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第13話 屋根裏の箒

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 屋根裏部屋には、ベッドと机が一つずつあるだけ。

「これって……」
「わたしの部屋になってるみたい」
「……そっか」

 ぼくは納得した。
 この屋敷にはたくさんの人がいるけど、この部屋の主人は――きっとこの先もずっと――リディアさん一人だ。
 だから、娘である彼女の部屋になったのだろう。
 でも……。

「いいのか?」
「え? 何が?」
「だって、その……」
「ああ、うん。大丈夫よ」

 彼女はにっこりと笑った。

「お客さま用の寝室もあるんだけどね。そこを使うのは、もっと大きな子たちなの」

 それはつまり、今年で二十七歳になるとかいう、あの働かない男のことだろうか。
 確かに、彼はとても元気そうだったし、この狭い部屋ではゆっくり眠れないかもしれない。

「それに、今はもう、ここはお母さんじゃなくてわたしの部屋なんだから。ね?」
「あ、ああ……」

 ぼくは曖昧にうなずいた。
 彼女がいいというなら、それでいいんだろう。たぶん。

「さて、それじゃあさっそくだけど、あなたには仕事をしてもらわなくちゃいけないわ」
「仕事?」
「ええ。屋根裏の屋根の上を掃除して欲しいの。あなたそういうの得意でしょ?」
「わかった」

 ぼくはうなずく。
 労働は嫌いじゃない。むしろ好きだ。それが彼女の役に立つ事ならなおさらだ。

「箒はある?」
「そこに立てかけてあるやつを使ってちょうだい」
「了解」

 ぼくはうなずいて、壁に置かれた木箱の中から一本取り出した。
 それを両手で持ってみる。……軽い。
 柄の部分を持って軽く振ってみると、まるで羽根のようだった。

「ちょっと、こんな狭い屋根裏でそんなの振り回さないでよね!」
「ごめん。でも、これ本当に軽くって」
「そんなに軽いの?」

 ぼくは彼女にその箒を手渡した。彼女はそれを右手で持ち上げて……いや、持ちあがってそのまま宙に浮かんだ。

「凄い、この箒飛んでるわ」
「飛んでるね。リディアさんって魔女だったのか?」
「みたいね。いろんな事件を解決してたみたいだから。私もこの屋根裏から飛び立ってみるわ」
「気を付けていけよ」

 彼女は屋根裏の窓を開ける。そして、外を見て下を見て空を見て箒を出そうとして結局引っ込めて戻ってきた。

「どうしたの? 行くんじゃなかったの?」
「今日は止めておくわ。それよりも屋根の掃除をやってよ」
「ああ、そうだったね」

 ぼくはバケツと雑巾を手に持つと彼女から受け取った箒に乗って軽やかに屋根へと舞い上がった。
 彼女はそれを羨ましそうに見送るのだった。
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