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第3話 彼女に食わされた
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とんとんとん。リズミカルな音がする。
豚郎の住む家に今まで聞いたことがない野菜を切る音がする。
キッチンに立ってささらが料理をしていた。これが彼女の秘策らしい。
豚郎は床にごろりと寝転がって彼女の料理している姿を見ていた。子供だと思っていたけど意外と様になっている。
これなら安心して任せられるかもしれない。
「出来たわよ」
彼女が出来た物をお盆に乗せてやってくる。お盆が視界を塞ぎ、彼女は寝転がっている豚郎に気が付かなかった。近づいてきて視線があった。
彼女は足を止めて顔を赤くした。
「何でそんなところで寝ているのよ!」
「うわ! 危ない!」
豚郎は慌てて起き上がった。
ささらは片手でスカートを押さえ、もう片方の手で料理を落としそうになったが何とか耐えた。
「見た?」
「うん、料理上手いんだね」
「ありがと」
それ以上はお互いに何も言わなかった。
「どうぞ」
そう言って彼女がテーブルの上に差し出してきたのは普通の味噌汁だった。どう見ても普通の味噌汁にしか見えないそれを見て豚郎は訊ねた。
「これが呪いに効くの?」
「うん、霊的な物には味噌や塩が効果的なのよ」
「霊的な物かあ。いただきます」
おいしそうな味噌汁を一口すする。顔をしかめた。
「しょっぱ! 何これ」
その反応を見て、ささらは慌てて弁解した。
「わたしが失敗したわけじゃないわよ。さっき塩が効くって言ったじゃない。だから多めに入れただけで」
「そうなのかあ」
「ちょっと待って」
さらに飲もうとする彼の手からお椀を取り上げて、彼女もまた一口すすった。一瞬変な顔になったが、すぐに表情を取り戻して思慮深げに考えた。
「でも、これはやりすぎたか。よし、これは捨てよう」
「ええー、もったいないよ」
「料理で体を壊したら元も子もないでしょ」
ささらはお椀の中身を鍋に戻し、作った味噌汁をまとめて捨てようとしてその手を止めた。振り返る。
「やっぱり食べる?」
「うん」
料理がもったいない気がしたのはどちらも同じだった。
結局呪いが出てこなかったので、その日はお互いにしょっぱい気分になって別れた。
次の日、よく晴れた良い天気だった。まだ朝だというのに太陽はすでに昇って窓の外から容赦なく明るい光を投げかけてくる。
こんな外の眩しい明るい日は光でパソコンのディスプレイがよく見えないので、豚郎はカーテンを引いて暗くした部屋でネットを楽しんでいた。
ピンポンが鳴って玄関に出ていくと眩しい日差しの溢れる場所で眩しい笑顔をしてささらが立っていた。
「おはようございます、豚郎さん」
「ああ、おはよう。……なんで敬語?」
ささらは豚郎の質問には答えずに彼の恰好を見た。
「何でまだパジャマを着てるの?」
「何でってどこにも出かけないし、普通じゃないかな?」
改めて見てみるとささらは年相応のお洒落をしているようだ。その彼女が口を尖らせて言う。
「もう! そんな不健康だから呪いが居つくのよ。今日は出かけるわよ!」
「ええー、どこへ?」
「どこか楽しい所へよ! それで呪いは出ていくはずよ!」
「そうなのか」
「さあ、出かける準備をして!」
言われ、豚郎は部屋に戻って準備をして再び玄関へ出ていった。
「お待たせ」
「冴えない格好ね」
顔を合わせるなりささらは容赦ない言葉を浴びせてきた。
「ほっといてよ。今まで誰かと出かける用事なんてなかったんだ。そういう君こそ……」
豚郎は何か言い返してやろうと彼女の姿をまじまじと見つめた。そして、正直な気持ちを述べた。
「君、何か気合い入れてない?」
「入れてないわよ! これぐらい普通だから! わたし大人だから!」
「ふーん」
