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第28話 蘇ったドラゴン
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学校の敷地内に現れた巨大な赤いドラゴン。
古い時代に陰陽師達によって封印され、今現代の町に蘇ったドラゴンメギウスは高みから景色を睥睨した。
「これが今の町か。力で感じてはいたがよくここまで発展したものだ。食い頃というものか」
そして、満足するまで見やってから彼は目線を下げて京に向かって話しかけた。
「よくやった人間よ。ここからは我もともに戦おう。こいつら全てを蹂躙し、その後にお前をこの国の女王にしてやろう。ドラゴンの力ならば可能な事だ」
だが、京はそのドラゴンの誘いを涼しく首を横に振って断った。
「何を言っているの、メギウス。女王になるのは綾辻さんよ。あなたでもわたしでもないわ」
「なんだと?」
ドラゴンの瞳が訝し気に細められる。二人の意見は完全に一致しているわけではないようだ。
京はドラゴンに向かって全く臆せずに言い放った。
「ここは綾辻さんの力でアヤツジ王国になるの。わたしは綾辻さんを支える二番になる。それがわたしの夢。それ以外には何もいらないんだけど、あなたならペットにぐらいはしてあげてもいいわ」
「調子に乗るなよ、人間。野望を持てぬ者に意味は無い。お前を選んだのは間違いだったようだな!」
ドラゴンが火球を吐き出す。それぐらいなら今の京なら対処できただろうけど、あたしはとっさに飛び出していた。
「危ない! 京!」
「えっ、綾辻さん!?」
そこには計算も何も無い。友達が襲われているんだから助けたいと思うのは当たり前のことだ。
あたしは京を押し倒す。火球があたし達の上を通り過ぎていく。その質量と熱さをあたしは背中に感じるが直撃はしなかったし、聖剣のバリアが和らげてくれたのでダメージは無かった。
京は驚いたようにあたしを見上げていた。この光景には何か覚えがある。そうだ思いだした。あれは小学校の頃に公園の近くを通っていた時だ。
カキーーーーーーーン!
大きな打球音がして良い当たりだなと思っていたら、その球が前を歩いていた地味めな女子の方に向かって飛んでいた。
あたしはとっさに前に走って彼女を押し倒し、地面に落ちて転がったボールを持ってすぐに野球少年達の方に怒鳴りこみに行って一緒に野球した。
そう言えばテストの結果を見ていた時もあの地味な女の子いたなと思いだしていたら、その姿が今の京と重なった。
あたしはつい思った事を口にしてしまう。
「京ちゃんって小学の頃はもっと地味な子じゃなかった?」
「綾辻さん、覚えていてくれたんだ!」
京は嬉しさに涙をうるませる。一番にしか興味がなく他人を道端に転がっているドングリぐらいにしか見ていなかった小学時代のあたしだったけど、何も見ないで暮らしていたわけじゃない。
視界に入った物を思いだすぐらいは出来た。小学校なんてついこの前のことだもの。その視界の端に確かに京はいた。
「本当に小学校時代からの付き合いだったんだ」
「うん……綾辻さんがここを受けるって聞いていっぱい勉強したんだよ。新しい中学に行くのに少しお洒落もして」
「あたしがいつも一番だったけどね」
「フフ、綾辻さんって本当に凄い。どれだけ頑張っても届かないよ」
あたし達は思い出に浸りたい気分だったが、ドラゴンの声が許さなかった。
「与えた力を返してもらうぞ!」
「キャアアア!」
京の体が念動力によって持ち上げられ、力がドラゴンに戻されていく。
あたしはすぐに助けたかったが、京の力を失いかけた、だが意思の強い瞳に止められた。
「いいの、綾辻さん。わたしは綾辻さんに覚えていてもらっただけで嬉しいから。だから……もうこんな力いらないの……ここからは自分の力で頑張……」
全ての力を抜きとられ、京の体が落ちてくる。あたしは大切な友達の体を受け止めた。
ドラゴンは改めて人間達に向かって問いかける。
「我は人間が好きだ。大いなる力を与えては喜び浮かれ、敵を粉砕し、仲間を傷つけ、しまいには自分も破滅する。そんな愚かで矮小な人間がな。さあ、力が欲しい者は名乗りをあげよ。我がこの国の王にしてやるぞ!」
「だったらわたくしが……」
今頃になってゲートを開いてやってきたラキュアに構う余裕はあたしには無い。雰囲気に呑まれて黙る彼女にあたしは静かに訊ねた。
「サイクロプスは?」
「魔王様がお戻りになるまでに城を直しておくと言ってましたわ」
「そう」
あたしにとってはどうでもいいことだ。人手は一人でも足りる。あたしは気を失った京の身を彼女に預けた。
「京をお願い。暇そうなのあんたしかいないから」
「なんでわたくしが!?」
「頼むから!」
「……分かりましたわ。必ず引き取りに来るんですのよ」
「うん! あんたも大切に」
京を抱いて下がるラキュア。あたしはすぐにドラゴンに向かって駆けた。
友達を傷つけた。大切な友達を。あたしはそいつを許さない。
「ドラゴンメギウス!!」
ジャンプして聖剣を振り降ろす。ドラゴンは軽く頭で受け止めた。
「人の力で我に勝てると思うか? このちっぽけな人間が振るう力如きで!」
「聖剣よ、ここに力を!!」
「破邪! 爆雷札!」
「ウオーターストリーム!」
「うおっ、おおおお!」
