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第一章 巫女てんてこまい
第24話 悪霊王と神の化身
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戦いは終わった。エイミーがさっそくきらめく憧れの瞳をして賞賛の声を上げた。
「さすが先輩達。ミーの出番がほとんど無かったです!」
「あんたもよくやってくれたわ」
「あとはどうする?」
巫女さんキラーは倒したが、遊園地にはまだまだ多くの下級霊達がいる。全部倒すのは骨が折れそうだった。
「この遊園地には結界が張ってありましたし、それの点検をして、仕事はまた明日にすることにしましょう」
みんな疲れているし、今日はもう遅い。有栖はそう決断した。
舞火は塔の方を振り返る。
「さて、それじゃあ、敵の顔を拝ませてもらって、後は警察に突き出して帰ろうかしら」
「そうですね」
4人は崩れた塔に近づいていく。
巫女さんキラーは起き上がろうとしながらも、ダメージが大きくて動けないようだった。
倒れた彼女をみんなで見下ろす。
「いろいろ聞かせてもらうわよ。その前に」
「まずその顔を見せてもらおうかしら」
「くっ」
拒絶するように顔をそむけようとする彼女の顔から、天子が仮面を取った。
その顔を見て有栖は驚いた。
それは有栖の知っている顔だった。
「芽亜さん」
だが、表情が違っていた。
教室ではいつも元気で明るく誰とでも友達になれるような優しい少女が、今は憎しみと屈辱でその顔を歪めていた。
芽亜は憎しみのこもった視線で有栖を睨みつけてきた。
「呑気な神社の巫女。あなたの雇った人達がこんなに強いなんて、まったく誤算だったわ」
「どうして、芽亜さんがこんなことを……」
「どうして? 自分のやっていることを思い出してごらんなさいよ!」
そうは言われても有栖にはさっぱり分からない。
芽亜は舌打ちして話し始めた。
「あたしには仲の良い友人達がいたの。みんな良い人……良い霊達だったわ。あたしは幸せだった。なのにうちにいきなり巫女が来て、みんなを退散させてしまったのよ! 巫女なんてみんな滅びればいい。この世は霊の楽園になればいいのよ!」
有栖には芽亜の憎しみが理解できた。自分だって今の大切な仲間達を失ってしまったらどうなるか分からない。
誰とでも友達となれるような芽亜だから、悪霊のことも友達と錯覚してしまったのだろう。
でも、悪霊は人間じゃない。芽亜は優しい性格だから気づかなかったのかもしれないが、それは人間に害を与える存在だ。
現に、今の芽亜は苦しんでいる。彼女本来の正気を失っている。
有栖は遠く遊園地で遊んでいる霊を見やった。
「確かにあの霊達は楽しんでいるのかもしれません。一緒にいても楽しいかもしれません。でも、彼らは悪霊です。町に解き放たれれば大変なことになります」
有栖は友達の目を見つめて言った。
「わたし達はこの町の巫女です。巫女として、あの悪霊達を退散させなければいけません」
その言葉を聞いて、芽亜の瞳に拒絶の光が宿った。
「まだ、そんなことを! 有栖ちゃんならあたしの気持ちを分かってくれると信じていたのに!」
「分かってないのはあなたよ!」
「っ!」
舞火にどなられて、顔の横に箒を突き立てられて、芽亜は身をすくませた。
「あなたの友達は誰なの? あなたを心配しているのは? よく考えてみなさい」
「それは……」
芽亜は瞳を震わせた。迷う瞳が宙をさまよう。
天子はため息をついて言った。
「お兄ちゃんが言っていたわ。友達はよく選びなさいってね」
「あたしは……キャア!」
その時、地面が震えた。何か地の底から言いようのない巨大な存在が迫ってくるのを感じた。
焦りを胸に、舞火は芽亜に詰問した。
「祭りは終わっていなかったの?」
「もう、あたしがいなくても……儀式は進んでいる……」
