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第二章 漆黒の悪霊王
第35話 父の話
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父が家に帰ってきた。
人が多いので台所ではなく、広間の方に移動する。
ここは父が人数の多い来客を迎える時によく使っている場所だ。
父は交流が広く町の人達からも頼りにされているので、団体の客を迎える機会もたまにあって、有栖もその手伝いを幼い頃からよくしていた物だった。
部屋の飾りつけや長いテーブルに並べられた料理を見て、人を迎えることには慣れているはずのさすがの父も驚いたように目を丸くした。
「今日は何かのパーティーなのかね」
「お父さんが帰ってくるからみんなが頑張ってくれたの」
「それはありがたいことだな。では、いただくとしよう」
権蔵が席に付いて、有栖と舞火と天子とエイミーと芽亜もそれぞれに席に付いた。
「どうぞです、ゴンゾー」
「うむ」
エイミーが気を効かせて一番に彼のコップにビールを注いでいた。
金髪の彼女が目を上げて、今度は舞火と天子にも訊く。
「先輩達はお茶でいいですか? それともオレンジジュース? やっぱりビールに行きますか?」
「ビールは駄目でしょ。わたし達まだ未成年よ。お茶でお願いできるかしら」
「あたしも」
常識的に答える舞火と天子。有栖は自分も動いた方がいいのではと思ったのだが。
腰を上げる前に芽亜が動いていた。
「有栖ちゃんの分のお茶はあたしが入れてあげるね」
「ありがとうございます。じゃあ、芽亜さんの分はわたしが」
「どういたしまして~」
クラスメイトとこんなことをやるのは何だか不思議な気分だった。
目を上げると、舞火と天子と目が合って、何だか不思議な空気が流れた。
「先輩、お注ぎします」
そんな二人のコップにエイミーがお茶を注いで、みんなで乾杯することにした。
『かんぱ~い』
乾杯を済ませて料理を食べ始める。一口食べるなり権蔵は驚いていた。
「この料理、上手いな。誰が作ったのかな」
「舞火が作ったのよ」
珍しく天子が舞火のことを褒めていた。
「お口に会えばいいのですが」
今度は珍しく舞火が恐縮していた。エイミーが変わらない明るい声で天子に向かって言う。
「天子先輩、こんな時にお兄ちゃんが言ってたいつもの名言は無いのですか?」
「そうね。ご飯は一人で食べるよりみんなで食べる方がおいしい、かしら。……って、あたしのお兄ちゃんは別に名言を言っているわけじゃないのよ。ただお兄ちゃんがそう言ってるから……」
「天子さんはお兄さんのことが好きなんです」
「好きじゃない! 誤解させるようなこと言わないで!」
天子の面白い冗談に有栖は笑い、みんなにも笑顔が広がっていった。
「兄弟の仲の良いのは結構なことだ」
「焼けるわね、ほんと」
権蔵も楽しそうに笑い、舞火はお茶を飲みながらしみじみと呟いていた。
「もう、早く食べちゃいましょ」
天子が箸を進めていく。今日は舞火もあんたのために作ったわけじゃないんだからねとは言わなかった。
料理はおいしくて一杯あったし、場には和やかな空気が満ちていた。みんなでおいしくいただいていった。
「そう言えば、ゴンゾーが海外へ行った理由って何なんですか?」
「あ、わたしも海外の話が聞きたいです」
エイミーが何気なく口火を切って、舞火が続いた。
天子も興味を示していた。
「あたしも海外って言ったことが無いのよね。お兄ちゃんは日本が一番だって言ってたけど」
「お婆ちゃんは海外に旅行に行くの楽しいって言ってたわよ。日本とは違った物があって面白いって」
芽亜のお婆ちゃんは天子のお兄さんとは違う意見のようだった。
みんなは楽しい旅行の話が聞けると期待していたようだが、権蔵の箸は重くなって、表情から笑みが消えた。
