間で終わるものだと、ズィルバーは予測していた。
謎の人間の少年、というイレギュラーさえなければ、今頃ズィルバーは暖かい暖炉の前で、読みかけの本を手元に置いてうたた寝をしていたはずだ。
なのに、どうして。
心の中で自問自答する。
ズィルバーの主な収入源は、仕事兼趣味の探偵業だった。
確かにここ最近の自分の稼ぎというのは、確かにお世辞にも良くなかった。
昔、探偵小説を読んで難事件を次々に解決していく主人公に憧れて、この業界に入った。
が、実際の探偵業というのは酷く地味なものだった。
金持ちの行方不明の猫の捜索や恋愛関連の尾行はまだそれっぽい。
しまいには、探偵という名の何でも屋になってしまった。
小説で見ていた探偵とは違い、この世界は名探偵が必要となるような大きな事件は起きない。
つまり、この世界は平和だ。
何でも屋が必要とされる程度の平和な世界。 とどのつまり、こうして探偵が怠惰を貪るぐらいが世の中的にはちょうどいい。
「一応、報告しておくか」
おもむろに、ズィルバーは懐から携帯を取り出し、今回の仕事の依頼人に電話を掛ける。
『……私だ』
「ズィルバーです。 ゼクト大佐、依頼されてた仕事が一段落終わりましたので報告を」
聞こえたのは老人ぐらいの男性の声だろうか。
狡猾さを思わせるような声と共に外にいるのか、がやがやと雑音が聞こえる。
『私も忙しい。 手短に報告を』
「分かりました。 では……」
ゼクト、と呼ばれた人物にズィルバーはこれまでのことを報告する。
なるべく簡潔、そして効率的に。
昔から彼と話す際はある一定の緊張が出る。
決して嫌いだとか苦手だとかではない。 それはズィルバー自身も分かっていた。
「……というわけなんです」
『なるほど、それは興味深い』
「しかし、何故僕にこんな依頼を? 確認だけならあなたでも良かったのに」
『最近厄介な事件が多発して、組織の人員をフル活用して対処している。 私とて、現場に駆り出されているのだ。 そこまで言えば、お前もどれほどの異常事態か、理解できるはずだが?』
電話からため息が混じった声が響く。
それと同時に、ギチギチと何か歯ぎしりのような音も聞こえる。
……そうだった。
昔からこのヒトは何かしら苛つくとこのような音を発する。
恐らく、今の状況に心底ストレスを貯めているのだろう。
そう思い、ズィルバーは詮索するのを止めた。
「それで、今後僕はあの子の状態を確認すればいいんですね?」
『ああ、そうだ。 詳細が分かり次第、報告してくれ。 その後に――――――』
と、その瞬間だった。
会話を遮るように、とてつもない爆発音が携帯から鳴り響く。
ズィルバーは驚き、携帯を落としそうになった。
「もしもし!? 一体なにが――――――」
『……内のテロリストが……爆……』
『死者は?』
『全員退……被害は……』
『そうか、分かった』
どうやら電話の向こうで、ゼクトは部下と会話しているらしい。
雑音と悲鳴、それらのせいで何を言っているのかよく分からないが、緊急事態なのは確実のようだ。
『聞いての通りだ。 かれこれ、この状況が先週から続いている。 ……正直、狐の手を借りたいぐらいだ』
「……ッ」
悲鳴や雑音を押しのけ、ギチギチ、とさらに歯軋りの音が大きくなる。
ゼクトがここまで不愉快そうにしているのは、そうなかなかない。
きっと、彼の近くにいる部下たちは心底生きた心地がしないだろう。
『中から『化け物』が!!』
今度ははっきりとゼクトの部下の声が聞こえる。
状況はどうやら芳しくないらしい。 電話越しでも、向こうの様子が手に取るようにわかる。
『今すぐ行く。 ……というわけだ。 少し時間をおいて詳細が分かり次第、私に報告してくれ』
「え、ちょ……」
ブツッっと一方的に電話が切れる。
……急を要する事態だというのは重々承知しているし、それをとやかく言うつもりもない。
そう、大体理解しているつもりだ。
「はぁ……」
だが、理解はしていても、ズィルバーの口から深く、なんともいえないため息が溢れた。
不満が無いとは嘘になる。
なんだか厄介ごとに巻き込まれたようで不安、というのが正直な感想だ。
どうしてこうなってしまったのか。
目を閉じ、ズィルバーはこれまでのことを振り返ってみる。
今朝、まったく連絡を取ってなかった昔の上司から急に連絡が来たと思えば、急に依頼を押し付けられ……。
行ってみれば、あまりいい思い出のない悪友が人間を惨殺していて、その奥には正体不明の少年がいて……。
一段落してみれば、依頼主は忙しそうで追加の仕事を注文してきた、と。
頭が重い。
おまけに先ほどから意味の分からないことだらけだ。
なにもない平凡な日常だったのに、まるで急に別世界に来たような感じだ。
おまけに慣れない事ばかりで体が悲鳴を上げている。
それでも。
依頼を受けた以上は卒なくこなさなければならない。
依頼というのは人に信頼されているからこそ、成り立つもの。
それだけは妥協したくないし、ズィルバー自身も許さない。
今も昔も変わらない。 どんな事情でも、どんな状況でも、だ。
奮い立たせるように目を見開くと、手に持っていた携帯から着信音が鳴り響く。
見ると、マルダ―からメールが届いていた。
『例の少年、部下が病院に搬送し終えたらしい。 結果も出たらしいから様子も見てくれ』
短い文章に病室の座標まで記載されている。
喋れば余計な事を言うくせに、こういった文章になると簡潔に正確に情報を伝えてくる。
だが、今のズィルバーにとってこれほど有難いものはない。
「さて、と」
重い腰を上げ、車から出て病院に向かう。
そして、人の姿に擬態すると、トボトボと歩き出した。
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