あたしの攻撃に天馬と美月の技が加わって、巨体を押す力となる。
爆発してドラゴンを地に叩き伏せた。
古い時代に陰陽師達によって封印され、今現代の町に蘇ったドラゴンメギウスは高みから景色を睥睨した。
「これが今の町か。力で感じてはいたがよくここまで発展したものだ。食い頃というものか」
そして、満足するまで見やってから彼は目線を下げて京に向かって話しかけた。
「よくやった人間よ。ここからは我もともに戦おう。こいつら全てを蹂躙し、その後にお前をこの国の女王にしてやろう。ドラゴンの力ならば可能な事だ」
だが、京はそのドラゴンの誘いを涼しく首を横に振って断った。
「何を言っているの、メギウス。女王になるのは綾辻さんよ。あなたでもわたしでもないわ」
「なんだと?」
ドラゴンの瞳が訝し気に細められる。二人の意見は完全に一致しているわけではないようだ。
京はドラゴンに向かって全く臆せずに言い放った。
「ここは綾辻さんの力でアヤツジ王国になるの。わたしは綾辻さんを支える二番になる。それがわたしの夢。それ以外には何もいらないんだけど、あなたならペットにぐらいはしてあげてもいいわ」
「調子に乗るなよ、人間。野望を持てぬ者に意味は無い。お前を選んだのは間違いだったようだな!」
ドラゴンが火球を吐き出す。それぐらいなら今の京なら対処できただろうけど、あたしはとっさに飛び出していた。
「危ない! 京!」
「えっ、綾辻さん!?」
そこには計算も何も無い。友達が襲われているんだから助けたいと思うのは当たり前のことだ。
あたしは京を押し倒す。火球があたし達の上を通り過ぎていく。その質量と熱さをあたしは背中に感じるが直撃はしなかったし、聖剣のバリアが和らげてくれたのでダメージは無かった。
京は驚いたようにあたしを見上げていた。この光景には何か覚えがある。そうだ思いだした。あれは小学校の頃に公園の近くを通っていた時だ。
カキーーーーーーーン!
大きな打球音がして良い当たりだなと思っていたら、その球が前を歩いていた地味めな女子の方に向かって飛んでいた。
あたしはとっさに前に走って彼女を押し倒し、地面に落ちて転がったボールを持ってすぐに野球少年達の方に怒鳴りこみに行って一緒に野球した。
そう言えばテストの結果を見ていた時もあの地味な女の子いたなと思いだしていたら、その姿が今の京と重なった。
あたしはつい思った事を口にしてしまう。
「京ちゃんって小学の頃はもっと地味な子じゃなかった?」
「綾辻さん、覚えていてくれたんだ!」
京は嬉しさに涙をうるませる。一番にしか興味がなく他人を道端に転がっているドングリぐらいにしか見ていなかった小学時代のあたしだったけど、何も見ないで暮らしていたわけじゃない。
視界に入った物を思いだすぐらいは出来た。小学校なんてついこの前のことだもの。その視界の端に確かに京はいた。
「本当に小学校時代からの付き合いだったんだ」
「うん……綾辻さんがここを受けるって聞いていっぱい勉強したんだよ。新しい中学に行くのに少しお洒落もして」
「あたしがいつも一番だったけどね」
「フフ、綾辻さんって本当に凄い。どれだけ頑張っても届かないよ」
あたし達は思い出に浸りたい気分だったが、ドラゴンの声が許さなかった。
「与えた力を返してもらうぞ!」
「キャアアア!」
京の体が念動力によって持ち上げられ、力がドラゴンに戻されていく。
あたしはすぐに助けたかったが、京の力を失いかけた、だが意思の強い瞳に止められた。
「いいの、綾辻さん。わたしは綾辻さんに覚えていてもらっただけで嬉しいから。だから……もうこんな力いらないの……ここからは自分の力で頑張……」
全ての力を抜きとられ、京の体が落ちてくる。あたしは大切な友達の体を受け止めた。
ドラゴンは改めて人間達に向かって問いかける。
「我は人間が好きだ。大いなる力を与えては喜び浮かれ、敵を粉砕し、仲間を傷つけ、しまいには自分も破滅する。そんな愚かで矮小な人間がな。さあ、力が欲しい者は名乗りをあげよ。我がこの国の王にしてやるぞ!」
「だったらわたくしが……」
今頃になってゲートを開いてやってきたラキュアに構う余裕はあたしには無い。雰囲気に呑まれて黙る彼女にあたしは静かに訊ねた。
「サイクロプスは?」
「魔王様がお戻りになるまでに城を直しておくと言ってましたわ」
「そう」
あたしにとってはどうでもいいことだ。人手は一人でも足りる。あたしは気を失った京の身を彼女に預けた。
「京をお願い。暇そうなのあんたしかいないから」
「なんでわたくしが!?」
「頼むから!」
「……分かりましたわ。必ず引き取りに来るんですのよ」
「うん! あんたも大切に」
京を抱いて下がるラキュア。あたしはすぐにドラゴンに向かって駆けた。
友達を傷つけた。大切な友達を。あたしはそいつを許さない。
「ドラゴンメギウス!!」
ジャンプして聖剣を振り降ろす。ドラゴンは軽く頭で受け止めた。
「人の力で我に勝てると思うか? このちっぽけな人間が振るう力如きで!」
「聖剣よ、ここに力を!!」
「破邪! 爆雷札!」
「ウオーターストリーム!」
「うおっ、おおおお!」
あたしの攻撃に天馬と美月の技が加わって、巨体を押す力となる。
爆発してドラゴンを地に叩き伏せた。
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