天子は周囲を警戒する。
「この感じ、やばいわね」
どこがやばいかと聞かれると、この場所全部と答えられる。そんなやばさがこの地にあった。
エイミーも予感を感じていた。
「何が始まるですか?」
「現れるのよ。この地を総べる悪霊の王」
芽亜が言いかけた時だった。
地面が爆発した。その音の方向をみんなが見る。
瓦礫が吹き上がり、地鳴りを上げて大地が避け、大きな影が姿を現した。
それが離れた場所だったのは幸いだった。
近くだったら、何の対処も出来ず、大変なことになっていただろう。
その存在は悪霊達で活気付く遊園地の中央に現れた。この辺りの霊をあらかた掃除しておいたことで、その被害の座標を免れることが出来たようだ。
起き上がる巨体が周囲の遊具を押し倒し、そこで遊んでいた下級の霊を追い出した。
不気味な白い牙がぎらりと光り、その存在は咆哮を上げた。
「グヲアアアアアア!!」
咆哮が遊園地全体を揺るがし、周囲の全ての者達に王の目覚めを伝達させた。
有栖達は見た。遠くに立ち上がった巨大な王の姿を。
「ハムスター?」
それは巨大なハムスターの姿をしていた。この地で人々に願われた思いが悪霊王にその姿を取らせたのかもしれない。だが、霊の中でも上級、さらにその中でも王クラスと言われるだけあって、その威容は周囲の者達を震わせるのに十分なものだった。
「悪霊王ヴァムズダーが……め、目覚めた……」
芽亜は自分で呼び出したはずなのに、その存在に怯えていた。
それほどまでに王は下級霊などとは格が違っていたのだ。
「あたし、なんであんなのを……」
芽亜は身を縮こまらせて震えてしまう。その声にはただ後悔だけがあった。
舞火や天子もさすがに驚きを隠せなかった。
エイミーも瞳を見開いて見つめている。
「大変なのが出てきたわね」
「あれとどう戦えって言うのよ」
「大きいです」
三人はそれぞれに感想を漏らす。
芽亜はもう震えて声を出すことも出来なかった。
ぎゅっと目を瞑るその彼女の頭に優しい手が置かれた。芽亜は見上げる。優しい友達の手だった。
「有栖ちゃん……」
「大丈夫。あれはわたしが祓います」
有栖はみんなの前に歩み出た。悪霊王はこちらに気づいていないようだ。向かってはこない。今は自分の現れた周囲の状況を確認しているようだ。
だが、動き出すのは時間の問題だ。
「有栖ちゃん、どうするの?」
問いかける舞火に有栖は決意を込めて答えた。
「神様を召喚します!」
迷うことはなかった。時は来た。
有栖は懐から一枚の札を取り出し、念じる。
両親の思い、そしてより大きな存在の力を感じる。
「遥か高き月より来たれり彼の者は」
祝詞を唱え出す有栖の体から光が立ち上る。
悪霊王ヴァムズダーはその光を見上げた。暗い空に昇っていく光。
それは月まで届くかのようだ。
「地上に出でて我ら守護して奉る」
近く、有栖の姿を見つけた有象無象の悪霊達が有栖を狙って襲ってきた。
それを舞火と天子が箒で叩き落とす。
「つまり、わたし達がやるのはその間のザコ退治ってことね」
「ザコ退治ならもう慣れたものよ!」
「ミーもやるです!」
戦いが繰り広げられる。
巫女達の賢明に戦う姿を見て、芽亜は自分の過ちに気が付いた。
「そうか、巫女さん達は……みんなのために戦っているんだ……」
有栖の放つ美しい声と光に涙を流し、ずっと自分を縛っていた物から解放された芽亜は静かに瞳を閉じ、気を失った。
地上で戦いが繰り広げられる。
悪霊達は次々と向かっていき、次々と巫女達の手によって退散させられていった。
こまいぬ太も悪霊に飛びつくが、ひらりと避けられてしまう。ぴょんぴょんと飛び跳ねているその姿は遊んでいるだけのように見えるが牽制の役には立っているようだ。
光の昇る空を見上げていた悪霊王ヴァムズダーも地上の様子に気が付いた。
その見られるだけで相手を畏怖させる瞳が、有栖の姿を捉えた。
その足が踏み出される、その前に……