「ほら、行くわよ」
ささらがさっさと行ってしまうので豚郎は慌ててその後をついていった。
豚郎の住む家に今まで聞いたことがない野菜を切る音がする。
キッチンに立ってささらが料理をしていた。これが彼女の秘策らしい。
豚郎は床にごろりと寝転がって彼女の料理している姿を見ていた。子供だと思っていたけど意外と様になっている。
これなら安心して任せられるかもしれない。
「出来たわよ」
彼女が出来た物をお盆に乗せてやってくる。お盆が視界を塞ぎ、彼女は寝転がっている豚郎に気が付かなかった。近づいてきて視線があった。
彼女は足を止めて顔を赤くした。
「何でそんなところで寝ているのよ!」
「うわ! 危ない!」
豚郎は慌てて起き上がった。
ささらは片手でスカートを押さえ、もう片方の手で料理を落としそうになったが何とか耐えた。
「見た?」
「うん、料理上手いんだね」
「ありがと」
それ以上はお互いに何も言わなかった。
「どうぞ」
そう言って彼女がテーブルの上に差し出してきたのは普通の味噌汁だった。どう見ても普通の味噌汁にしか見えないそれを見て豚郎は訊ねた。
「これが呪いに効くの?」
「うん、霊的な物には味噌や塩が効果的なのよ」
「霊的な物かあ。いただきます」
おいしそうな味噌汁を一口すする。顔をしかめた。
「しょっぱ! 何これ」
その反応を見て、ささらは慌てて弁解した。
「わたしが失敗したわけじゃないわよ。さっき塩が効くって言ったじゃない。だから多めに入れただけで」
「そうなのかあ」
「ちょっと待って」
さらに飲もうとする彼の手からお椀を取り上げて、彼女もまた一口すすった。一瞬変な顔になったが、すぐに表情を取り戻して思慮深げに考えた。
「でも、これはやりすぎたか。よし、これは捨てよう」
「ええー、もったいないよ」
「料理で体を壊したら元も子もないでしょ」
ささらはお椀の中身を鍋に戻し、作った味噌汁をまとめて捨てようとしてその手を止めた。振り返る。
「やっぱり食べる?」
「うん」
料理がもったいない気がしたのはどちらも同じだった。
結局呪いが出てこなかったので、その日はお互いにしょっぱい気分になって別れた。
次の日、よく晴れた良い天気だった。まだ朝だというのに太陽はすでに昇って窓の外から容赦なく明るい光を投げかけてくる。
こんな外の眩しい明るい日は光でパソコンのディスプレイがよく見えないので、豚郎はカーテンを引いて暗くした部屋でネットを楽しんでいた。
ピンポンが鳴って玄関に出ていくと眩しい日差しの溢れる場所で眩しい笑顔をしてささらが立っていた。
「おはようございます、豚郎さん」
「ああ、おはよう。……なんで敬語?」
ささらは豚郎の質問には答えずに彼の恰好を見た。
「何でまだパジャマを着てるの?」
「何でってどこにも出かけないし、普通じゃないかな?」
改めて見てみるとささらは年相応のお洒落をしているようだ。その彼女が口を尖らせて言う。
「もう! そんな不健康だから呪いが居つくのよ。今日は出かけるわよ!」
「ええー、どこへ?」
「どこか楽しい所へよ! それで呪いは出ていくはずよ!」
「そうなのか」
「さあ、出かける準備をして!」
言われ、豚郎は部屋に戻って準備をして再び玄関へ出ていった。
「お待たせ」
「冴えない格好ね」
顔を合わせるなりささらは容赦ない言葉を浴びせてきた。
「ほっといてよ。今まで誰かと出かける用事なんてなかったんだ。そういう君こそ……」
豚郎は何か言い返してやろうと彼女の姿をまじまじと見つめた。そして、正直な気持ちを述べた。
「君、何か気合い入れてない?」
「入れてないわよ! これぐらい普通だから! わたし大人だから!」
「ふーん」
「ほら、行くわよ」
ささらがさっさと行ってしまうので豚郎は慌ててその後をついていった。
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