「お父さん……?」
父がこんな真剣な顔をするなんていつ以来だろうか。有栖にはよく思い出せなかった。
彼はやがて何かを決意したかのように言った。
「やはり話しておくか。どうせ木崎さんの口から伝わるだろうしな」
「えっ!? あたし?」
いきなり名指しで呼ばれて、芽亜はびっくりして食べ物を口に詰まらせそうになってしまった。
誰も芽亜のことは気にしていなかった。権蔵の真剣な表情を気にしていた。
彼はやがて重く唸るように言った。
「私が海外に行ったのは、漆黒の悪霊王と呼ばれる強大な悪霊を退治する依頼を受けてのことだったのだ」
「漆黒の悪霊王!?」
その名は聞いたことがなくても、みんなが悪霊王と呼ばれる者のレベルの強さは知っていた。
その力はまさしく天災に近く、神の力を借りることが出来なければとても倒せる者ではないだろう。
その力に権蔵はただ一人の霊能力者として挑んだというのだ。まさしく風車に挑むドンキホーテの如く。
ただ一人の人間がどうやって風車を打ち倒し、荒れ狂う台風までもを鎮めるというのだろう。改めて父の凄さを思い知る有栖だった。
だが、彼の顔は晴れなかった。その姿にさすがの陽気なエイミーも真剣な顔で訊ねた。
「それで、その悪霊王は倒せたのですか?」
みんなの気になる質問だった。
みんなが真剣な顔して返事を待った。権蔵は答えた。
その顔には悔しさが滲み出ていて、聞かなくても答えが予想できてしまった。
「後一歩までは追い詰めたのだ。父さんの他にも優秀な霊能力者達が世界中から集まっていたのだ。だが、奴の力は強大でとても太刀打ちできるものでは無かった。我々は最後の手段を使わざるを得なかった」
「最後の手段?」
「これだ」
そう言って父が出したのは黒い石のような物だった。有栖にはその小さな丸い石の中に、黒い霊力が渦巻いているのが見えた。
「これが漆黒の悪霊王の……?」
「お前には分かるか。さすが母さんの子だな。これは封印石だ。とても貴重な物で後世のことを考えればなるべく使うなと念を押されたものだ」
「ミーもラストエリクサーは最後まで取っておく派です」
エイミーの言葉はどうでも良かった。彼女自身もどうでもいいのか小声だった。
ただ権蔵は嬉しそうに返事をしていた。
「ありがとう、エイミーさん。場を和ませようとしてくれたのだな」
「いえ、そんなことは。どうぞ、話の続きを」
「うむ」
エイミーが珍しく赤くなってうろたえていた。
有栖が気にし、みんなが話の続きを期待する中、権蔵は話を続けた。
「この石の中には漆黒の悪霊王の霊力を封印してある。準備には時間が掛かったが、奴が空に静止してくれていたお陰で上手くいった。全部で六つあり、父さんが一つを持たされることになった」
「父さんは信頼されているんですね」
「どうかな。頼りになるのは母さんの方だと思うが。ともかく」
権蔵はみんなの目を見て、話を戻した。ここにいるのはみんな信頼できる巫女達だ。権蔵も安心して話をした。
「我々は六つの封印石を使って奴の霊力を封じることに成功した。だが、後一歩というところで奴は姿を消してしまったのだ。突然昼に戻った景色を見て我々は慌てたよ」
「どこにいったんでしょうか?」
「分からん。霊力を封じたことが却って裏目に出てしまった。今の奴を霊力で探るのは無理だ。だが、奴は巨大なコウモリの姿をしていてその存在も目立つものだ。今の霊力を封じた奴のレベルなら、見つけられれば討伐をすることは出来るだろう。だが、問題なのは」
「この封印石を奪われて、力を取り戻された場合ですね」
舞火はよく話を理解していた。天子も黙って頷いた。父は答えた。
「そうだ。奴はおそらく封印を行った者達の顔と霊力を覚えているだろう。来るとしたら父さんのところにもそう遠くないうちに現れるはずだ。だからこれはお前に持っていて欲しい」
