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第二章 新たな道へ
第33話 やってきた人達
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翼達は自転車に乗って結菜の学校の校門の前まで来た。
先頭を走っていた翼がそこでブレーキをかけて自転車を降りたので、後に続いていた叶恵と姫子と苺もそれに倣った。
結菜が通っているのはどこにでもあるような平凡な高校だ。姫子は近くまで来た事はあったが、校門の前まで来たのは初めてだった。
門のところにいた守衛が声を掛けてくる。
「ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ」
今はどこの学校にも部外者が立ち入らないように見張りがいる。だから翼もいきなり校内に踏み入るような不躾な真似はしなかった。
翼はとても庶民的なこの場に似合わないたおやかなお嬢様の笑みと気品で答えた。
「こちらの生徒に用があって伺いましたの。生徒会長の渚さんに取り次いでいただけますか?」
守衛のおじさんは見るからにうろたえた。
「こ、これは翼様でしたか。ただいま」
さすがに翼は顔が広いようだ。叶恵にとっては当たり前の光景のようだが、姫子と苺は感心してしまう。
彼はすぐそこの建物に行って電話を掛け、すぐに戻ってきた。
「会長の渚は生徒会室でお待ちです。あの、ここにサインを。来客者はみんな書く決まりになっておりますので」
「分かりました」
翼はボールペンを受け取って実に優雅な動作で文字を書いていく。苺も守衛もその動作に見とれていた。
書き終わったそのノートを守衛のおじさんは実に大事そうに胸に抱いた。
「おお、翼様にサインをいただけるなんて今日はなんて幸せな日なんだー!」
そのオーバーな反応に翼はちょっと引いていた。
「あの、他の者達のサインは」
「必要ありません! 翼様のものだけで結構です!」
「そうですか」
ボールペンを返すと守衛は鼻息を荒くしてそれを胸ポケットにしまった。
「駐輪場はあちらになります。よければ自転車は私が運んでおきましょうか」
「そこまでご迷惑をお掛けするわけにはいきませんわ。これからもお仕事を頑張ってください」
「はい!」
かなり元気な様子の守衛に見送られて、翼達は自転車を押して校内に足を踏み入れていった。
結菜と美久は緊張しながら渚の前に座っていた。
「あの、もう用が無いのならこの辺で」
結菜は腰を浮かそうとしたのだが、白い少女は呼び止めた。
「待って。今呼んでいる人がいるの」
待てと言われたら結菜は待つしかない。それは隣に座る美久も同じだ。
何かを話す間もなく、待ち時間はすぐに終わった。
生徒会室のドアをノックする音がした。入ってきたのは銀河と麻希だった。
「姉ちゃん、連れてきた」
「失礼します」
魔王と呼ばれて数々のことをしてきた麻希だったが、彼女は基本的には礼儀正しい。先生の良い生徒である事が彼女のポリシーなのだ。
「マッキー!」
今まで緊張していた美久が喜びに声を弾ませて麻希を出迎えていった。
「ちょっと離れなさい。気持ち悪いわよ」
麻希はくっつこうとする美久を引きはがそうとする。渚はそんな二人を見ながら声を掛けた。
「あなたが黒田麻希さんね」
「そうですけど、何かわたしに用でしょうか」
上級生であり生徒会長でもある彼女を前にして、麻希は美久を離してきちんと立つ。
渚は言う。
「あなたに一つ訊こうと思っていたことがあったの。全然たいしたことがないちょっと気になっただけのことを訊きたいんだけど、いいかしら」
「はい」
麻希は冷静に答える。結菜は渚がどんな質問をするのだろうと気になった。
もし未来やストリートフリーザーのことを訊ねられたら麻希はどう答えるのだろう。結菜は聞き耳を立てたが、渚が訊ねたのは全く結菜の意識していないことだった。
「あなた、鷹の右腕と呼ばれる黒田叶恵さんとは何か関係があるの?」
「え……」
麻希は明らかに動揺していた。冷静だった眼鏡の下の瞳を震わせて、声を失って硬直していた。
鷹の右腕、黒田叶恵、どちらも結菜には全くなじみの無い名前だ。それが何の意味を持つのか全く分からなかった。
麻希は視線を彷徨わせてから答えた。その手を震わせながら、
「し……知らないわ。どうしてそんなことを訊くのか分からないわね」
「その叶恵っていう子が今わたしの友達の近くにいるのよね。同じ名字だし、何か知っていることがあったら聞きたいと思ったんだけど」
「全然知らないわね。まったく関係がない。赤の他人だわ。わたしのことは放っておいて欲しい」
「そう、ならいいわ」
渚は澄んだ顔をして流したが、美久にはぴんと来た。麻希が恐れる相手なんて一人しかいない。
だが、口止めをされていたので黙っておくことにした。
「あ、ちょっと待って」
その時、電話が掛かってきて、渚はテーブルの上の受話器を取った。
「そう、分かったわ。みんなここに来てるから通してください」
そう簡単な連絡をして受話器を置く。
