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朝から濃いよ……
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『おはよう』
俺の朝は天井に書かれた血文字を見ることからスタートする。
決して可愛らしい文字ではない、血文字なのだから。
血が滴りながら書かれたような文字はおどろおどろしさしかないから、最初の頃は毎朝驚いたし、心臓もバクバクしていたが、一ヶ月も経てばある程度の免疫はついた。
厄介なことにこの血文字、俺にしか見えないので、誰に話しても信じてはもらえない。
あぁ、友達の山本だけは「そ、そうか……大変だな……すまん」と信じてはくれたが、それ以外の人間に話したところで誰も信じない。
気が触れたとでも思われかねないため人に訴えることは諦めた。
血文字は俺が見たと分かると勝手に消える。
どういう仕組みなのか疑問だが、姿の見えない超非科学的存在がすることなのだからもう驚きもしない。
『おはよう』の文字が消えたと思ったら、再び血文字が、今度は窓に浮かび上がった。
『おはようの挨拶は?』
自己主張だけじゃなく、ガッツリこっちに要求してくるからタチが悪い。
「……おはよう」
仕方なくそう返すと窓の血文字がスッと消えたのだが、今度は長文が浮かび上がった。
『今日はいい天気よ! デート日和だと思わない? 学校も休みだしどこか二人でお出かけしない? 公園もいいけどたまにはウインドーショッピングなんかも素敵よね♡ 遊園地デートも憧れちゃう♡』
二人で出掛けるだと?
あっちは一緒に出かけてるつもりだろうが、俺からしてみれば勝手についてきているだけである。
そもそも血文字で意思表示はしてくるが姿形は一切見えない相手なのだ、デートもクソもあったもんじゃない。
ご丁寧にハートマークまで書き込んでいるが、可愛さなど皆無なおどろおどろしい血文字。そんなもんを見て心躍る高校生男子がどこにいるというのか。
『もー! また無視? 男子っていつもそうよね! プンプン! さすがの私でも怒っちゃうぞ!』
言葉のチョイスもちょいちょい古いし……。
「休み明けにテストがあるからどこにも出掛けねぇよ」
仕方なく返事を返すと『シクシク』という血文字が足元の床に浮かんできた。
『私が解答教えてあげるからお出かけしよ♡』
「それ、カンニングと変わらねぇだろうが」
『もう、侑くんは真面目すぎるぞ☆ そんなところもカッコイイんだけどね♡ キャー♡ 言っちゃった♡』
知らないやつが見たら窓を見ながら独り言を呟くヤバいやつだろうが、返事をしないとうるさくなるんだから仕方がない。
そしてハートマークや星マークがいちいちウザイ。
申し遅れたが俺は『神崎 侑太』。高校二年生の十六歳である。誕生日が遅いためまだ十七にはなっていない。
容姿は至って普通。
日本人特有の黒髪黒目で、髪型は床屋で適当に短くしてもらっているためこれが何ヘアーになるのかも分からない。
「じゃ、少しは小洒落た感じに見えるように前髪は少し梳かしておくかー」
床屋のおっちゃんがそんなことを言いながら切ってくれたため、前髪は眉下の長さで少しパラパラした感じにはなっている。
もみあげは自然な感じで、耳は全出し。刈り上げは嫌いなためハサミカットで襟足は短めにしてもらった。
目は薄い二重だが、多分世間の認識では一重に見えているだろう。
鼻も口も可もなく不可もなくといった感じで、全体的に印象は薄い方だと思う。アニメだったら確実にモブである。
身長は百七十三センチでこれまた普通。あと二センチ以上は欲しいとこだが、多分まだ成長期ではあると思いたいので将来に期待である。
恋人はいたことがない。
初恋は幼稚園の頃で、相手は「ミーちゃん」と呼ばれていたため女の子だと思っていたのだが、実は目鼻立ちがハッキリした美少女顔の男だったことが後に判明。
同じ幼稚園ではなかったため、呼ばれ方だけで女の子だと思い込んだ俺が悪いのだが、そのせいでしばらくミーちゃんの名を聞くのも嫌になった。
以降恋らしい恋なんてしてこなくて、気付いたら高二。
告白なんてもんもされたことがないため、彼女なんて出来たことはない。
しかし……しかしである。
今の俺には自称「婚約者」を名乗るやつがいる。
正確にはいると言っていいのか疑問だが、自己主張してくるのだからいるのだろう。
これは、俺とそいつの奇妙な同居生活の話である。
「なぁ? お前、いつ帰ってくれるの?」
『え? 私達結婚するのよ? 一生一緒じゃない』
「はぁ……」
どこの世界に姿も見えない、声も聞こえない、コミニュケーションは血文字のやり取りだけの相手と結婚するやつがいるってんだか。
『愛してるぞ♡』
窓に書かれたその文字を俺は虚無な心で見ていた。
『侑くん? お返事は?』