「え……!?」
有栖は父から封印石を渡されてびっくりしてしまった。
「いいの? こんなに大切な物……」
「お前が持っていた方が安全なのだ。何せあの場所にはお前はいなかったのだからな。漆黒の悪霊王はお前のことは知らない。知らない者の場所に現れる可能性は低いだろう。この神社には神様もいるしな」
「分かりました。大事に預かっておきます」
有栖は神妙に受け取った。
心強い仲間達が声を掛けてくる。
「大丈夫ですよ、ミー達がついています」
「もし現れたら帰り討ちにしてやりましょう」
「今のあいつは霊力を持っていないのよね?」
「そうだ。だからこそ不意を打って奪われることが最も危険なのだ」
「肌身離さず持っておくことにします」
有栖は封印石を袋に入れて懐に仕舞った。
そんな娘の姿を父は微笑ましく見ていた。
「そこまで警戒する必要はないと思うが。奴が日本に来たという情報も今のところは無いしな」
料理を食べ終わって権蔵は改めてみんなを見て言った。
「漆黒の悪霊王の名はジーネスという。大きなコウモリの姿をした奴だから、見ればすぐに分かると思う。もしそんな奴を見かけたら」
「退治すればいいんですね?」
舞火はやる気だ。権蔵は頷いた。
「そうだな。連絡を待って逃げられても困る。今の力を失った奴ならそれも可能だろうが、くれぐれも用心はしてくれ」
「分かりました」
「ゴキブリのように叩き潰してやりますよ」
「ジーネスに注意を呼びかけるポスターも作っておきますね」
芽亜が快く提案する。権蔵は頷いた。
「うむ、木崎の娘さんも手伝ってくれるなら安心だな。さっそくで悪いのだが、私はまた明日の朝に発たなければならない」
「え……!?」
思わぬ言葉に有栖は絶句してしまった。
しばらくいてくれると思っていたのに、びっくりしてしまった。そんな娘を権蔵は優しく見守った。
「事が事だからな。対策を立てねばならんし、本部に今回の事を報告しに行かないといけないのだ。大丈夫、報告が終わればすぐに戻ってくる」
「フラグじゃありませんよね?」
「フラグじゃありません」
エイミーの冗談にも権蔵は優しく答えていた。改めて娘に向かって言う。
「有栖、しばらく神社の方を任せることになるがいいか?」
「はい、任せてください」
「わたし達もついていますから」
「大船に乗った気で行ってきてください」
有栖が答え、舞火と天子も後押しをしてくれた。
「神社のことはミー達に任せてください」
「微力ながらあたしも有栖ちゃんの力になります」
エイミーもいてくれるし、巫女としては経験者の芽亜も手伝ってくれる。権蔵は嬉しそうに頷いた。
「なら安心して任せられるな。もうすぐ外国からの荷物が届くはずだ。まずはそれを受け取って倉庫に仕舞っておいてくれ。父さんの物じゃない物もあるんだが、管理を任されてしまってな。しばらく預かることになったのだ。これがそのリストだ」
「はい」
有栖はその書類を受け取った。リストにはよく分からない名前も並んでいたが、郵便物には品名が書いてあるので見れば分かるだろう。
「受け取ったら無い物が無いか、壊れている物が無いかチェックしておいてくれ」
「分かりました」
有栖としては慣れた仕事だ。自信を持って答えることが出来た。
権蔵は改まってみんなに向かって言った。
「今日はどうもありがとう。遅くならないうちに帰りなさい」
「はい」
「お世話になりました……って、何か変?」
「有栖ちゃん、また学校でね」
そして、今日のパーティーはお開きとなり、有栖は権蔵やエイミーと一緒に帰っていく仲間達を見送った。
「良い仲間を持ったな。有栖」
「うん」
「ゴンゾー、今日はミーがお背中をお流ししますね」
「それは照れるなあ」
そんなこんなで夜は更けて、再び朝となり。
