当たり前の幸せ

ヒイロ

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それからも煇は忙しく会えるのは帰って来た時の朝食の時間になっていた。起きて待っていようと思っていても煇が許さないので僕は迷惑をかけないよう眠ってしまう。あれから色々調べるのが日課になっていた。ここ最近は仕事も受けていない。

「ここの病院3日で退院出来るんだ。でも、通院しないといけないのかぁ~」

項を掻く。あの後この項の跡が気になって仕方なくなった。消えることのない噛み跡。引っ掻くように気がつくと掻いている。

「痛っ。あーまた血が出ちゃった。」

何度も掻いているせいでかさぶたにすらなっていない気がする。

傷痕は見ていない。どうなっているのかわからない。見て噛み跡が残っているのが怖いのだ。
この間は服に付いた血がすごくて1日ガーゼを着けていたが掻いてしまうので意味がなかった。

面倒くさいって言っていたが毎日帰るコールと愛してるって言ってくれる。本当に優しい。煇が煩わしい思いをしてほしくない早く手術しないと。

ヒートも定期的に来る。忙しい中でも煇は一週間休みを取ってくれて僕の為にセックスをして。早く手術という思いが強くなる。

そんな時だった買い物をしている時に矢野先輩と会った。この間の謝罪もしたくて近くの喫茶店に入った。

「この間は本当に申し訳ありませんでした。」

頭を下げる。

「すまない。俺が悪かった。謝らないでくれ。」

でもって言うと

「アプリの立ち上げの時にもあんな無茶な要求で迷惑をかけたのにアプリが動かないと言ってしかもこちらのミスだったのに本当にすまなかった。」

あれから大丈夫だったか?と聞かれ理由を先輩のせいにしてしまった手前何と言っていいか分からずひたすら謝った。

「もうやめよう。」

平行線のままの謝罪でお互いに苦笑いだ。

「最近旦那忙しいんだろ。」

「そうですね。帰れない日が多くなってきました。後一年もないですし。地方の会場にも行くので最近では二三日泊まりとかよくありますよ。」

「お前も寂しいだろ。」

「大丈夫です。僕なんかを気にしてんですから。逆に申し訳ないです。」

「?。番だから当たり前じゃないか。」

「そうなんですよ僕なんかが番なんで本当に申し訳ない。」

先輩が変な顔をしている。

「?」

「しかも何でチョーカーしてるんだ?」

「えっ?あ~噛み跡見られたくないので。」

それもあるが掻きすぎてるせいか最近は血が止まらなく出掛けるときは服を汚さないようにチョーカーの下にガーゼを挟んでいる。それに番持ちだとみられたくない煇に迷惑がかかる。

「お前ら忙しいだろうけど話し合いした方がいいと思うぞ。」

?。なんでだろう。煇は今忙しいのだ僕の為にそんな時間を割いてもらうなんて駄目に決まってる。曖昧に笑って先輩と別れた。


「あっ、先輩に身元保証人になってもらえばいいんだ。今度頼んでみよう。」

テンションが上がる。食事の材料を買って帰宅する。さっそく先輩に今度会ってもらえないかメールした。いつでもいいと返事をもらいさらにテンションが上がった。今日は良い日だ。

夜になって久しぶりに煇が早い時間に帰ってきた。

「あ~拓だ~。」

玄関で迎えると抱き締められた。嬉しい。

「ごめんなぁ~拓一人にさせちゃって。もう建物も完成近づいてるしあとは細かいチェックだけでしばらくは地方行ったりするけど落ち着くはずだから。」

「わかった。待ってる。」

「今日拓何か良いことあった?にっこにこ。可愛い。」

頬を撫でられる。

「だって煇がいる。」

煇もいるし手術できるかもしれないし。
そうか~って嬉しそうにキスしてくれる。

「でもさぁ~今日早く帰れた分明日早いんだよ。佐野が明日朝迎えに来てくれるんだ。拓は寝てていいから。」

「ご飯一緒に食べちゃだめ?お弁当も作りたい。」

「駄目じゃないんだけど本当に早いから無理してほしくない。」

あっ、面倒くさいって思われる。

「ごめんなさい。寝てます。ずっと寝てます。」

いやそういうことではないんだけどと苦笑いされた。失敗した。嬉しすぎてわがまま言ってしまった。

「で、奥さん今日のご飯は何でしょうか?」

「さばの味噌煮とクレソンのお浸しと豚汁です。」

わーいっと子供のように喜んで僕をお姫様抱っこしてくれてリビングまで運んでくれた。

「で、拓?その包帯何?」

今日連絡が帰るコールがあった時にあわてて巻いたのだ。最近煇は寝てる時に帰ってきてるのでハイネックを着て隠してたのだが血の汚れが取れなくて今浸け置きしている。ハイネックを着回すほど持っていないし。煇がこの傷を見るときっと嫌がると思う。迷惑をかけたくない。

「最近汗疹が出来て。」

と考えてた理由を言う。最近寒いので苦しい言い訳だったがそっかと言われて酷くなるようだったら病院に行くように言われた。優しい。

晩御飯を美味しい美味しいと喜んでくれた。
この間誕生日で25になった。実家での誕生会をやったのだが忙しいのにわざわざ来てくれた。プレゼントも貰った。財布だった。あまり出歩かないので同じ財布をずっと高校から使っていたのだ。きっと変だったんだろう。お祖父ちゃんから貰って大切にしていたが煇の財布に変えた。

「拓今日どう?」

嬉しい今日抱いてくれるんだ。

「嬉しい。」

お風呂には僕は入っていたので煇がお風呂に入っている間に準備をする。煇はお尻の準備は夫の役目で自分がするって言っていたが忙しい日々で疲れているのにそんななことはやらせられない。ヒートではないのでローションを使って指を入れる。最近はヒート以外で抱かれていないせいか固くなってて入らない。

「もう、面倒くさい。本当に僕は面倒くさい。何で入らないの。」

「拓?」

「ごめんね煇なかなか指入らないんだ。このままで入れていいから。」

「拓!!」

急に抱き締められた。煇の匂いに包まれる。

「今日は何もしないで一緒に寝よう。抱きしめて眠りたい。」

良い日が悪い日になった。
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