「……朝から濃いよ、色々と」
『もう! 侑くんは照れ屋さんなんだから! そんなところも可愛いぞ♡』
深いため息が零れた。
俺の朝は天井に書かれた血文字を見ることからスタートする。
決して可愛らしい文字ではない、血文字なのだから。
血が滴りながら書かれたような文字はおどろおどろしさしかないから、最初の頃は毎朝驚いたし、心臓もバクバクしていたが、一ヶ月も経てばある程度の免疫はついた。
厄介なことにこの血文字、俺にしか見えないので、誰に話しても信じてはもらえない。
あぁ、友達の山本だけは「そ、そうか……大変だな……すまん」と信じてはくれたが、それ以外の人間に話したところで誰も信じない。
気が触れたとでも思われかねないため人に訴えることは諦めた。
血文字は俺が見たと分かると勝手に消える。
どういう仕組みなのか疑問だが、姿の見えない超非科学的存在がすることなのだからもう驚きもしない。
『おはよう』の文字が消えたと思ったら、再び血文字が、今度は窓に浮かび上がった。
『おはようの挨拶は?』
自己主張だけじゃなく、ガッツリこっちに要求してくるからタチが悪い。
「……おはよう」
仕方なくそう返すと窓の血文字がスッと消えたのだが、今度は長文が浮かび上がった。
『今日はいい天気よ! デート日和だと思わない? 学校も休みだしどこか二人でお出かけしない? 公園もいいけどたまにはウインドーショッピングなんかも素敵よね♡ 遊園地デートも憧れちゃう♡』
二人で出掛けるだと?
あっちは一緒に出かけてるつもりだろうが、俺からしてみれば勝手についてきているだけである。
そもそも血文字で意思表示はしてくるが姿形は一切見えない相手なのだ、デートもクソもあったもんじゃない。
ご丁寧にハートマークまで書き込んでいるが、可愛さなど皆無なおどろおどろしい血文字。そんなもんを見て心躍る高校生男子がどこにいるというのか。
『もー! また無視? 男子っていつもそうよね! プンプン! さすがの私でも怒っちゃうぞ!』
言葉のチョイスもちょいちょい古いし……。
「休み明けにテストがあるからどこにも出掛けねぇよ」
仕方なく返事を返すと『シクシク』という血文字が足元の床に浮かんできた。
『私が解答教えてあげるからお出かけしよ♡』
「それ、カンニングと変わらねぇだろうが」
『もう、侑くんは真面目すぎるぞ☆ そんなところもカッコイイんだけどね♡ キャー♡ 言っちゃった♡』
知らないやつが見たら窓を見ながら独り言を呟くヤバいやつだろうが、返事をしないとうるさくなるんだから仕方がない。
そしてハートマークや星マークがいちいちウザイ。
申し遅れたが俺は『神崎 侑太』。高校二年生の十六歳である。誕生日が遅いためまだ十七にはなっていない。
容姿は至って普通。
日本人特有の黒髪黒目で、髪型は床屋で適当に短くしてもらっているためこれが何ヘアーになるのかも分からない。
「じゃ、少しは小洒落た感じに見えるように前髪は少し梳かしておくかー」
床屋のおっちゃんがそんなことを言いながら切ってくれたため、前髪は眉下の長さで少しパラパラした感じにはなっている。
もみあげは自然な感じで、耳は全出し。刈り上げは嫌いなためハサミカットで襟足は短めにしてもらった。
目は薄い二重だが、多分世間の認識では一重に見えているだろう。
鼻も口も可もなく不可もなくといった感じで、全体的に印象は薄い方だと思う。アニメだったら確実にモブである。
身長は百七十三センチでこれまた普通。あと二センチ以上は欲しいとこだが、多分まだ成長期ではあると思いたいので将来に期待である。
恋人はいたことがない。
初恋は幼稚園の頃で、相手は「ミーちゃん」と呼ばれていたため女の子だと思っていたのだが、実は目鼻立ちがハッキリした美少女顔の男だったことが後に判明。
同じ幼稚園ではなかったため、呼ばれ方だけで女の子だと思い込んだ俺が悪いのだが、そのせいでしばらくミーちゃんの名を聞くのも嫌になった。
以降恋らしい恋なんてしてこなくて、気付いたら高二。
告白なんてもんもされたことがないため、彼女なんて出来たことはない。
しかし……しかしである。
今の俺には自称「婚約者」を名乗るやつがいる。
正確にはいると言っていいのか疑問だが、自己主張してくるのだからいるのだろう。
これは、俺とそいつの奇妙な同居生活の話である。
「なぁ? お前、いつ帰ってくれるの?」
『え? 私達結婚するのよ? 一生一緒じゃない』
「はぁ……」
どこの世界に姿も見えない、声も聞こえない、コミニュケーションは血文字のやり取りだけの相手と結婚するやつがいるってんだか。
『愛してるぞ♡』
窓に書かれたその文字を俺は虚無な心で見ていた。
『侑くん? お返事は?』
「……朝から濃いよ、色々と」
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