父はまた以前と同じように家を出ていった。
有栖は笑顔で見送った。
今回は不安は無かった。隣にはエイミーがいてくれるし、頼りになる仲間達もいたから。
人が多いので台所ではなく、広間の方に移動する。
ここは父が人数の多い来客を迎える時によく使っている場所だ。
父は交流が広く町の人達からも頼りにされているので、団体の客を迎える機会もたまにあって、有栖もその手伝いを幼い頃からよくしていた物だった。
部屋の飾りつけや長いテーブルに並べられた料理を見て、人を迎えることには慣れているはずのさすがの父も驚いたように目を丸くした。
「今日は何かのパーティーなのかね」
「お父さんが帰ってくるからみんなが頑張ってくれたの」
「それはありがたいことだな。では、いただくとしよう」
権蔵が席に付いて、有栖と舞火と天子とエイミーと芽亜もそれぞれに席に付いた。
「どうぞです、ゴンゾー」
「うむ」
エイミーが気を効かせて一番に彼のコップにビールを注いでいた。
金髪の彼女が目を上げて、今度は舞火と天子にも訊く。
「先輩達はお茶でいいですか? それともオレンジジュース? やっぱりビールに行きますか?」
「ビールは駄目でしょ。わたし達まだ未成年よ。お茶でお願いできるかしら」
「あたしも」
常識的に答える舞火と天子。有栖は自分も動いた方がいいのではと思ったのだが。
腰を上げる前に芽亜が動いていた。
「有栖ちゃんの分のお茶はあたしが入れてあげるね」
「ありがとうございます。じゃあ、芽亜さんの分はわたしが」
「どういたしまして~」
クラスメイトとこんなことをやるのは何だか不思議な気分だった。
目を上げると、舞火と天子と目が合って、何だか不思議な空気が流れた。
「先輩、お注ぎします」
そんな二人のコップにエイミーがお茶を注いで、みんなで乾杯することにした。
『かんぱ~い』
乾杯を済ませて料理を食べ始める。一口食べるなり権蔵は驚いていた。
「この料理、上手いな。誰が作ったのかな」
「舞火が作ったのよ」
珍しく天子が舞火のことを褒めていた。
「お口に会えばいいのですが」
今度は珍しく舞火が恐縮していた。エイミーが変わらない明るい声で天子に向かって言う。
「天子先輩、こんな時にお兄ちゃんが言ってたいつもの名言は無いのですか?」
「そうね。ご飯は一人で食べるよりみんなで食べる方がおいしい、かしら。……って、あたしのお兄ちゃんは別に名言を言っているわけじゃないのよ。ただお兄ちゃんがそう言ってるから……」
「天子さんはお兄さんのことが好きなんです」
「好きじゃない! 誤解させるようなこと言わないで!」
天子の面白い冗談に有栖は笑い、みんなにも笑顔が広がっていった。
「兄弟の仲の良いのは結構なことだ」
「焼けるわね、ほんと」
権蔵も楽しそうに笑い、舞火はお茶を飲みながらしみじみと呟いていた。
「もう、早く食べちゃいましょ」
天子が箸を進めていく。今日は舞火もあんたのために作ったわけじゃないんだからねとは言わなかった。
料理はおいしくて一杯あったし、場には和やかな空気が満ちていた。みんなでおいしくいただいていった。
「そう言えば、ゴンゾーが海外へ行った理由って何なんですか?」
「あ、わたしも海外の話が聞きたいです」
エイミーが何気なく口火を切って、舞火が続いた。
天子も興味を示していた。
「あたしも海外って言ったことが無いのよね。お兄ちゃんは日本が一番だって言ってたけど」
「お婆ちゃんは海外に旅行に行くの楽しいって言ってたわよ。日本とは違った物があって面白いって」
芽亜のお婆ちゃんは天子のお兄さんとは違う意見のようだった。
みんなは楽しい旅行の話が聞けると期待していたようだが、権蔵の箸は重くなって、表情から笑みが消えた。
「お父さん……?」
父がこんな真剣な顔をするなんていつ以来だろうか。有栖にはよく思い出せなかった。
