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第一章 巫女てんてこまい
第7話 幼馴染みの再会
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翌朝、その天子がやって来た。
神社の階段を昇って来た彼女に、早速こまいぬ太が元気に駆け寄っていく。
「ほら、ファミチキ買ってきたわよ。もう、そんなにがっつかないの」
「ワンワン!」
こまいぬ太は渡されたその食べ物を器用に食べ始めた。その様子を少し眺めてから天子は有栖に声を掛けてきた。
「おはよう、有栖」
「おはようございます」
「この時間でよかったの? お兄ちゃんに訊いたんだけど、神社の仕事ってもっと早くからやる物らしいけど」
時刻は朝の九時だ。よそはどうか知らないけど、有栖は別に遅いとは思っていなかった。
父もわりと気ままな人だったし、ここの仕事は主に午後にやることの方が多かった。
天子は神社の様子をさっと視線で眺めてから訊ねてきた。
「それで何をやったらいいの? 掃除はもう終わってるのよね」
昨日の夕方にかけて舞火がやってくれたので今朝はまだ綺麗だった。もう今日は必要ないと一目で分かる綺麗さだった。
「とりあえず着替えますか?」
有栖は昨日の舞火とのことを思い出して言った。
「そうね。巫女服を着ないと巫女は始まらないものね」
そうとも限らないが、あえて反論する必要も無いので有栖は素直にうなづいた。
天子も舞火と同じくやる気に満ちていた。父にくっついて何となく巫女の仕事を続けていた有栖の方がその意気込みに困惑するぐらいだった。
「案内しますからついてきてください」
有栖は昨日舞火にしたのと同じように天子を案内した。
一度やったことなので今日はもう慣れたものだった。
天子も神社の中は珍しいようだった。
「子供の頃に神社に来たことはあったんだけど、中にまで入ったことはなかったんだよね」
「そうなんですか」
それなら会ったこともあるのかもしれない。
記憶の中を探っても無かったが。
年末年始の参拝客は大勢いるし、お互い知らない子供同志なら気づかなくても仕方ないのかもしれない。
有栖も自分のことで体一杯で、他人のことまで意識していなかったし。
「いつだったか初詣に来た時にね。お兄ちゃんが巫女さんって良いなと言いだして、それを聞いた舞火が自分も巫女さんをやるって騒いで怒られてね。あれはおかしかったなあ」
「それは見てみたかったです」
有栖には騒いでいる舞火というのが想像出来なかった。
この神社であったことなら自分も見ていてもおかしくはなかったが、記憶にないということはきっと応対したのはバイトの巫女さんだったのだろう。
有栖はもったいないことをしたと思った。
そして、これからはもっと人のことを見ておこうと思った。
天子は親しげに話を続ける。
友達のことを話すのは楽しいものだ。
その気持ちは有栖にもよく理解出来ていた。
「あ、舞火というのはあたしの小学の頃の幼馴染でね」
「知っています」
「知っているんだ。さすがは神社の人ね」
「はい」
何がさすがかは分からなかったが、天子は納得しているようだった。
有栖は部屋に入ってタンスの中から目的の物を取り出し、天子にそれを手渡した。
天子は白と赤が特徴的なその巫女服を手に取って眺めた。
「へえ、これが巫女服なのね。霊験あらかたそう」
「これを着ると神様のご加護が得られて霊力がアップするんです」
「そういう設定なの?」
「設定?」
有栖は首を傾げた。有栖としては事実を正直に伝えただけのつもりだったのに、どこから設定なんて単語が出て来るのか分からなかった。
巫女服には女性の霊力を高める効果がある。それは事実なのだ。
天子は、
「ちょっと、お兄ちゃんに毒されちゃったかな」
と苦笑して服を見つめた。
そして、気を取り直したようにそれを手元に寄せた。
「まあいいわ。着替えるから」
「では、手本を見せますから」
有栖が脱ぐ素振りを見せると、天子はそれを止めた。
「いいって。これぐらい分かるから」
「そうですか?」
少し落胆する有栖。天子は服を脱ぎ始めた。
彼女も当然だが有栖より大きい。舞火ほどではなかったけれど。
そう思いながら見ていると、有栖の背後でふすまが開いた。現れたのは今日はまだ私服を着ている舞火だ。
服を脱いでいた途中の天子の手が驚いて止まった。その瞳がわなないて震えている。
有栖は不思議に思って舞火を見つめた。
「舞火さん、仕事の時間にはまだ早いですが」
「ええ、知ってるわ。わたしは天子に会いに来たのよ」
「ああ、友達ですもんね」
有栖が答えた時だった。天子の口が爆発するように開いた。
「やっぱり、舞火! なぜあなたがここに!?」
「うちで雇っているんです」
獣の雄たけびのような天子の声に、有栖は涼しく答えた。
