上 下
7 / 51
新しい婚約者

突然の来客。

しおりを挟む
「メーティアお嬢様!!」

オスト様と2人でゆっくり読書をしているとバネッサが慌てた様子で庭にやってきた。

「バネッサがそんなに慌てるなんて珍しいわね…そんなに慌ててどうしたの…?」


「実は…」

私の耳元で、バネッサが話し始める。バネッサの話によるとダルデンヌ公爵とアポロ様が家を訪ねてきたそうだ。

しかもアポ無しである…。


「お父様たちは?」

「今、視察に出ておられて、家にはメーティアお嬢様と、オスト殿下しか居られず…」

と、いうかよく2人だけ残して出かけたものである。まぁ、お父様たちのことだ。2人なら大丈夫だろう…くらいにしか思っていなさそうだけど。

「そうなのね。オスト様、申し訳ないのですが、来客が来たようなのでちょっと行ってまいります。」

オスト様にそれだけ告げると私は足早に応接室へ向かった。


「お待たせして申し訳ございません。ダルデンヌ公爵様、アポロ様。」
カーテシーをしてお詫びを伝えると2人はふんぞり返った態度で返してくる。

「本当に遅かったな。公爵を待たせるなんて何事だ!」

いえ、急に来たあなた方が常識知らずなのですが…その辺りは分かっておられるのでしょうか…

思わず喉元まで出そうになった言葉を頑張って飲み込む。

「申し分ございません、それでご要件はなんでしょうか。」

言い返したいことは山ほどあったが面倒なことにもなりそうだったので早速要件を聞くことにした。

「婚約破棄の件だが。君が全て悪いと聞いた。だから慰謝料を払って頂きたい。」


「はい?どうやら私の耳が悪くなってしまったようです…もう一度聞いてもよろしいでしょうか?」


ダルデンヌ公爵が言っていることがよく分からず思わず聞き返してしまった…慰謝料って。そもそもその話は随分前に話が纏まっていたはずなのだけれど…。


「はぁ…君は私の言葉も理解できないのか?どうやらアポロと婚約破棄してもらって正解だったようだ。アーテリアは律儀でとてもいい子だからね。」

理解できない訳では無いのだ。ただ、話が纏まったはずなのになぜ今更蒸し返してくるのか。そもそも今回の件はアーテリアの話にアポロも乗った訳だし、最後に私のことを貶していたことを覚えている。寧ろ…慰謝料が欲しいのはこちらだ。


「慰謝料については家族の問題ですので父に聞いてみないとお伝えできません。それに今回の件は全てご納得頂けているとお伺いしているのですが、なにか相違がございましたでしょうか?」

父上たちからしたら今まで援助してきたお金を全て返して欲しいと思っていたようだが、それ以上に縁を切りたいと言っていた。だから敢えて慰謝料などを請求しなかったのだ。その代わり一山領地として貰うという約束をしたと言っていた。

この山…特に調べもせずに二言返事で譲ってくれたが、実際は鉱山になる可能性を秘めていると調査したニケオスお兄様が言っていた。


鉱山になろうが今更返してくれと言われても返す気はさらさらないわけだけど…。


それにアーテリアが律儀でいい子なわけが無いだろう。恐らく、猫を被っているだけだと思う。


「ふん。それはそれだ。あとから見えてくることもあるだろう。お前が悪女だということは分かっているんだ。アポロという婚約者がおりながら、ヘリーオストとも付き合っていたのだろう?とんだ阿婆擦れだな。」


あ、あ、阿婆擦れ!?そもそもオスト殿下とあったのはあのパーティーが始めてだし、ほとんど領地から出ず、お茶会などの参加も公式的なものだけ。パーティーに至っては初めて参加したくらいだ。どこで他の男と仲良くなれるのか…こちらが教えてもらいたいくらいである。


「はぁ…そのような言葉どなたから聞いたのですか?」

「アーテリアとアポロが言っていたぞ。」

アポロ様の方を見ると、私と顔を合わせる気は無いようだ。きっと嘘を話していることは自分が一番わかっている事だからだろう。都合の悪い時はいつもこれだ…。

話が通じない間に説明するのはかなり疲れる…どうやってこの場を切り抜けるか頭をフル回転させていると、ガチャリと応接室の扉が開いた。


⟡.·*.··············································⟡.·*.

ヘリーオスト王太子殿下視点。


メルティとコルベール領に来てから1週間が経った。久しぶりに公務もなくゆっくりできている気がする。王宮に戻れば嫌でも公務三昧だし、今のうちに好きな本たんまりと読もうと思っていると、メルティの侍女であるバネッサが少し慌てた様子でやって来た。


メルティに気づかれないように様子を見ているとバネッサが耳打ちしたあたりから少しだが顔の表情が曇っていく。

コルベール家は本当に表情が乏しい。特にヘルとアフロディーナ様、メルティは顔の表情がほとんど変わらない。そんなメルティの色々な顔を見分けるのが楽しくなりつつある。


「オスト様。申し訳ないのですが、来客が来たようなので行ってまいります。」

メルティは足早に応接室に向かった。


「アルマン。何があったか知っているか?」


「はい。先程メイド達が話していたことを小耳に挟んだ程度ですが…前触れもなく、ダルデンヌ公爵とその息子のアポロ様が訪ねてきたようです。」

まさかこのタイミングで来るとは、良いのか悪いのか…という感じだな。
確か朝からコルベール侯爵もアフロディーナ様も出かけるとおっしゃっていた。ニケやヘルも視察で出かけると言っていたし…