有栖の儀式は完成した。最後の祝詞を読み上げる。
「この地に顕現し、おいでませ! 我が神社の守り神。宇佐ノ命よ!」
光が爆発し、巨大な何かが現れる。それは純白で神々しい兎の姿をしていた。これこそ伏木乃神社の守り神、宇佐ノ命だ。
有栖はその兎の頭上に立っていた。夜風に髪をなびかせ、巨大と思っていた悪霊王を見下ろす。悪霊王は巨大だが、宇佐ノ命の方が大きい。それに、
「グオオオオオオ!!」
悪霊王が地響きを立て咆哮を上げて向かってくる。その突進を
「ぐひゃあああん!!」
宇佐ノ命はただのグーパンチで殴り返した。悪霊王は悲鳴を上げて遊具を巻き込みながら地面を転がっていった。
「「「強い!!」」」
みんなが歓声を上げる中、有栖はさらに霊力を高めていく。神が力を貸してくれている。それに合わせ、それに乗る。
そこにあるのは神と巫女の儀式。
宇佐ノ命の前面に強い純白の霊力の渦が巻き起こっていく。
悪霊王が起き上がり、牙を剥き、爪を伸ばす。
有栖の準備は出来ていた。
「行け!」
「やれ!」
「ねじふせろです!」
「ワンワン!」
「ハッ!!」
みんなの声援を受け、有栖は溜めたエネルギーを一気に放出した。宇佐ノ命から純白の霊力光線が発射される。
まばゆく神々しいその光は、周囲の悪霊達を消し去っていき、悪霊王の姿をもその中に呑み込んでいく。
悪霊王はもがくが、無駄なあがきだ。光の中にその姿は消えていく。
悪霊王ヴァムズターは確かに強い。その実力は霊の中でも上級で、さらにその中でも王クラスと呼ばれるほどだ。
だが、いかに王とはいえ、神に比べればその存在は塵に等しいものだ。
神の力の前では、王はただ震え、怯え、滅せられるしかない。
「悪霊退散!!」
有栖の掛け声とともに霊力の光は爆発し、遊園地の全てを白く包み込んでいく。
それが収まった頃、辺りは静まりかえり、悪霊達の姿は消えていた。
宇佐ノ命の姿も消えていき、有栖は地に降り立った。
「終わりました」
振り返り、戦いの終了を告げる有栖に、みんなが駆け寄って祝福した。
結界が解かれ、長い夜が明けていく。
「さすが先輩達。ミーの出番がほとんど無かったです!」
「あんたもよくやってくれたわ」
「あとはどうする?」
巫女さんキラーは倒したが、遊園地にはまだまだ多くの下級霊達がいる。全部倒すのは骨が折れそうだった。
「この遊園地には結界が張ってありましたし、それの点検をして、仕事はまた明日にすることにしましょう」
みんな疲れているし、今日はもう遅い。有栖はそう決断した。
舞火は塔の方を振り返る。
「さて、それじゃあ、敵の顔を拝ませてもらって、後は警察に突き出して帰ろうかしら」
「そうですね」
4人は崩れた塔に近づいていく。
巫女さんキラーは起き上がろうとしながらも、ダメージが大きくて動けないようだった。
倒れた彼女をみんなで見下ろす。
「いろいろ聞かせてもらうわよ。その前に」
「まずその顔を見せてもらおうかしら」
「くっ」
拒絶するように顔をそむけようとする彼女の顔から、天子が仮面を取った。
その顔を見て有栖は驚いた。
それは有栖の知っている顔だった。
「芽亜さん」
だが、表情が違っていた。
教室ではいつも元気で明るく誰とでも友達になれるような優しい少女が、今は憎しみと屈辱でその顔を歪めていた。
芽亜は憎しみのこもった視線で有栖を睨みつけてきた。
「呑気な神社の巫女。あなたの雇った人達がこんなに強いなんて、まったく誤算だったわ」
「どうして、芽亜さんがこんなことを……」
「どうして? 自分のやっていることを思い出してごらんなさいよ!」
そうは言われても有栖にはさっぱり分からない。
芽亜は舌打ちして話し始めた。
「あたしには仲の良い友人達がいたの。みんな良い人……良い霊達だったわ。あたしは幸せだった。なのにうちにいきなり巫女が来て、みんなを退散させてしまったのよ! 巫女なんてみんな滅びればいい。この世は霊の楽園になればいいのよ!」
