幸せはあなたと

ヒイロ

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1章.現代

17.

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僕は人と関わらないように育ってきた。あの人の家族など見たことも聞いたこともない。双子だったなんて知るはずもない。

「智美も友華も昔から身体が弱くて、特に智美は産まれてすぐに高熱で生死を彷徨ったんだよ。僕の家は代々医者でね、うちの病院に入院していたんだ。智美の両親は弁護士をやっているんだ。小さい頃はお見舞いも来れないほど忙しくて、僕はよく病室に遊びに行っていた。二人とも寂しいはずなのに、そんな素振りは見せないで、いつも二人で楽しそうにしていたんだ。」

淡々と昔話をする。僕にとっては関係ない話だ。

「二人ともそっくりで、よく入れ替わってはどっちが智美でしょうか?なんて遊びをしていたんだ。僕は一度も二人を間違えたことない。」

もう一人同じ顔の人がいるなんて僕にとっては恐怖でしかない。

「智美は元気に学校に通えるようになったんだ。だけど、友華は心臓が悪くてね、手術も何回もしたんだけど心臓移植しか方法はなくて。なかなかドナーも見つからず入退院を繰り返してた。智美はね、そんな友華に毎日会いに行って、学校の話をしてあげてたんだ。本当に仲が良かったんだ。そして高校に入学した。君と同じ高校だよ。僕も卒業生だ。」

だから制服を見てあの人は、懐かしいと言ったんだろう。すると木根さんは急に眉間に皺を寄せ辛そうな顔をする。

「高校に入学した智美は恋に落ちた。君も知っているはずだ。藤崎優斗先輩だ。」

藤崎?まさか…。いつも会っているあの男の人は藤崎のお父さん…?でも、藤崎なんて名字珍しくもない。いくらでもいる。ぎゅっと手を握りしめた。

「高校に入学して智美は色んな人から告白されていた。綺麗だろう智美は。…君は小さい頃の智美にそっくりだ。智美は一目惚れしたと言っていた。先輩も格好いいからね。すごくモテていたよ。智美は今まで恋愛をしたこともなかったんだと思う。一つ上の先輩が本当に好きでよく僕に相談をしていた。友華にもね。応援していたんだ…僕も。二人はお似合いだった。みんなが羨ましくなるほど。そして智美と先輩は付き合い始めた。」

木根さんが泣いているように見えた。

「そして大学生になり、僕は医者を目指す為に智美と違う大学に進んだ。先輩と智美は同じ大学に進んだんだ。その頃、友華はドナーが見つかり手術は成功して、普通の生活が送れるようになったんだ。何もかも皆が幸せに向かっていた。…大学最後の学園祭に僕と友華は招待された。友華もすっかり元気に普通の生活が出来るようになってたからね。そこで初めて先輩と友華は出会った。先輩と友華は運命の番だったんだ…お互いに会った瞬間本能の結び付きが強く感じたらしい。そして友華はヒートになり先輩と結ばれてしまった。それからだよ智美がおかしくなってしまったのは…。先輩も誠心誠意謝った。きっと毎日友華に会っている智美は、身体にフェロモンの匂いが移ってたんだろう。先輩が智美に引かれた理由はそこだろう。表面上は二人を祝福しているように見えたんだ。でも、僕には分かった…智美が狂っていく姿が…。友華も先輩も全く気付いてなかった…。」

木根さんは顔を覆って泣いていた。そして僕にすまないと謝る。何故木根さんが謝るのか。あの人が勝手にフラれたのを逆怨みしているだけじゃないだけじゃないか。

「君の父親は藤崎先輩だ。それは間違いない。」

薄々気付いてはいた。でもそれが何だと言うのだ。実の父親も助けてはくれないということだけ。そして父親はあの人と不倫をしている。ただそれだけ。

「僕は大きな罪を犯した。君も巻き込んでしまった…本当にすまない。」

「この話を聞いて僕は何と言えばいいのですか?あの人を許してあげればいいのですか?可哀想と慰めればいいんですか?それとも…それとも…」

違うそうじゃないと言うが何が違うと言うのだ。

「僕は、自分の犯した罪を償わなければいけない。産まれた頃は君を僕が育てていたんだ。ある日突然智美が君を引き取ると言い出して。僕は無理だと止めたんだ。…僕は君が虐待を受けていたことを知ってる。そんな君を僕は犯してしまった。」

