巫女てんてこまい

けろよん

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第一章 巫女てんてこまい

第15話 学校のある朝

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 朝が来た。
 有栖は体に何かが巻き付いているのに気が付いて目が覚めた。

「何これ、重い……」

 どけようとして気が付く。これはパジャマを着た人の腕だ。
 それを辿って横を見ると、眠っているエイミーの顔がすぐ間近にあった。

「うわあ! エイミー!」

 びっくりして飛び起きる。隣の蒲団にいたはずのエイミーがいつの間にか有栖の蒲団に入ってきていたのだ。
 有栖の声でエイミーも目覚めた。ぼんやりと起き上がる。
 起こして悪かったかと有栖は思ったが、もう起きたのなら仕方が無かった。

「おはようございます、エイミーさん」

 有栖は挨拶するが、エイミーの目はぼんやりとしていて聞いていないようだった。
 やがて、はっとして気が付いたようだ。
 驚いたような顔をして有栖を見上げて言ってきた。

「ありのまま今起こったことを話すです。ミーは隣の蒲団で寝ていた。ところが目覚めると有栖の蒲団にいた。何を言っているか分からないと思いますが……」
「はいはい、分かったから、顔を洗って服を着替えてこようね」
「ふあ~い」

 エイミーは大きなあくびをして洗面所に向かっていった。



 今日は学校のある日だ。
 有栖が制服に着替えて朝食の準備をしていると、巫女服に着替えたエイミーがやってきた。
 エイミーはもうすっきり目が覚めたらしく、良い笑顔をしていた。

「おはようです、有栖。おや、その服は……」
「おはようございます、エイミーさん。この服は……」

 有栖が答える前に、エイミーは目を光らせて答えた。

「アニメのコスプレですね。ミー、知ってるですよ。日本では夏にコミケという催しがあって、そこではみんなアニメのコスプレをするのです」

 エイミーは日本にあらぬ誤解を持っているようだった。有栖はその誤解を解くことにした。

「いえ、これは学校の制服です。コミケとか知らないし」
「なんと! 有栖は学生だったのですか!」

 エイミーは驚いたようだった。外国人らしいオーバーな反応をしていた。外国人がみんなエイミーのようだとは限らないだろうけど。

「しっかりしているし、働いているから、てっきり社会人だと思っていました」

 有栖は今まで年下に見られることはあっても、そう言われたのは初めてのことだった。
 それが誇らしいことのように思えた。
 席に付き、朝食を取りながら訊く。

「エイミーさんは学校には行かないんですか?」
「ミーはもう休学届けを出してきました。日本を体験することがミーの今の勉強です」
「へえ」

 外国はやはりいろいろ違うらしい。訊いてみたかったが、もう時間がなかった。
 エイミーが家にいるなら今日やることを指示しておかなければいけない。
 でも、何をやってもらえばいいんだろう。何をやるにももう説明する時間が無いように思えた。
 有栖が悩んでいると、エイミーが助け舟を出してきた。

「神社のことなら心配ご無用ですよ。ここに巫女の仕事のことをまとめてプリントアウトしたマニュアルがあるのです!」

 エイミーは取り出した紙の束を叩いて言った。

「へえ、それはどうしたんですか?」

 有栖はてっきり父がそういった物を用意してくれたのだろうかと思って訊いたのだが、

「ネットで調べておいたのです! えっへん」
「ネット?」

 その答えが想像と違っていて首を傾げてしまった。
 ともあれ時間がない。ある程度でも知っているなら問題はないだろう。
 後の事をエイミーに任せて、有栖は学校に出かけて行った。



 学校はいつも通り賑やかだ。
 有栖が教室に入って席に付くと、友達の芽亜がいつもの人懐こい笑みをして話しかけてきた。

「おはよう、有栖ちゃん。何だか最近機嫌が良さそうだよね」
「そうですか?」
「うん、お父さんが出て行って心配してたんだけど。神社の仕事、大変じゃないの?」
「それは……」

 有栖は父の紹介でエイミーが来て、一緒に住んでいることを話した。
 有栖としては何も心配は無いからと話したつもりだったのだが、芽亜の顔は不安で陰っただけだった。

「大丈夫なの? 外国の人って恐くない?」

 エイミーのことを知らない芽亜からしたら、そう思うのも無理はないかもしれない。

「大丈夫ですよ。エイミーさんは良い人だし、外国の名門貴族の娘さんで身なりもしっかりしてるし、父の紹介もあります」
「外国の名門貴族の娘さんがどうして有栖ちゃんの神社に住んでるの?」

 そう言われても有栖も困ってしまうのだが、

「日本の文化に興味があると言っていました」
「そう。何でもいいから気を付けてね。それじゃ」

 休み時間の終わりが近づいて、芽亜は自分の席に戻って行った。
 チャイムが鳴って先生が来て授業が始まる。
 いつもと変わらない平凡な授業だが、最近少し楽しくなってきた気がする。
 有栖はそう感じていた。
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