彼はやがて何かを決意したかのように言った。
「やはり話しておくか。どうせ木崎さんの口から伝わるだろうしな」
「えっ!? あたし?」
いきなり名指しで呼ばれて、芽亜はびっくりして食べ物を口に詰まらせそうになってしまった。
誰も芽亜のことは気にしていなかった。権蔵の真剣な表情を気にしていた。
彼はやがて重く唸るように言った。
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その名は聞いたことがなくても、みんなが悪霊王と呼ばれる者のレベルの強さは知っていた。
その力はまさしく天災に近く、神の力を借りることが出来なければとても倒せる者ではないだろう。
その力に権蔵はただ一人の霊能力者として挑んだというのだ。まさしく風車に挑むドンキホーテの如く。
ただ一人の人間がどうやって風車を打ち倒し、荒れ狂う台風までもを鎮めるというのだろう。改めて父の凄さを思い知る有栖だった。
だが、彼の顔は晴れなかった。その姿にさすがの陽気なエイミーも真剣な顔で訊ねた。
「それで、その悪霊王は倒せたのですか?」
みんなの気になる質問だった。
みんなが真剣な顔して返事を待った。権蔵は答えた。
その顔には悔しさが滲み出ていて、聞かなくても答えが予想できてしまった。
「後一歩までは追い詰めたのだ。父さんの他にも優秀な霊能力者達が世界中から集まっていたのだ。だが、奴の力は強大でとても太刀打ちできるものでは無かった。我々は最後の手段を使わざるを得なかった」
「最後の手段?」
「これだ」
そう言って父が出したのは黒い石のような物だった。有栖にはその小さな丸い石の中に、黒い霊力が渦巻いているのが見えた。
「これが漆黒の悪霊王の……?」
「お前には分かるか。さすが母さんの子だな。これは封印石だ。とても貴重な物で後世のことを考えればなるべく使うなと念を押されたものだ」
「ミーもラストエリクサーは最後まで取っておく派です」
エイミーの言葉はどうでも良かった。彼女自身もどうでもいいのか小声だった。
ただ権蔵は嬉しそうに返事をしていた。
「ありがとう、エイミーさん。場を和ませようとしてくれたのだな」
「いえ、そんなことは。どうぞ、話の続きを」
「うむ」
エイミーが珍しく赤くなってうろたえていた。
有栖が気にし、みんなが話の続きを期待する中、権蔵は話を続けた。
「この石の中には漆黒の悪霊王の霊力を封印してある。準備には時間が掛かったが、奴が空に静止してくれていたお陰で上手くいった。全部で六つあり、父さんが一つを持たされることになった」
「父さんは信頼されているんですね」
「どうかな。頼りになるのは母さんの方だと思うが。ともかく」
権蔵はみんなの目を見て、話を戻した。ここにいるのはみんな信頼できる巫女達だ。権蔵も安心して話をした。
「我々は六つの封印石を使って奴の霊力を封じることに成功した。だが、後一歩というところで奴は姿を消してしまったのだ。突然昼に戻った景色を見て我々は慌てたよ」
「どこにいったんでしょうか?」
「分からん。霊力を封じたことが却って裏目に出てしまった。今の奴を霊力で探るのは無理だ。だが、奴は巨大なコウモリの姿をしていてその存在も目立つものだ。今の霊力を封じた奴のレベルなら、見つけられれば討伐をすることは出来るだろう。だが、問題なのは」
「この封印石を奪われて、力を取り戻された場合ですね」
舞火はよく話を理解していた。天子も黙って頷いた。父は答えた。
「そうだ。奴はおそらく封印を行った者達の顔と霊力を覚えているだろう。来るとしたら父さんのところにもそう遠くないうちに現れるはずだ。だからこれはお前に持っていて欲しい」
「え……!?」
有栖は父から封印石を渡されてびっくりしてしまった。
「いいの? こんなに大切な物……」