…僕がこんな目にあっていているのを知っていても、助けてもくれない大人もいる。もう何も信じられない。

「さっき飲んだのはアフターピルだから。子供はできないよ。予備も渡しておく。それからこれはヒートを押さえる薬だ。智美が帰ってくるまで自分の部屋から出ないように。近くにいるとフェロモンの匂いでまた抱いてしまう。僕はこれ以上君を傷つけたくない。」

「傷つけたくない?僕の傷が見えるんですか?僕が訴えても誰も助けてはくれなかった…実の父親すら助けてはくれない。知っていても助けてくれなかったあなたに、何が分かるんですか?僕は何故産まれる必要があったのですか?あの人は僕に、お前の幸せだと思うことは絶対与えないと言いました。…僕が生きている意味はない…。」

そんな傷ついた顔で見ないでほしい。あなたがそんな顔するのは卑怯だと思う。

「僕は償いたい…必ず約束する。ここ出たら救いだすよ。君を。」

そんなことは信じない。木根さんはあの人が好きなのだから。何度もあの人の名前を呼んでいた。ずっと好きだったんだろう。

「優くんは、飛田先輩が好きなんだよね。飛田先輩は藤崎先輩の親友だよ。あのホテルは藤崎先輩の経営するホテルなんだ。飛田先輩もアルファで有名なシェフなんだよ。藤崎先輩が頼み込んであのホテルで働いているんだ。」

唐突に言われて言葉に詰まった。だから僕が泊まることも知っていたのか。じゃあ、あの人の事も知ってるということ…。やっぱり他の大人と同じだったんだ…。晴一も知っていて助けてはくれなかった?涙が勝手に出てくる。

「ごめん。泣かすつもりはなかったんだ。実は飛田先輩はずっと君を助けようと動いている。智美に接触を何度もしているんだ。智美も飛田先輩が君を好きだなんて思っていなかったんだと思う。ご飯を食べに行ってるとしか思ってなかったから。5年前くらいから頻繁に子供の事を訊ねてくると智美が言ってたよ。」

涙が溢れる。晴一は、そんな前からあの人に…何を言ってたんだろう。顔に出てたのか木根さんは

「君の傷のこととか、大分前だけど虐待を訴えると言われたみたいで、智美がイライラしてた。僕にも接触してきたからね。ただ僕は智美の方が大事だったから。すまない…。」

晴一は僕を助けようとしてくれていた?あの言葉は本当だったの?

「僕のことを信じて貰えるとは思っていないよ。飛田先輩は君のことが好きなんだ。それは信じてあげてもいいと思う。きっと君たちは運命の番だから…。」

運命の番…僕は何も感じたことはない。それはきっとないんだろうけど…先生が言っていた発育が遅れるということが関係しているのだろうか?心の中に今まで感じたことのない温かい気持ちが流れてくる。

「運命の番って何だろうね…智美はね…僕のフェロモンは全く感じないんだ…おかしいね…僕は出会った時から…。」

いや、何でもないよと言って木根さんが悲しそうな微笑みをした。

「ちょっとフェロモンが出始めてる。僕はあっちの部屋で休むから自分の部屋で絶対出てこないで。薬を飲んで鍵は…付いてないか、ドアの前に何か物とか置いて絶対ドアは開けないで。僕も薬を飲んで気を付ける。…絶対救いだすから。しばらく我慢してほしい。」

そう言って部屋に入っていった。僕も薬を飲んで自分の部屋に入る。とりあえずドアの前に本棚を置いた。あまり意味の無い気がしたがそれでも自分の為に必要だと思った。薬が効いてきたのか眠くなってくる。引き出しからキーホルダーを取り出し、握りしめた。

「晴一…僕は…信じてもいいの?」

宝物を守るようにキーホルダーを抱き締めて眠った。
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