今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。

ゆずこしょう

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今。

いつもより屋敷が慌ただしく感じます。

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王都に着いてから数日が経った。

いまだに、先日私を訪ねてきた男の人が誰なのかわかっていない。
あの後お兄様に聞いてみたものの、すぐわかると言われるだけでそれ以外のことを教えてはくれなかった。


「リアお嬢様、おはようございます!」


「ラルダ。おはよう。今日はなんだか朝から忙しそうね。」

お兄様が怖いからか普段から皆物音ひとつ立てずに仕事をする人たちばかりなのに今日はやたらと屋敷の中が慌ただしい。

「そうなんです。これからティオドール王弟殿下と、ナルシス様がこちらに来られるようですので…急ぎ準備を…」

ティオ様とナル様が来るくらいでこんなにいつも慌ただしかっただろうか…
準備をと言うってことはドレスをきちんときて出迎えなくてはならないと言うことだろう。

夜会やパーティーに行く予定をしていたわけではないためそんなにドレスを持ってきていないけど、試作用に持ってきたドレスを出すことにした。

少しグリーンがかった青に金と赤の刺繍が入っているドレスだ。いつもとは違った雰囲気のドレスなので色味も一緒に楽しめると思う。

慌ただしさをみているとあまりいい話でもないような気がしなくもないけれど…そんな時ほどドレスなどで気分を変えるのは大切だと思う。

準備を終えて応接室に向かうとティオ様、ナル様がいた。

一体何が始まるのかわからず、私はティオ様のところに向かって歩き出した。

「ティオ様!」

「リア!!」

ティオ様の名前を呼ぶと、ティオ様は振り向き私の方に向かって歩いてくる。

「お久しぶりです。お元気でしたか?」


「あぁ、リアは今日も綺麗だね!」
ここ数年、ティオ様は「綺麗だ」「可愛い」「美しい」などの言葉をたくさん私に投げかけてくる。
それにプラスして王子様スマイルがあるのでやたらと眩しい…

「あ、ありがとうございます。たくさん人が集まっているようなのですが…これは一体…?」

「あぁ、これから面白い催しが始まるところだよ。ここだと狭いからね。これからホールに移動する手筈になっているんだ。リアは私に着いてきて。」

そう言って私の手を取って歩き始めるティオ様に、タジタジだ。

⟡.·*.··············································⟡.·*.

ティオドール視点

数日前、毎日のように会っているエドから急に手紙が届いた。

「全く、急ぎのようであれば直接話せばいいものを…」

王宮ないの中でも最近は電話を開通しで部署ごとに簡単に会話ができるようになっていると言うのに…手紙なんて何があったのか…

手紙を開封し、読み始めるとそこには簡潔に
今日の日付と「遂に見つけた。」の一言だけが書かれていた。

私は急ぎナルを呼び出す。
「ナル。エドから手紙…」

「あぁ、僕のところにもきたよ。はじめは毎日あってるんだから直接言えばいいのにと思ったが…まさか手紙でしかも一言だけとはね。本当にエドらしいよ。」

リアと出会ってから10年だ。
はじめは5年で終わらせるつもりが、ここまで伸びたのはあいつが行方をくらましたことにある。

そしてこの5年間、あいつの事を調べれば調べるほど愚かな野郎だと言う事を知った。

まさかあそこまで愚かな奴だとは誰も思っていなかっただろう。


そのおかげで、私はリアと出会えたわけだが…
始めはエドの妹としかみていなかった私も10年経てば考えが変わっていた。

いつからかはわからないが、領地の改革に孤軍奮闘し、汽車や電話を作ってこの国の暮らしを豊かにするためにいろいろ動き回っている姿を見て、いつの間にかリアから目が離せなくなっていた。

もちろん子供から大人に変わっていくリアの成長を見てきたのもあるかもしれないが、今では私の唯一の人だと思っている。

リアの婚約者が音信不通になってから5年。

気持ちを伝えてきたつもりだが…リアにきちんと気持ちが伝わっていたかはわからない。


「やっと、この想いをリアに伝えることができそうだ…」

そしてあの愚かな野郎を地獄へ突き落とせると思うとなぜか笑いが止まらなかった…


「ティオ…その笑いは流石に…エドには負けるがまるで悪魔のようだからやめてくれ。」

ナルが青い顔でこちらを見てくるものだから余計に面白くなってくる。
リアへの気持ちに気づいてから5年。リアにとっては婚約してからだからプラス10年だ。
本当に長すぎる。

エドが書いた日付の日になり、ナルと一緒にエドの屋敷の中にある小さいホールへいくと、そこにはたくさんの人たちが集まっていた。

私はエドを探して声をかける。

「エド。いよいよだな。」

「あぁ。長かったな。お陰で証拠集めしやすく婚約破棄までスムーズにことが運べそうで助かったよ。ティオに頼みがあるんだがリアを屋敷にまで迎えに行ってもらえないだろうか。こちらに今から関係のある人たちが集まる手筈になっているんだ。」


エドからの頼みに頷き、屋敷へ迎えにいくと丁度リアがエントランスに向かって歩いてきているところだった。リアもこちらに気づいたらしく、

「ティオ様!」と小走りで寄ってくる。

「リア!!」
私も名前を呼ぶと少し頬が緩んだ様に感じた。

10年前に比べると少し表情に出るようになってきたようで嬉しい限りだ。私はリアの手を取って、ホールへと向かった。



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