「向こうから来てくれたみたいね。あなた達、悪いんだけどもうちょっとここにいて」
いてと言われたらいるいかない。
渚に言われてみんなは待つことになった。
翼と叶恵のあとをついて校内の廊下を歩きながら姫子は落ち着きがなかった。横を歩く苺が肘で突いて小声で囁きかけてくる。
「姫ちゃん、おろおろしない」
「だって」
放課後で人は減っているといっても誰もいないわけではなかった。
道行く人みんなに注目されているように姫子には思えた。
「翼様、少しお時間をいただいてよろしいでしょうか」
「なんです? 叶恵さん」
その時、突然叶恵がそんなことを言いだして二人は足を止めた。
姫子と苺も足を止める。
姫子は何かあったのだろうかと思ったが、立ち止まった叶恵が振り向いて声を掛けてきたのは姫子にだった。
叶恵はおしとやかなお嬢様の雰囲気を感じさせる少女だが、その時の視線は少し厳しかった。
「姫子さん、あなたに言っておくことがあります。わたし達は伝統と由緒ある我が校の代表としてここへ来ているのです。そうおどおどとせず、もっと堂々としゃんとしなさい。あなたの態度でみんなが評価されるのですよ」
「すみません」
姫子はしゅんとしてしまう。何だか叶恵には前から注意ばかり受けている気がする。
最初は好意的に悩みを聞いてもらったのに、申し訳なさに底なしの深みに沈みそうになってしまう。
叶恵はまだ何かを言いかけたが、翼が止めた。
「まあ、そう目くじらを立てなくてもいいではありませんか。姫子さんはまだ一年生なのですし、ここに無理を言って連れてきたのはわたくしなのですから。勇者の友人だからと軽い気持ちで連れてきたわたくしの配慮が足りなかったのです」
「いえ、翼様が悪いわけではありません。出過ぎた真似を言ってしまいました」
翼に言われて叶恵はおとなしく引き下がった。
自分がふがいないから気を使わせてしまっている。落ち込む姫子に翼は声を掛けた。
「姫子さん、慣れない場所へ来て大変でしょうが、今はわたくし達がついていますから。どうしても駄目なようなら引き返すことも考えますから言ってください」
「そんな、とんでもない。わたしの方こそ。叶恵さんに怒られるのも無理はないんです」
「姫子さん、わたしは別に怒っているわけではないのですよ」
「もう、姫ちゃんが変に緊張しているからみんな心配しているんじゃない」
「すみません、そうですよね。わたしもっと堂々としないと」
「慣れない場所に来て緊張はするでしょうが、今はわたくしを信頼してついてきてください」
「はい」
姫子の返事を笑顔で受けて、翼は踵を返して再び歩き出す。
その力強い足取りの後を姫子は見つめながらついていった。
先頭を走っていた翼がそこでブレーキをかけて自転車を降りたので、後に続いていた叶恵と姫子と苺もそれに倣った。
結菜が通っているのはどこにでもあるような平凡な高校だ。姫子は近くまで来た事はあったが、校門の前まで来たのは初めてだった。
門のところにいた守衛が声を掛けてくる。
「ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ」
今はどこの学校にも部外者が立ち入らないように見張りがいる。だから翼もいきなり校内に踏み入るような不躾な真似はしなかった。
翼はとても庶民的なこの場に似合わないたおやかなお嬢様の笑みと気品で答えた。
「こちらの生徒に用があって伺いましたの。生徒会長の渚さんに取り次いでいただけますか?」
守衛のおじさんは見るからにうろたえた。
「こ、これは翼様でしたか。ただいま」
さすがに翼は顔が広いようだ。叶恵にとっては当たり前の光景のようだが、姫子と苺は感心してしまう。
彼はすぐそこの建物に行って電話を掛け、すぐに戻ってきた。
「会長の渚は生徒会室でお待ちです。あの、ここにサインを。来客者はみんな書く決まりになっておりますので」
「分かりました」
翼はボールペンを受け取って実に優雅な動作で文字を書いていく。苺も守衛もその動作に見とれていた。
書き終わったそのノートを守衛のおじさんは実に大事そうに胸に抱いた。
「おお、翼様にサインをいただけるなんて今日はなんて幸せな日なんだー!」
そのオーバーな反応に翼はちょっと引いていた。
「あの、他の者達のサインは」
「必要ありません! 翼様のものだけで結構です!」
「そうですか」
ボールペンを返すと守衛は鼻息を荒くしてそれを胸ポケットにしまった。
「駐輪場はあちらになります。よければ自転車は私が運んでおきましょうか」
「そこまでご迷惑をお掛けするわけにはいきませんわ。これからもお仕事を頑張ってください」
「はい!」
かなり元気な様子の守衛に見送られて、翼達は自転車を押して校内に足を踏み入れていった。
結菜と美久は緊張しながら渚の前に座っていた。
「あの、もう用が無いのならこの辺で」
結菜は腰を浮かそうとしたのだが、白い少女は呼び止めた。
「待って。今呼んでいる人がいるの」
待てと言われたら結菜は待つしかない。それは隣に座る美久も同じだ。
何かを話す間もなく、待ち時間はすぐに終わった。