きっと幼馴染の二人は再会して喜んでいるのだろうと、有栖は当然のように思っていた。
「感動的な再会ね、天子」
舞火の言葉もそれを保証するものだった。
有栖は呑気に二人を見比べた。その時、突然地面が揺れた。
地震でもこの神社なら大丈夫と有栖が思っていると、それは地震ではなくて、天子が足で畳を踏み叩いていただけだった。
「なあにが感動的な再会よ」
怒った顔の天子はちょうど間にいた有栖の肩を押しのけて前に出た。
舞火の前に立ちはだかり、指を突きつける。
「小学校の頃に受けた数々の仕打ち、あたしはまだ忘れてないんだからね!」
そんな天子の怒気を舞火は涼しい風のように受け流した。
「わたしに勝てないから逃げたのよね。勉強でもスポーツでも他のいろんな分野でも」
「逃げてない! 家庭の事情でやむを得なかったのよ。あたしはもうあの頃のあたしじゃない。今日こそ決着を付けてやるわ!」
「だそうだけど、どうしよう有栖ちゃん」
話を振られて有栖は考える……二人は仲が良いのだろうか。それとも喧嘩するほど仲がいいのだろうか。
よく分からなかったけれど、今日やることは決めていた。
「今日はちょうど戦いの訓練をしようと思っていたんです」
それは戦いという言葉から想像するものよりは、どちらかというと現場で悪霊から身を守る心構え程度のものだったのだけれど、
「それはいいわね。巫女さんとして優雅に戦ってこいつを叩きのめそうかしら」
舞火が不敵に笑い、
「あの頃の借りをこの戦いで百憶倍にして返してやるわ!」
天子が啖呵を切る。
二人は結構好戦的だった。
有栖としてはハラハラとしながら見守るしかなかった。
自分が喜んでいるのか興奮しているのかよく分からなかった。
でも、幼馴染の二人が再会したのだから何も悪いことになるはずはなかった。
有栖の周囲にいた人達はいつも大人で、みんな自分の分というものを弁えていた。
学校のクラスメイト達もみんな騒いでいながらも仲が良かった。
何が起こってもみんないつの間にか仲直りをして笑い合っていた。
だから有栖は何の心配もしていなかった。
二人は幼馴染だからこそ競っているのだ。そう信じることが出来た。
「じゃあ、巫女さんの服に着替えようかな」
戦うと決まり、それまで入り口に立っていた舞火が部屋に入ってきて服を脱ぎ始めた。
「ぐぬぬ」
これみよがしに着替える彼女を見て天子が悔しそうに歯ぎしりしていた。
スタイルの違いを気にしているのだろう。
それぐらいのことは有栖にも理解出来ていた。
神社の階段を昇って来た彼女に、早速こまいぬ太が元気に駆け寄っていく。
「ほら、ファミチキ買ってきたわよ。もう、そんなにがっつかないの」
「ワンワン!」
こまいぬ太は渡されたその食べ物を器用に食べ始めた。その様子を少し眺めてから天子は有栖に声を掛けてきた。
「おはよう、有栖」
「おはようございます」
「この時間でよかったの? お兄ちゃんに訊いたんだけど、神社の仕事ってもっと早くからやる物らしいけど」
時刻は朝の九時だ。よそはどうか知らないけど、有栖は別に遅いとは思っていなかった。
父もわりと気ままな人だったし、ここの仕事は主に午後にやることの方が多かった。
天子は神社の様子をさっと視線で眺めてから訊ねてきた。
「それで何をやったらいいの? 掃除はもう終わってるのよね」
昨日の夕方にかけて舞火がやってくれたので今朝はまだ綺麗だった。もう今日は必要ないと一目で分かる綺麗さだった。
「とりあえず着替えますか?」
有栖は昨日の舞火とのことを思い出して言った。
「そうね。巫女服を着ないと巫女は始まらないものね」
そうとも限らないが、あえて反論する必要も無いので有栖は素直にうなづいた。
天子も舞火と同じくやる気に満ちていた。父にくっついて何となく巫女の仕事を続けていた有栖の方がその意気込みに困惑するぐらいだった。
「案内しますからついてきてください」
有栖は昨日舞火にしたのと同じように天子を案内した。
一度やったことなので今日はもう慣れたものだった。
天子も神社の中は珍しいようだった。
「子供の頃に神社に来たことはあったんだけど、中にまで入ったことはなかったんだよね」
「そうなんですか」
それなら会ったこともあるのかもしれない。
記憶の中を探っても無かったが。
年末年始の参拝客は大勢いるし、お互い知らない子供同志なら気づかなくても仕方ないのかもしれない。
有栖も自分のことで体一杯で、他人のことまで意識していなかったし。
「いつだったか初詣に来た時にね。お兄ちゃんが巫女さんって良いなと言いだして、それを聞いた舞火が自分も巫女さんをやるって騒いで怒られてね。あれはおかしかったなあ」
「それは見てみたかったです」
有栖には騒いでいる舞火というのが想像出来なかった。