有栖には芽亜の憎しみが理解できた。自分だって今の大切な仲間達を失ってしまったらどうなるか分からない。
誰とでも友達となれるような芽亜だから、悪霊のことも友達と錯覚してしまったのだろう。
でも、悪霊は人間じゃない。芽亜は優しい性格だから気づかなかったのかもしれないが、それは人間に害を与える存在だ。
現に、今の芽亜は苦しんでいる。彼女本来の正気を失っている。
有栖は遠く遊園地で遊んでいる霊を見やった。
「確かにあの霊達は楽しんでいるのかもしれません。一緒にいても楽しいかもしれません。でも、彼らは悪霊です。町に解き放たれれば大変なことになります」
有栖は友達の目を見つめて言った。
「わたし達はこの町の巫女です。巫女として、あの悪霊達を退散させなければいけません」
その言葉を聞いて、芽亜の瞳に拒絶の光が宿った。
「まだ、そんなことを! 有栖ちゃんならあたしの気持ちを分かってくれると信じていたのに!」
「分かってないのはあなたよ!」
「っ!」
舞火にどなられて、顔の横に箒を突き立てられて、芽亜は身をすくませた。
「あなたの友達は誰なの? あなたを心配しているのは? よく考えてみなさい」
「それは……」
芽亜は瞳を震わせた。迷う瞳が宙をさまよう。
天子はため息をついて言った。
「お兄ちゃんが言っていたわ。友達はよく選びなさいってね」
「あたしは……キャア!」
その時、地面が震えた。何か地の底から言いようのない巨大な存在が迫ってくるのを感じた。
焦りを胸に、舞火は芽亜に詰問した。
「祭りは終わっていなかったの?」
「もう、あたしがいなくても……儀式は進んでいる……」
天子は周囲を警戒する。
「この感じ、やばいわね」
どこがやばいかと聞かれると、この場所全部と答えられる。そんなやばさがこの地にあった。
エイミーも予感を感じていた。
「何が始まるですか?」
「現れるのよ。この地を総べる悪霊の王」
芽亜が言いかけた時だった。
地面が爆発した。その音の方向をみんなが見る。
瓦礫が吹き上がり、地鳴りを上げて大地が避け、大きな影が姿を現した。
それが離れた場所だったのは幸いだった。
近くだったら、何の対処も出来ず、大変なことになっていただろう。
その存在は悪霊達で活気付く遊園地の中央に現れた。この辺りの霊をあらかた掃除しておいたことで、その被害の座標を免れることが出来たようだ。
起き上がる巨体が周囲の遊具を押し倒し、そこで遊んでいた下級の霊を追い出した。
不気味な白い牙がぎらりと光り、その存在は咆哮を上げた。
「グヲアアアアアア!!」
咆哮が遊園地全体を揺るがし、周囲の全ての者達に王の目覚めを伝達させた。
有栖達は見た。遠くに立ち上がった巨大な王の姿を。
「ハムスター?」
それは巨大なハムスターの姿をしていた。この地で人々に願われた思いが悪霊王にその姿を取らせたのかもしれない。だが、霊の中でも上級、さらにその中でも王クラスと言われるだけあって、その威容は周囲の者達を震わせるのに十分なものだった。
「悪霊王ヴァムズダーが……め、目覚めた……」
芽亜は自分で呼び出したはずなのに、その存在に怯えていた。
それほどまでに王は下級霊などとは格が違っていたのだ。
「あたし、なんであんなのを……」
芽亜は身を縮こまらせて震えてしまう。その声にはただ後悔だけがあった。
舞火や天子もさすがに驚きを隠せなかった。
エイミーも瞳を見開いて見つめている。
「大変なのが出てきたわね」
「あれとどう戦えって言うのよ」
「大きいです」
三人はそれぞれに感想を漏らす。
芽亜はもう震えて声を出すことも出来なかった。
ぎゅっと目を瞑るその彼女の頭に優しい手が置かれた。芽亜は見上げる。優しい友達の手だった。
「有栖ちゃん……」
「大丈夫。あれはわたしが祓います」
有栖はみんなの前に歩み出た。悪霊王はこちらに気づいていないようだ。向かってはこない。今は自分の現れた周囲の状況を確認しているようだ。