「そうか…。タイミングが悪いな。アルマンは取り敢えず様子を見ておいてくれ。話が通じなさそうであれば俺が出よう。」


「承知いたしました。」


それから15分後、アルマンに代わりバネッサが俺の元へやって来た。

しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。

木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるアルシエラは、高慢な妹とそんな妹ばかり溺愛する両親に嫌気が差していた。 ある時、彼女は父親から縁を切ることを言い渡される。アルシエラのとある行動が気に食わなかった妹が、父親にそう進言したのだ。 不安はあったが、アルシエラはそれを受け入れた。 ある程度の年齢に達した時から、彼女は実家に見切りをつけるべきだと思っていた。丁度いい機会だったので、それを実行することにしたのだ。 伯爵家を追い出された彼女は、商人としての生活を送っていた。 偶然にも人脈に恵まれた彼女は、着々と力を付けていき、見事成功を収めたのである。 そんな彼女の元に、実家から申し出があった。 事情があって窮地に立たされた伯爵家が、支援を求めてきたのだ。 しかしながら、そんな義理がある訳がなかった。 アルシエラは、両親や妹からの申し出をきっぱりと断ったのである。 ※8話からの登場人物の名前を変更しました。1話の登場人物とは別人です。(バーキントン→ラナキンス)

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

虐げられた令嬢は、耐える必要がなくなりました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アニカは、妹と違い婚約者がいなかった。 妹レモノは侯爵令息との婚約が決まり、私を見下すようになる。 その後……私はレモノの嘘によって、家族から虐げられていた。 家族の命令で外に出ることとなり、私は公爵令息のジェイドと偶然出会う。 ジェイドは私を心配して、守るから耐える必要はないと言ってくれる。 耐える必要がなくなった私は、家族に反撃します。

婚約破棄を受け入れたのは、この日の為に準備していたからです

天宮有
恋愛
 子爵令嬢の私シーラは、伯爵令息レヴォクに婚約破棄を言い渡されてしまう。  レヴォクは私の妹ソフィーを好きになったみたいだけど、それは前から知っていた。  知っていて、許せなかったからこそ――私はこの日の為に準備していた。  私は婚約破棄を言い渡されてしまうけど、すぐに受け入れる。  そして――レヴォクの後悔が、始まろうとしていた。

【第一章完結】相手を間違えたと言われても困りますわ。返品・交換不可とさせて頂きます

との
恋愛
「結婚おめでとう」 婚約者と義妹に、笑顔で手を振るリディア。 (さて、さっさと逃げ出すわよ) 公爵夫人になりたかったらしい義妹が、代わりに結婚してくれたのはリディアにとっては嬉しい誤算だった。 リディアは自分が立ち上げた商会ごと逃げ出し、新しい商売を立ち上げようと張り切ります。 どこへ行っても何かしらやらかしてしまうリディアのお陰で、秘書のセオ達と侍女のマーサはハラハラしまくり。 結婚を申し込まれても・・ 「困った事になったわね。在地剰余の話、しにくくなっちゃった」 「「はあ? そこ?」」 ーーーーーー 設定かなりゆるゆる? 第一章完結

お姉様。ずっと隠していたことをお伝えしますね ~私は不幸ではなく幸せですよ~

柚木ゆず
恋愛
 今日は私が、ラファオール伯爵家に嫁ぐ日。ついにハーオット子爵邸を出られる時が訪れましたので、これまで隠していたことをお伝えします。  お姉様たちは私を苦しめるために、私が苦手にしていたクロード様と政略結婚をさせましたよね?  ですがそれは大きな間違いで、私はずっとクロード様のことが――

あなたに未練などありません

風見ゆうみ
恋愛
「本当は前から知っていたんだ。君がキャロをいじめていた事」 初恋であり、ずっと思いを寄せていた婚約者からありえない事を言われ、侯爵令嬢であるわたし、アニエス・ロロアルの頭の中は真っ白になった。 わたしの婚約者はクォント国の第2王子ヘイスト殿下、幼馴染で親友のキャロラインは他の友人達と結託して嘘をつき、私から婚約者を奪おうと考えたようだった。 数日後の王家主催のパーティーでヘイスト殿下に婚約破棄されると知った父は激怒し、元々、わたしを憎んでいた事もあり、婚約破棄後はわたしとの縁を切り、わたしを家から追い出すと告げ、それを承認する書面にサインまでさせられてしまう。 そして、予告通り出席したパーティーで婚約破棄を告げられ絶望していたわたしに、その場で求婚してきたのは、ヘイスト殿下の兄であり病弱だという事で有名なジェレミー王太子殿下だった…。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました

あおくん
恋愛
父が決めた結婚。 顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。 これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。 だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。 政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。 どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。 ※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。 最後はハッピーエンドで終えます。

処理中です...