この神社であったことなら自分も見ていてもおかしくはなかったが、記憶にないということはきっと応対したのはバイトの巫女さんだったのだろう。
有栖はもったいないことをしたと思った。
そして、これからはもっと人のことを見ておこうと思った。
天子は親しげに話を続ける。
友達のことを話すのは楽しいものだ。
その気持ちは有栖にもよく理解出来ていた。
「あ、舞火というのはあたしの小学の頃の幼馴染でね」
「知っています」
「知っているんだ。さすがは神社の人ね」
「はい」
何がさすがかは分からなかったが、天子は納得しているようだった。
有栖は部屋に入ってタンスの中から目的の物を取り出し、天子にそれを手渡した。
天子は白と赤が特徴的なその巫女服を手に取って眺めた。
「へえ、これが巫女服なのね。霊験あらかたそう」
「これを着ると神様のご加護が得られて霊力がアップするんです」
「そういう設定なの?」
「設定?」
有栖は首を傾げた。有栖としては事実を正直に伝えただけのつもりだったのに、どこから設定なんて単語が出て来るのか分からなかった。
巫女服には女性の霊力を高める効果がある。それは事実なのだ。
天子は、
「ちょっと、お兄ちゃんに毒されちゃったかな」
と苦笑して服を見つめた。
そして、気を取り直したようにそれを手元に寄せた。
「まあいいわ。着替えるから」
「では、手本を見せますから」
有栖が脱ぐ素振りを見せると、天子はそれを止めた。
「いいって。これぐらい分かるから」
「そうですか?」
少し落胆する有栖。天子は服を脱ぎ始めた。
彼女も当然だが有栖より大きい。舞火ほどではなかったけれど。
そう思いながら見ていると、有栖の背後でふすまが開いた。現れたのは今日はまだ私服を着ている舞火だ。
服を脱いでいた途中の天子の手が驚いて止まった。その瞳がわなないて震えている。
有栖は不思議に思って舞火を見つめた。
「舞火さん、仕事の時間にはまだ早いですが」
「ええ、知ってるわ。わたしは天子に会いに来たのよ」
「ああ、友達ですもんね」
有栖が答えた時だった。天子の口が爆発するように開いた。
「やっぱり、舞火! なぜあなたがここに!?」
「うちで雇っているんです」
獣の雄たけびのような天子の声に、有栖は涼しく答えた。
きっと幼馴染の二人は再会して喜んでいるのだろうと、有栖は当然のように思っていた。
「感動的な再会ね、天子」
舞火の言葉もそれを保証するものだった。
有栖は呑気に二人を見比べた。その時、突然地面が揺れた。
地震でもこの神社なら大丈夫と有栖が思っていると、それは地震ではなくて、天子が足で畳を踏み叩いていただけだった。
「なあにが感動的な再会よ」
怒った顔の天子はちょうど間にいた有栖の肩を押しのけて前に出た。
舞火の前に立ちはだかり、指を突きつける。
「小学校の頃に受けた数々の仕打ち、あたしはまだ忘れてないんだからね!」
そんな天子の怒気を舞火は涼しい風のように受け流した。
「わたしに勝てないから逃げたのよね。勉強でもスポーツでも他のいろんな分野でも」
「逃げてない! 家庭の事情でやむを得なかったのよ。あたしはもうあの頃のあたしじゃない。今日こそ決着を付けてやるわ!」
「だそうだけど、どうしよう有栖ちゃん」
話を振られて有栖は考える……二人は仲が良いのだろうか。それとも喧嘩するほど仲がいいのだろうか。
よく分からなかったけれど、今日やることは決めていた。
「今日はちょうど戦いの訓練をしようと思っていたんです」
それは戦いという言葉から想像するものよりは、どちらかというと現場で悪霊から身を守る心構え程度のものだったのだけれど、
「それはいいわね。巫女さんとして優雅に戦ってこいつを叩きのめそうかしら」
舞火が不敵に笑い、
「あの頃の借りをこの戦いで百憶倍にして返してやるわ!」
天子が啖呵を切る。
二人は結構好戦的だった。
有栖としてはハラハラとしながら見守るしかなかった。
自分が喜んでいるのか興奮しているのかよく分からなかった。
でも、幼馴染の二人が再会したのだから何も悪いことになるはずはなかった。
有栖の周囲にいた人達はいつも大人で、みんな自分の分というものを弁えていた。
学校のクラスメイト達もみんな騒いでいながらも仲が良かった。
何が起こってもみんないつの間にか仲直りをして笑い合っていた。
だから有栖は何の心配もしていなかった。
二人は幼馴染だからこそ競っているのだ。そう信じることが出来た。
「じゃあ、巫女さんの服に着替えようかな」
戦うと決まり、それまで入り口に立っていた舞火が部屋に入ってきて服を脱ぎ始めた。
「ぐぬぬ」
これみよがしに着替える彼女を見て天子が悔しそうに歯ぎしりしていた。
スタイルの違いを気にしているのだろう。
それぐらいのことは有栖にも理解出来ていた。
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