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プロローグ
知らない人が訪ねてきました。
しおりを挟む「やぁ、アメリア。久しぶりだね。」
手を広げて私に向かって来る1人の男性。年は私より少し上だろうか。
しかし、私の記憶には全くなく「この人は誰だろう?」の状態である。
「すみません。どなたですか…?」
「僕の顔を忘れたのかい?」
忘れたも何も記憶がないのだ。本当に誰かわからない。
「すみません。勘違いではないでしょうか。私急いでおりますのでこれで失礼いたします。」
あまり深く関わるのは良くないような気がしたため急いで屋敷に戻った。
屋敷に戻ると、ベルタとセデスが迎えてくれる。
「おかえりなさいませ。アメリアお嬢様。お戻りが早かったように感じますが。」
「もうお嬢様という年齢ではないのだからやめてといっているじゃない…。なんだか知らない方に声をかけられたのよね。危ないと思ったから急いで戻ってきたの。」
先ほどあったことをベルタとセデスにはなすと2人は血相を変えて怪我がないか何もされていないか聞いて来る。
「何もされていないから安心してちょうだい。それよりも相手は私のことを知っているようだったのよね。どこかで会ったことがあるのかしら…全く思い出せないわ。」
雰囲気的に少し裕福そうな感じがあったけど、もし私が会ったことがあるとしたら夜会などで挨拶をしたことがある貴族の方々と商会の方々くらいだ。
ただ忘れているとしたら申し訳ない気がする。
「一応、お兄様に聞いてみようかしら。」
商会を立ち上げてから12年が経ち文明も色々変わり始めていた。
以前は手紙でしかやり取りができなかったが電話というものがつながり汽車というものが国の中を走りだしたのである。
そのおかげで人々の生活は豊かになった。
「セデス。セレスに連絡してお兄様が空いている時間を聞いてちょうだい。その時間に電話するわ!」
「承知いたしました。」
セデスは一礼してその場をさっていく。
「ベルタ。私は執務室にいくわ。商会の商品も少し考えたいし…」
「承知いたしました。では執務室に紅茶とお菓子をご用意しましょう。」
1人屋敷の中の廊下を歩く。
「商会を立ち上げてから12年も経つのね。」
本当に時間が経つのは早い。この12年色々なことがあった。
婚約者に「5年待っていてほしい」と言われたのが10年前。それから今まで一切の音沙汰もなく私もあっという間に25歳だ。
お兄様にも何度か婚約を白紙にして構わないと言われたが、このまま婚約を白紙にすることだけは気持ち的に許せなかった。できれば婚約破棄をこちらから突きつけて、慰謝料をもらいたいくらいだ。
まぁ、私も婚約者が居ない間、商会を立ち上げて色々なことに挑戦できたのには変わりがないので、時間をもらえたことは嬉しかったけど…。
「そろそろ潮時ね。特に好きという感情もないし、婚約破棄しましょう。」
正直、顔すら覚えていない婚約者と結婚することは気が引けるし、向こうのお父様、お母様も愚息がすまないと謝ってくれているのであまり迷惑をかけたくないのも事実だ。
そして何より、私が結婚しなければお兄様も結婚しないだろうし…
少しとうたっているけれど、私をもらってくれる方もいる気がしている。
私の願いは商会をこのまま続けていくことだから、それさえ許してもらえればなんてことない。
汽車を作るのも電話を作るのも私が意見を出してそれをお兄様が形にしてくれたのだ。
お兄様には感謝しかない。これからも色々なものを世の中に発信していければいいなと思っているくらいでそれ以外は特にいらないのだ。
1人で今までのことを考えていると、セデスが部屋を訪ねてきて、今なら時間が取れるとお兄様から言付かったことを教えてくれた。
⟡.·*.··············································⟡.·*.
「お兄様お久しぶりですね。」
「あぁ。元気だったか?」
電話越しに簡単に挨拶をする。声も元気そうでよかった。こうやって簡単に声が聞けるのはとてもありがたい。
「はい。急に申し訳ございません。その…今日知らない人が訪ねてきたのでお兄様の知っている方かなと思って確認のご連絡でした。」
私が今日会ったことを簡単に話すと急にガタガタと声が聞こえた。椅子から立ち上がったのかもしれない。
「なに!?顔は覚えているか?」
顔…は全然見ていなかったが…まぁまぁ整っていた?裕福そうだったことを伝える。
「お兄様の方がかっこいいなと思いました。あと裕福そうだなと…そのくらいですかね?すみません。特徴を覚えておらず…」
お兄様だけでなく、ティオドール王弟殿下やナルシス様などこの国の中で1.2を争うかっこいい方々と共にする機会が多く、どうしてもその他の方の顔が覚えられないのだ。
「いい。取り敢えず、またそいつが来るようであれば王都の屋敷に来るように伝えてくれ。できればリアにも一度こちらにきてもらいたい。」
なんだか急いでいるようなお兄様の声に、
「わかりました。明日の汽車でそちらに向かいます。言伝はセデスにしていただくようお願いしておきます。あ、あと…」
10年経ったので婚約破棄をしようと思っていることを伝えた。
「本当か!?ならその話も踏まえて明日こちらにきてから話そう。気をつけてこちらに来なさい。」
電話を切り話した内容をセデスに伝えて私は次の日ベルタと共に屋敷を後にした。
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