「お前が持っていた方が安全なのだ。何せあの場所にはお前はいなかったのだからな。漆黒の悪霊王はお前のことは知らない。知らない者の場所に現れる可能性は低いだろう。この神社には神様もいるしな」
「分かりました。大事に預かっておきます」
有栖は神妙に受け取った。
心強い仲間達が声を掛けてくる。
「大丈夫ですよ、ミー達がついています」
「もし現れたら帰り討ちにしてやりましょう」
「今のあいつは霊力を持っていないのよね?」
「そうだ。だからこそ不意を打って奪われることが最も危険なのだ」
「肌身離さず持っておくことにします」
有栖は封印石を袋に入れて懐に仕舞った。
そんな娘の姿を父は微笑ましく見ていた。
「そこまで警戒する必要はないと思うが。奴が日本に来たという情報も今のところは無いしな」
料理を食べ終わって権蔵は改めてみんなを見て言った。
「漆黒の悪霊王の名はジーネスという。大きなコウモリの姿をした奴だから、見ればすぐに分かると思う。もしそんな奴を見かけたら」
「退治すればいいんですね?」
舞火はやる気だ。権蔵は頷いた。
「そうだな。連絡を待って逃げられても困る。今の力を失った奴ならそれも可能だろうが、くれぐれも用心はしてくれ」
「分かりました」
「ゴキブリのように叩き潰してやりますよ」
「ジーネスに注意を呼びかけるポスターも作っておきますね」
芽亜が快く提案する。権蔵は頷いた。
「うむ、木崎の娘さんも手伝ってくれるなら安心だな。さっそくで悪いのだが、私はまた明日の朝に発たなければならない」
「え……!?」
思わぬ言葉に有栖は絶句してしまった。
しばらくいてくれると思っていたのに、びっくりしてしまった。そんな娘を権蔵は優しく見守った。
「事が事だからな。対策を立てねばならんし、本部に今回の事を報告しに行かないといけないのだ。大丈夫、報告が終わればすぐに戻ってくる」
「フラグじゃありませんよね?」
「フラグじゃありません」
エイミーの冗談にも権蔵は優しく答えていた。改めて娘に向かって言う。
「有栖、しばらく神社の方を任せることになるがいいか?」
「はい、任せてください」
「わたし達もついていますから」
「大船に乗った気で行ってきてください」
有栖が答え、舞火と天子も後押しをしてくれた。
「神社のことはミー達に任せてください」
「微力ながらあたしも有栖ちゃんの力になります」
エイミーもいてくれるし、巫女としては経験者の芽亜も手伝ってくれる。権蔵は嬉しそうに頷いた。
「なら安心して任せられるな。もうすぐ外国からの荷物が届くはずだ。まずはそれを受け取って倉庫に仕舞っておいてくれ。父さんの物じゃない物もあるんだが、管理を任されてしまってな。しばらく預かることになったのだ。これがそのリストだ」
「はい」
有栖はその書類を受け取った。リストにはよく分からない名前も並んでいたが、郵便物には品名が書いてあるので見れば分かるだろう。
「受け取ったら無い物が無いか、壊れている物が無いかチェックしておいてくれ」
「分かりました」
有栖としては慣れた仕事だ。自信を持って答えることが出来た。
権蔵は改まってみんなに向かって言った。
「今日はどうもありがとう。遅くならないうちに帰りなさい」
「はい」
「お世話になりました……って、何か変?」
「有栖ちゃん、また学校でね」
そして、今日のパーティーはお開きとなり、有栖は権蔵やエイミーと一緒に帰っていく仲間達を見送った。
「良い仲間を持ったな。有栖」
「うん」
「ゴンゾー、今日はミーがお背中をお流ししますね」
「それは照れるなあ」
そんなこんなで夜は更けて、再び朝となり。
父はまた以前と同じように家を出ていった。
有栖は笑顔で見送った。
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