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第14話 迫る魔の手

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 警報が鳴って正也はすぐに昼食を置いて校庭へと飛び出した。校門の向こうからモンスター達がやってくる。いつものスライムやゴブリンに加え、オークがいるのが見えた。
 そこそこ手強いが手に負えないほど強いモンスターはいないようだ。
 校門は開けてある。わざと入りやすい場所を用意する事で敵をスキルマスターのいる位置に誘導する作戦だ。その方が正也にとっては戦いやすい。
 敵は学校に真っすぐ向かってくる。周囲の町には見向きもせずに。

(敵はなぜ学校を狙ってくるのか)

 以前から感じる疑問だがモンスター達が喋ってくれるわけでもない。今は戦いに集中だ。
 正也が攻撃のタイミングを計っていると、隣に魔法使いの帽子とマントを身に付けたセツナが降りてきた。

「お待たせしました、正也さん」
「あんたも戦ってくれるのか。スキルは何が使えるんだ?」
「しいていえば魔法です」
「魔法か」

 また不思議な名前のスキルである。この辺りには属性を使えるマスターが多いが、遠くの地域にはそういった物もあるのだろう。
 正也はこの機会に気になっていた事をこの遠くの町から来たというスキルマスターに訊く事にした。

「なあ? 何でモンスターは学校を狙ってくるんだと思う?」
「おそらくですが、この学校を城だと思っているのかもしれません」
「この学校が城だって!?」

 まさか答えてくれるとは思わなくて。また、その答えが意外で正也は驚いてしまった。
 セツナは近づいてくるモンスターを見ながら自分の考えを話してくれた。

「侵入を阻む強固な塀があって、門があって、庭があって、奥には大きな建物がある。ここの構造は王都の城に似ています。モンスター達は封印される直前まで城を攻めていましたから、おそらくその時の命令がまだ生きているのだと思います」
「そうなのか」

 セツナは正也の知らない事まで知っているようだ。そして、その考えはおそらく正しいのだろう。
 同じスキルマスター同士もっと話し合うべきなのだろうが、今はモンスターを倒すのが先決だ。

「頼りにしてるぜ、セツナ」
「任せてください。今は私もここの生徒ですから」

 先頭のモンスターが校門を越えた。セツナは素早く飛び出して攻撃に打ってでる。

「逃がしたモンスターとこのような形で相対するとは。ここは片付けさせてもらいます」

 杖を回してセツナの魔法が発動する。

「風の力よ、刃となって敵を刻め。ウインドカッター!」

 杖から放たれたのは風の刃。それが途中で分裂してモンスター達に降り注ぐ。

『グガアアッ!?』

 次々に命中して敵の足を止める。さすがに体力の高いオークは仕留めきれないが、スライムやゴブリンはどんどん消滅していく。

「やるな、セツナ。これは俺もうかうかしていられないな」

 正也も得意の炎のスキルを発動する。

「燃えろ! フレイムボム!!」

 火炎の爆弾でオークを吹き飛ばす。体力の高い敵もこれで一掃だ。

「よし、このまま一気にいくぞ」
「はい」

 二人は次々と襲い掛かるモンスターを倒していく。今度の戦いは順調に終わりそうだった。



 私と菜々ちゃんは屋上からその戦いを見ていた。さすがにスキルマスターが二人もいると安定感が違う。モンスター達が次々と倒されていく。
 順調な戦いぶりに日頃は逃げ腰な菜々ちゃんも無邪気に喜んでいた。

「すごいね。これなら全部やっつけちゃうんじゃないかな? そうだ、スマホで録画しておかないと」
「菜々ちゃんはマメだねえ」
「今ならきっとドラゴンも倒せると思うよ。それぐらい勢いがあるもん」
「それはどうだろう」

 軽口を叩きながら私は何か嫌なものを感じていた。この感覚が何なのかよく分からないけど、油断はできない。そんな気がしていた。

「セツナちゃんが私に……何かをするというのだろうか」
『そうじゃ。あいつはお前の敵じゃ』
「!!」

 謎の声が聞こえた瞬間、私は苦しくなって膝を付いた。気づけば私は真っ暗な闇の中にいた。苦しさは続く。より苦しめようとしてくる。私の魔王の印を握り潰そうと力が強められていく。

『セツナから報告を受けて辿ってきたが、これが今の魔王なのか。随分と弱くなったものじゃな。このままお前を捻り潰すのは簡単じゃが、それではわしは満足せぬ』
「誰!?」
『賢者マム・レイハート』
「お前が……!」

 私は立ち上がろうともがくが、体は言う事を聞かなかった。

『無理をするでない。今のお前はわしの小指一つで砕ける弱者に過ぎぬのだから』

 私は振り回されて暗闇の地面に投げ捨てられた。同時に私を苦しめていた手が離れていく。そこでやっと息を吐くことができた。

『今のお前の始末は弟子に一任しておる。わしを楽しませてみよ。それこそわしは望んでおるのじゃ』

 闇が去っていく。気が付くと私は屋上で膝をついていた。菜々ちゃんが心配そうに声を掛けてくる。

「まやかちゃん、大丈夫?」
「うん、ちょっと気分が悪くなっただけ。もう平気だよ。録画は?」
「もう、それどころじゃないよ。まやかちゃんがいきなり苦しそうにするんだもん。本当に保健室に行かないで大丈夫?」
「大丈夫大丈夫、もうトイレにも行かなくて平気だって」

 私は立ち上がって強がってみせる。菜々ちゃんは心配そうだ。ミノタウロスの時に続いて心配させてしまったようだ。もう仮病は言い訳に使わないようにしよう。
 私は校庭を見下ろす。戦いは片付いたようで正也君とセツナちゃんが話し合っていた。
 本当にセツナちゃんが敵で、マムの弟子なのだろうか。彼女は友好的でとてもそんな風には見えなかった。
 私には他人の気持ちなんて分からない。
 それ以上考えるのを止めて屋上を後にすることにした。
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