だが、動き出すのは時間の問題だ。
「有栖ちゃん、どうするの?」
問いかける舞火に有栖は決意を込めて答えた。
「神様を召喚します!」
迷うことはなかった。時は来た。
有栖は懐から一枚の札を取り出し、念じる。
両親の思い、そしてより大きな存在の力を感じる。
「遥か高き月より来たれり彼の者は」
祝詞を唱え出す有栖の体から光が立ち上る。
悪霊王ヴァムズダーはその光を見上げた。暗い空に昇っていく光。
それは月まで届くかのようだ。
「地上に出でて我ら守護して奉る」
近く、有栖の姿を見つけた有象無象の悪霊達が有栖を狙って襲ってきた。
それを舞火と天子が箒で叩き落とす。
「つまり、わたし達がやるのはその間のザコ退治ってことね」
「ザコ退治ならもう慣れたものよ!」
「ミーもやるです!」
戦いが繰り広げられる。
巫女達の賢明に戦う姿を見て、芽亜は自分の過ちに気が付いた。
「そうか、巫女さん達は……みんなのために戦っているんだ……」
有栖の放つ美しい声と光に涙を流し、ずっと自分を縛っていた物から解放された芽亜は静かに瞳を閉じ、気を失った。
地上で戦いが繰り広げられる。
悪霊達は次々と向かっていき、次々と巫女達の手によって退散させられていった。
こまいぬ太も悪霊に飛びつくが、ひらりと避けられてしまう。ぴょんぴょんと飛び跳ねているその姿は遊んでいるだけのように見えるが牽制の役には立っているようだ。
光の昇る空を見上げていた悪霊王ヴァムズダーも地上の様子に気が付いた。
その見られるだけで相手を畏怖させる瞳が、有栖の姿を捉えた。
その足が踏み出される、その前に……
有栖の儀式は完成した。最後の祝詞を読み上げる。
「この地に顕現し、おいでませ! 我が神社の守り神。宇佐ノ命よ!」
光が爆発し、巨大な何かが現れる。それは純白で神々しい兎の姿をしていた。これこそ伏木乃神社の守り神、宇佐ノ命だ。
有栖はその兎の頭上に立っていた。夜風に髪をなびかせ、巨大と思っていた悪霊王を見下ろす。悪霊王は巨大だが、宇佐ノ命の方が大きい。それに、
「グオオオオオオ!!」
悪霊王が地響きを立て咆哮を上げて向かってくる。その突進を
「ぐひゃあああん!!」
宇佐ノ命はただのグーパンチで殴り返した。悪霊王は悲鳴を上げて遊具を巻き込みながら地面を転がっていった。
「「「強い!!」」」
みんなが歓声を上げる中、有栖はさらに霊力を高めていく。神が力を貸してくれている。それに合わせ、それに乗る。
そこにあるのは神と巫女の儀式。
宇佐ノ命の前面に強い純白の霊力の渦が巻き起こっていく。
悪霊王が起き上がり、牙を剥き、爪を伸ばす。
有栖の準備は出来ていた。
「行け!」
「やれ!」
「ねじふせろです!」
「ワンワン!」
「ハッ!!」
みんなの声援を受け、有栖は溜めたエネルギーを一気に放出した。宇佐ノ命から純白の霊力光線が発射される。
まばゆく神々しいその光は、周囲の悪霊達を消し去っていき、悪霊王の姿をもその中に呑み込んでいく。
悪霊王はもがくが、無駄なあがきだ。光の中にその姿は消えていく。
悪霊王ヴァムズターは確かに強い。その実力は霊の中でも上級で、さらにその中でも王クラスと呼ばれるほどだ。
だが、いかに王とはいえ、神に比べればその存在は塵に等しいものだ。
神の力の前では、王はただ震え、怯え、滅せられるしかない。
「悪霊退散!!」
有栖の掛け声とともに霊力の光は爆発し、遊園地の全てを白く包み込んでいく。
それが収まった頃、辺りは静まりかえり、悪霊達の姿は消えていた。
宇佐ノ命の姿も消えていき、有栖は地に降り立った。
「終わりました」
振り返り、戦いの終了を告げる有栖に、みんなが駆け寄って祝福した。
結界が解かれ、長い夜が明けていく。
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