生徒会室のドアをノックする音がした。入ってきたのは銀河と麻希だった。
「姉ちゃん、連れてきた」
「失礼します」
魔王と呼ばれて数々のことをしてきた麻希だったが、彼女は基本的には礼儀正しい。先生の良い生徒である事が彼女のポリシーなのだ。
「マッキー!」
今まで緊張していた美久が喜びに声を弾ませて麻希を出迎えていった。
「ちょっと離れなさい。気持ち悪いわよ」
麻希はくっつこうとする美久を引きはがそうとする。渚はそんな二人を見ながら声を掛けた。
「あなたが黒田麻希さんね」
「そうですけど、何かわたしに用でしょうか」
上級生であり生徒会長でもある彼女を前にして、麻希は美久を離してきちんと立つ。
渚は言う。
「あなたに一つ訊こうと思っていたことがあったの。全然たいしたことがないちょっと気になっただけのことを訊きたいんだけど、いいかしら」
「はい」
麻希は冷静に答える。結菜は渚がどんな質問をするのだろうと気になった。
もし未来やストリートフリーザーのことを訊ねられたら麻希はどう答えるのだろう。結菜は聞き耳を立てたが、渚が訊ねたのは全く結菜の意識していないことだった。
「あなた、鷹の右腕と呼ばれる黒田叶恵さんとは何か関係があるの?」
「え……」
麻希は明らかに動揺していた。冷静だった眼鏡の下の瞳を震わせて、声を失って硬直していた。
鷹の右腕、黒田叶恵、どちらも結菜には全くなじみの無い名前だ。それが何の意味を持つのか全く分からなかった。
麻希は視線を彷徨わせてから答えた。その手を震わせながら、
「し……知らないわ。どうしてそんなことを訊くのか分からないわね」
「その叶恵っていう子が今わたしの友達の近くにいるのよね。同じ名字だし、何か知っていることがあったら聞きたいと思ったんだけど」
「全然知らないわね。まったく関係がない。赤の他人だわ。わたしのことは放っておいて欲しい」
「そう、ならいいわ」
渚は澄んだ顔をして流したが、美久にはぴんと来た。麻希が恐れる相手なんて一人しかいない。
だが、口止めをされていたので黙っておくことにした。
「あ、ちょっと待って」
その時、電話が掛かってきて、渚はテーブルの上の受話器を取った。
「そう、分かったわ。みんなここに来てるから通してください」
そう簡単な連絡をして受話器を置く。
「向こうから来てくれたみたいね。あなた達、悪いんだけどもうちょっとここにいて」
いてと言われたらいるいかない。
渚に言われてみんなは待つことになった。
翼と叶恵のあとをついて校内の廊下を歩きながら姫子は落ち着きがなかった。横を歩く苺が肘で突いて小声で囁きかけてくる。
「姫ちゃん、おろおろしない」
「だって」
放課後で人は減っているといっても誰もいないわけではなかった。
道行く人みんなに注目されているように姫子には思えた。
「翼様、少しお時間をいただいてよろしいでしょうか」
「なんです? 叶恵さん」
その時、突然叶恵がそんなことを言いだして二人は足を止めた。
姫子と苺も足を止める。
姫子は何かあったのだろうかと思ったが、立ち止まった叶恵が振り向いて声を掛けてきたのは姫子にだった。
叶恵はおしとやかなお嬢様の雰囲気を感じさせる少女だが、その時の視線は少し厳しかった。
「姫子さん、あなたに言っておくことがあります。わたし達は伝統と由緒ある我が校の代表としてここへ来ているのです。そうおどおどとせず、もっと堂々としゃんとしなさい。あなたの態度でみんなが評価されるのですよ」
「すみません」
姫子はしゅんとしてしまう。何だか叶恵には前から注意ばかり受けている気がする。
最初は好意的に悩みを聞いてもらったのに、申し訳なさに底なしの深みに沈みそうになってしまう。
叶恵はまだ何かを言いかけたが、翼が止めた。
「まあ、そう目くじらを立てなくてもいいではありませんか。姫子さんはまだ一年生なのですし、ここに無理を言って連れてきたのはわたくしなのですから。勇者の友人だからと軽い気持ちで連れてきたわたくしの配慮が足りなかったのです」
「いえ、翼様が悪いわけではありません。出過ぎた真似を言ってしまいました」
翼に言われて叶恵はおとなしく引き下がった。
自分がふがいないから気を使わせてしまっている。落ち込む姫子に翼は声を掛けた。
「姫子さん、慣れない場所へ来て大変でしょうが、今はわたくし達がついていますから。どうしても駄目なようなら引き返すことも考えますから言ってください」
「そんな、とんでもない。わたしの方こそ。叶恵さんに怒られるのも無理はないんです」
「姫子さん、わたしは別に怒っているわけではないのですよ」
「もう、姫ちゃんが変に緊張しているからみんな心配しているんじゃない」
「すみません、そうですよね。わたしもっと堂々としないと」
「慣れない場所に来て緊張はするでしょうが、今はわたくしを信頼してついてきてください」
「はい」
姫子の返事を笑顔で受けて、翼は踵を返して再び歩き出す。
その力強い足取りの後を姫子は見つめながらついていった。
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